戦争と平和 第4巻・第3部(11−2)銃弾、ペーチャの頭を貫通する。 | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

前方で銃声が聞こえていました。

コサック達、軽騎兵達、道の両側から駆け出して来たボロをまとったロシア人捕虜達が、みな大声でバラバラに何か叫んでいました。

青い外套の帽子を被らぬ1人のフランス兵が、真っ赤な恐ろしい形相で、銃剣を振って勇敢に軽騎兵達と渡り合っていました。

ペーチャが駆けつけた時、そのフランス兵はもう倒れていました。

 

『また、遅れたぞ』と、ペーチャはチラとこう思いました。

そして彼は、4発の銃声がした方へ突進して行きました。

銃声は、昨夜彼がドーロホフ と行ったあの地主屋敷の庭の中でした。

フランス兵達は、編垣の陰の濃い灌木の茂みに潜んで、門の辺りに群れているコサックを撃っていました。

門の側に駆けつけると、ペーチャは硝煙の中に、気味わるい程の蒼白い顔をしてコサックに何か怒鳴っているドーロホフ を見ました。

 

「包囲しろ❗️歩兵を待つんだ❗️」ペーチャが駆けつけた時、彼はこう叫んでいました。

「待つだって❓。。ウラアアア❗️。。」と、ペーチャは絶叫しました、そして一瞬も躊躇わずに銃声の響き渡る、硝煙のひときわ濃い地点を目指して、猛然と突進して行きました。

激しい銃声が起こり、弾丸が空中を飛び過ぎる唸りと、何かに当たる音が聞こえました。

コサック達とドーロホフ は、ペーチャを追って門内に突入して行きました。

 

ゆらゆら流れる濃い硝煙の中で、フランス兵は、ある者は銃を捨てて茂みの中からコサック達の方へ飛び出し、ある者は丘の下の池の方へ逃走し出しました。

ペーチャは地主屋敷の庭に沿って馬を走らせていました。

そして手綱を引こうとせずに、妙な格好で激しく両手を振り回しながら、鞍の上から次第に深く傾いて行きました。

と同時に、ペーチャは濡れた地面にどさりと投げ出されました。

その顔が少しも動かないのに、手と足が激しく震えるのを、コサック達は見ていました。

弾丸が頭を貫通したのでした。

 

軍刀の先にハンカチを縛り付けて家の内から出てきて、全員の降伏を申し出たフランスの古参士官と打ち合わせを終えると、ドーロホフ は馬を降りて、両手を投げ出してじっと横たわっているペーチャの側に歩み寄りました。

「あがりか。。」と、彼は眉をひそめて呟きました、そして馬を飛ばして来たデニーソフ を迎えに、門の方へ歩いて行きました。

「殺られたのか⁉️」と、まだ遠くからもう熟知している間違いの無い死の状態に、デニーソフ は叫びました。

「上がりだよ。」この言葉を口にすると、胸がスカッとでもするようにドーロホフ はこう繰り返すと、下馬したコサック達が取り巻いている捕虜達の方へ急ぎ足で近づいて行きました。

「捕虜は取らぬぞ❗️」と、彼はデニーソフ に叫びました。

 

デニーソフ は答えませんでした。

彼はペーチャの側へ行くと、馬を降りて、血と泥にまみれてもう青みを帯びたペーチャの顔を、震える両手で自分の方へ向けました。

『僕は甘い物の癖が付いてしまって、素敵な干し葡萄ですよ、どうぞ召し上がって』と言った言葉が思い出されました。

そしてコサック達がびっくりして振り向いた程、犬が吠えるような号泣と共にデニーソフ は急いで顔を背けると、編垣の側へふらふらと歩み寄るなり、なめり込むように顔を押し付けました。

 

デニーソフ とドーロホフに救い出されたロシア人捕虜の中に、ピエール・べズーホフも混じっていました。

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(解説)

ペーチャは自分が遅れを取っていると、必死に銃声が賑やかに聞こえている、昨夜ドーロホフと偵察に行った地主屋敷の庭に突進します。

そこでペーチャは硝煙の中に、気味わるい程の蒼白い顔をしてコサックに何か怒鳴っているドーロホフ を見ます。

ドーロホフは、「包囲しろ❗️歩兵を待つんだ❗️」と叫んでいました。

駆けつけたばかりで、一体何がどうなっているのかわからないのに、ペーチャは「待つだって❓。。ウラアアア❗️。。」と銃声が響き渡り、一番硝煙が濃い地点に向かって突進して行きます。

そこへ一発の弾丸が彼の頭を貫きます。

ドーロホフは、倒れたペーチャを見て「あがりか。。」と呟きました。

 

そして馬を飛ばして来たデニーソフ を迎えに、門の方へ歩いて行きました。

デニーソフ は、ペーチャが激戦地に突進した時から、『こうなる事』を分かっていたようでした。

「殺られたのか⁉️」と、デニーソフ は言いました。

「上がりだよ。」と、ドーロホフは、むしろ清々しくこの言葉を口にして捕虜達の方へ行ってしまいます。

『愚かな者弱い者は淘汰される。。それが軍人の世界だ。当然の成り行きだろ。』とでも言っているかのようです。

彼にとって愚かなペーチャの死は『犬死』に映ったのでしょう。。

 

デニーソフ は、血と泥にまみれたペーチャの顔をそっと自分の方へ向けました。

彼の頭には『僕は甘い物の癖が付いてしまって、素敵な干し葡萄ですよ、どうぞ召し上がって』と言った言葉が流れているのでした。

デニーソフ は、(ペーチャは軍人としてはお話にならない愚か者でしたが)彼の温かさをよく理解していたのですね。

だって、デニーソフ も『そういう人』だったから。。

ペーチャの死は、このデニーソフ の存在によって『犬死➡︎意味があるもの』と昇華したように思えます。

戦争さえ無ければ、彼はどんな愛を振りまいたのか。。とデニーソフ の中で呟いているような気がするんですよね、このシーン。

ここにトルストイの『静かな反戦思想』を読み取れるのですよ。

 

そして、デニーソフ とドーロホフに救い出されたロシア人捕虜の中に、あのピエール・べズーホフも混じっていました。