(物語)
途中ずっとペーチャは、立派な士官に恥じない態度で、以前に知っていた事を仄めかさずに、デニーソフ に対するにはどうしたら良いか、とそればかり考えて来たのでした。
ところが、デニーソフに笑顔を向けられると、ペーチャは途端に目を輝かせ、嬉しさに真っ赤になって、せっかく稽古して来たしかつめらしい態度を忘れてしまい、どのようにフランス軍の間を突破して来たか、このような任務を与えられてどれ程嬉しかったか、もうヴャージマ付近の戦闘に参加したが、その戦闘で1人の軽騎兵がどのような抜群の手柄を立てたか、などという話を語り始めました。
「よく来た。君に会えて嬉しいよ。」と、デニーソフは彼を遮りました。
そしてその顔は又落ち着かぬ表情に戻りました。
「ミハイル・フェアクリートゥイチ」と、彼はコサック隊長をかえりみました。
「これは又ドイツ人からだよ。彼(=ペーチャ)はそこに勤務しているんだ。」
そしてデニーソフ は、今届けられた手紙の内容が、輸送部隊襲撃の為に共同作戦を取ろうというドイツ将軍からの再度の協力要請である事を、コサック大尉に語りました。
「もし、明日決行しなかったら、ヤツに鼻の先からさらわれるぞ。」と、彼は結論を下しました。
デニーソフ がコサック大尉と話している時、ペーチャは、デニーソフ の冷淡な調子に戸惑い、その原因がズボンをだらしなく膨らませていたからだ、と考えて、外套の下で誰にも気づかれぬようにそっとズボンを直し、出来るだけ軍人らしい勇ましい姿に見せようと努めました。
「隊長殿(=デニーソフ )の命令をお受けしたいのでありますが❓」と、ペーチャは挙手の礼をし、稽古して来た副官と将軍の演技に再び戻りながら、デニーソフ に言いました。
「それとも隊長殿(=デニーソフ )の指揮下にとどまるべきですか❓」
「命令❓。。よし、君は明日までと留まれるか❓」と、デニーソフ は考え込みながら言いました。
「えっ❓どうぞ。。貴方の所に留まって良いのですか❓」と、ペーチャは叫びました。
「でも。。君は将軍からどんな命令を受けて来たのだねーー直ちに帰れという命令じゃないのかい❓」と、デニーソフ は聞きました。
「いや、将軍は何も命じませんでした。僕は構わないと思いますが❓」と、ペーチャはデニーソフ の意向を尋ねるように言いました。
「まあ、よかろう。。」と、デニーソフ は言いました。
そしてデニーソフ は部下達の方を振り向くと、彼は、部隊は森の番小屋付近の定められた休憩地に進む、キルギス馬の士官は(この士官は副官の役を勤めていました)ドーロホフを探しに行き、彼の部隊が何処に居るか、今夜打ち合わせに来るかどうかを確認せよ、という命令を下しました。
デニーソフ 自身は、コサック大尉とペーチャを連れて、シャムシェヴォ村に面した森の縁に近づき、明朝の攻撃を向けるべき地点のフランス軍の配備状況を偵察する事にしました。
「おい、髭面、シャムシェヴォ村へ案内しろ。」と、彼は案内の百姓に声を掛けました。
デニーソフ とペーチャとコサック大尉は、数名のコサックと捕虜を乗せた軽騎兵を連れて、左手の谷へ降り、森の縁の方へ進んで行きました。
ーーーーー
(解説)
ペーチャは、デニーソフ への手紙を届ける道すがら、どのようにしたら立派な士官に恥じない態度で手紙を渡せるか、そればかりを考えて来たのですね。
その手紙の内容は、輸送部隊襲撃の為に共同作戦を取ろうというドイツ将軍からの再度の協力要請でした。
デニーソフ は、大部隊に獲物をさらわれたくないのですね。
その様子をずっとみていたペーチャ(彼は、このドイツ人将軍の下で勤務しているのですね)は、デニーソフ の返事をもどかしい思いで見ています。
そして彼は、デニーソフ の機嫌が悪いのをなんとなく察知し、それは自分のズボンが膨らんでいる女々しい格好のせいだと、如何にも子供らしく思い、急いで自分のズボンの膨らみをしぼませ軍人らしい勇ましい姿に見せようと頑張ります。
待ちきれないペーチャは「隊長殿(=デニーソフ )の命令をお受けしたいのでありますが❓」と、挙手の礼をし、稽古して来た副官と将軍の演技に再び戻りながら、デニーソフ に尋ねます。
「それとも隊長殿(=デニーソフ )の指揮下にとどまるべきですか❓」
ペーチャは、特に直ぐに自分の部隊に戻ろ事を命令はされていなかったのですね。
この言葉を聞いて、デニーソフ は、一つこの少年を鍛えてやろう、ロストフの弟だし。。とでも思ったのでしょうか、彼はペーチャに明日まで自分の部隊に留まるように命令します。
ペーチャは喜んでデニーソフ の言いつけを了解するのですね。
そして、デニーソフ は、コサック大尉とペーチャを連れて、シャムシェヴォ村に面した森の縁に近づき、明朝の攻撃を向けるべき地点のフランス軍の配備状況を偵察に出かけて行きます。。