戦争と平和 第3巻・第3部(10−1)モスクワに戻ったピエール、ラストプチン伯爵に呼び出され、出 | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

その日にピエールは、モスクワに戻って来ました、関門を入った所で、ラストプチン伯爵の副官に出会いました。

「あ。。私達は貴方を探し回っていたのですよ。」と、副官は言いました。

「伯爵が是非、重大な要件でお越し願いたい、と申しております。」

ピエールは家へ寄らずに、辻馬車を拾って、総督の所へ向かいました。

 

ラストプチン伯爵邸の玄関の広間や応接室は、出頭を求められたり、自分から指示を仰ぎに来た役人達で一杯になっていました。

ワシーリチコフとプラートフは、もう伯爵に会って、モスクワ防衛は不可能で明け渡しが必要な事を説明していました。

この知らせ(=モスクワを開け渡さなければならないと言う)は、住民達には隠されていましたが、既にラストプチン伯爵も知っていたのと同様、方々の役所の長官や高級官僚達は皆知っていました。

そこで彼らは、責任逃れの為に、それぞれの所轄機関をどう処理するか、総督の指示を受けに来ていたのでした。

 

ピエールが応接間に入って行った時、軍から駆けつけた急使が、伯爵の部屋から出て来ました。

急使は、早速彼に向けられた様々な質問に、投げやりに手を振って、広間を横切って行きました。

応接室で順番を待ちながら、ピエールは疲れた目で室内に居る人々を見回しました。

ピエールは、知人が1人混じっている役人達のグループの側に行きました。

ピエールに挨拶の言葉を投げて、彼らは話を続けました。

 

「一旦配ってから、また回収したって、どうって事は無いさ、だからこんな状態では何の責任も持てんよ。」

「だってこれを見たまえ、ここにちゃんと書いてあるじゃ無いか。」と、もう1人が手に持っている刷り上がったビラを示しながら言いました。

「それは別問題よ。民衆にはそれが必要なのだよ。」と、はじめの男が言いました。

「何です、それは❓」と、ピエールは聞きました。

「これですか、新しい布告ですよ。」

ピエールはそれを手に取って、読み始めました。

 

 ーーー(以下、布告文の内容)

『大公爵閣下(=クトゥーゾフ)は、急行中の援軍と一緒に一刻も早く合流する為に、モジャイスクより転進して、敵が易々とは攻略出来ぬ堅固な陣地に拠った。

モスクワからは砲48門と弾薬が急送され、大公爵閣下は、モスクワを血の最後の1滴まで守り抜き、市街戦も辞さぬ、と厳命された。

 

市民諸君、政府諸機関が閉鎖された事に、目を向けてはならぬ、事務は整理が必要なのだ。

だが我々は、我々の裁きに依って悪党どもを整理しようではないか❗️その時が来れば、我々に必要なのは都市の、そして農村の、勇者達だ。

その2日程前になれば、我々は諸君に呼び掛けるが、今はその必要が無いので、満を時する。

 

斧を取るもよかろう、熊狩りの槍も悪く無い、だが何より良いのは三又のフォークだ。

フランス兵は麦束より重くは無い。

明日の昼食後、私はイヴェール寺院の聖像を奉戴して、エカテリーナ病院に負傷兵諸君を見舞う。

そこで水浄の式を執り行う。負傷兵諸君の一刻も早い快癒を祈るのだ。

私は今、元気旺盛だ。片目が悪かったが、今は両眼とも見える。』

 ーーー(以上)

 

「しかし、軍の人から聞いたのだが、市内ではどうにも戦う事は出来ないし、それに陣地が。。」と、ピエールは言いました。

「それなんですよ、それを今、話していたのですよ。」と、はじめの役人が言いました。

「で、これはどういう事です❓この片目が悪かったが、今は両眼とも見える、というのは❓」と、ピエールは尋ねました。

「伯爵は、ものもらいができていたのですよ。」と、副官が笑いながら言いました。

 

「それはそうと。。」と、にこやかに笑いな柄、だしぬけに副官は言いました。

「お宅には家庭の心配事がお有りだとか、聞きましたが❓なんでも伯爵夫人、いや、貴方の奥様が。。」

ーーーーー

(解説)

ピエールはなんとかモスクワに帰って来ますが、自宅に帰る間も無く、モスクワ総督のラストプチン伯爵から呼び出しを受けます。

ピエールがそこに駆けつけると、伯爵邸の玄関の広間や応接室は、出頭を求められたり、自分から指示を仰ぎに来た役人達で一杯になっていました。

ワシーリチコフとプラートフは、もう伯爵に会って、モスクワ防衛は不可能で明け渡しが必要な事を説明していました。

この知らせ(=モスクワを開け渡さなければならないと言う)は、住民達には隠されていましたが、既にラストプチン伯爵も知っていたのと同様、方々の役所の長官や高級官僚達は皆知っていました。

そこで彼らは、責任逃れの為に、それぞれの所轄機関をどう処理するか、総督の指示を受けに来ていたのでした。

 

ピエールは、イマイチ状況がわからないので、知人が1人混じっている役人達のグループの側に行きます。

そして(ラストプチンが書いた)新しい布告を見せられます。

しかし、その布告には、住民達によるモスクワ防衛を呼び掛ける内容でした。

ピエールは、ちょっと違うのではないか❓と「軍からの話によると、モスクワで戦う事は不可能だと聞いたが❓」と言います。

周囲も、もちろんそうなのだ、とちょっと困った顔をしています。

ここでは、ラストプチン伯爵が、自分の功を上げるために無責任にも(実際はそんな事をしたら住民もろとも全滅しかねない)住民を煽る布告を出している。。というトルストイの指摘がなされています。

 

そして、ラストプチンの副官は「それはそうと。。お宅の奥様(=エレン、ピエールの伯爵夫人)が。。」と面白そうに切り出します。

ピエールは、自宅に帰る前にラストプチン邸に来ているので、エレンからの離婚の通達書をまだ受け取っていません。

なんのことか。。という顔で副官を見るのでした。。。