戦争と平和 第3巻・第2部(36−2)アンドレイ公爵、瀕死の重傷を負う。 | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

唸りと衝撃❗️アンドレイ公爵から5歩ばかりの所で、乾いた土がえぐり取られ、砲弾が突き刺さりました。

彼は思わず背筋が冷たくなりました、彼はまた、隊列を見ました。。きっと何人かがやられたであろう、第2大隊の辺りに大勢の兵士達が集まっていました。

 

「副官」と、アンドレイ公爵は叫びました。「固まらんように命じたまえ。」副官は命令を伝えると、アンドレイ公爵の所へやって来ました。

反対側から、大隊長が馬を飛ばして来ました。

「危ない❗️」と、1人の兵士の怯えた声が聞こえました。

鋭く空気を切りながら、アンドレイ公爵から2歩ばかりの大隊長の馬の足元に、不気味な音を立てて1発の榴弾が落下しました。

まず、馬が少佐を振り落とさんばかりに後脚で立ち上がり、脇の方へ飛びすさりました、馬の怯えが人々にも伝わりました。

 

「伏せろ❗️」と、地面に姿勢を低くした副官の声が叫びました。

アンドレイ公爵は、意を決しかねて立っていました。

榴弾は、彼と伏せている副官の間の、畑と草地の界も蓬の茂みの辺りで、煙を引きながら独楽のようにくるくる回っていました。

『本当に、これが死なのだろうか❓』と、アンドレイ公爵はくるくる回る黒い球が引いている煙の流れを眺めながら考えました。『俺は死ねない、死にたくない、俺は生命を愛する、この草を、大地を、空気を。。愛する』彼は、こう思いました、そして同時に、みんなに見られている事を考えました。

 

恥ずかしいぞ、士官たるものが❗️」と、彼は(伏せている)副官に言いました。

「なんたる。。」彼は終わりまで言えませんでした。。

爆発音と、叩き破られた窓枠の破片が飛び散るような唸りが同時に聞こえて、むせかえるような火薬の臭いがあたりに流れましたーーそして、アンドレイ公爵は脇の方へ吹っ飛び、片手を上げて前のめりに倒れました。

 

数名の士官が駆け寄りました、アンドレイ公爵の右腹からどくどく血が流れ出て草を染めました。

呼ばれた民兵達が担架を持って、士官達の後ろに立ち止まりました。

アンドレイ公爵はうつ伏せに倒れ、草に触れるほどに頭を垂れて、喉元を鳴らしながら苦しそうに息をしていました。

百姓達は側へ来て、彼の肩と足に手をかけて持ち上げましたが、苦しそうに唸りだしたので、顔を見合わせて、また草の上に下ろしました。

「持ち上げて、担架に乗せろ。どうせ同じ事だ❗️」と、誰かが叫びました、また肩の下に手が差し込まれ、彼の身体は担架に横たえられました。

 

「あ、これはひどい❗️重傷だ❗️何という事だ。。腹をやられているじゃないか❗️もうだめだよ❗️可哀想に、助からんな❗️」士官達の間に、こんな声が聞こえました。

「俺の耳元をかすめやがったよ。」と、副官が言いました。

百姓達は担架を肩に担ぎ上げて、踏み固められた道を急いで包帯所の方へ歩き出しました。

「連隊長殿か❓あ❓公爵か❓」と、駆けつけたチモーヒンが、担架を覗き込みながら、声を震わせて叫びました。

アンドレイ公爵は目を開いて、頭が深く沈んでいる担架のへり越しに、震え声の主を見ました。。そしてまた目を閉じました。

 

民兵達はアンドレイ公爵を森の中へ運んで行きました、そこには輜重車の群れが止まり、包帯所がありました。

包帯所は、白樺林の外れに張られた3つの天幕で、裾が巻き上げられていました。

カラスの群れが血の匂いを嗅ぎつけて、焦ったそうにカアカア鳴きながら、白樺林を飛び交っていました。

天幕の周囲は、2ヘクタールほどの広さに渡って、様々な服装の血塗れの人の群れに埋められ、横たわっている者もいれば、うずくまっている者もおり、立っている者もいましや。

負傷兵達の周りに、疲れ果てた顔に緊張の色を浮かべて担架兵の群れが立っていました。

 

天幕の中からは、狂暴な喚き声、あるいは哀れっぽいうめき声が聞こえて来ました。

負傷兵達は、天幕の側で自分の順番を待ちながら、唸ったり、呻いたり、泣いたり、叫んだり、罵ったり、ウオッカをくれと頼んだりしていました。

アンドレイ公爵は連隊長なので、まだ手当を受けていない負傷兵達の間を縫って、天幕の1つの側に運ばれ、指示を待つ間、そこに降ろされました。

 

アンドレイ公爵は目を開けました、そして周りで行われている事を、長い間理解する事が出来ませんでした。。草地、蓬、麦畑、くるくる回る黒い球、そして生命への愛着の激しい衝動が、彼の記憶に蘇って来ました。

『でも、今となってはもう同じ事では無いか。。』と、ふっと彼は思いました。『だが、あの世には何があるのだろう、そしてこの世には何があったのか❓どうして俺はこの生活と別れるのが惜しかったのか❓この生活には、俺の分からなかったものが、今もわかっていないものが何かあった』そうアンドレイは思うのでした。。

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(解説)

とうとうアンドレイ公爵の数歩先に砲弾が突き刺さりました。

犠牲者の周りには人が集まっていました。

アンドレイ公爵は、人が集まると犠牲者が増えると、副官に散らばるように指示させます。

そこへ大隊長が馬を飛ばしてアンドレイ公爵の所にやって来ますが、ちょうどその時、馬の足元に榴弾が着弾します。

副官は、危険だと身を低く伏して、アンドレイにもそうするように言います。

 

しかしですねー。。

アンドレイは、この独楽のように回る黒い榴弾を見て死の恐怖を感じるのですが、何と『人に見られているから、かっこ悪い真似は出来ない』とばかりに伏せるのに躊躇し、何とこの(伏せていた)副官にたいしてまで「士官たるものが恥ずかしいぞ❗️」と驚くべき発言をします。

いやいや。。副官の言っている事の方が正しいでしょう。。だって、命を守るかどうかの瀬戸際ですよ。

またまた、この人の『表面的なかっこつけ』が炸裂ですね。

もう、この人は要らないんですね、トルストイ先生も。そろそろ消される予感がします。

 

その報いはその瞬間に訪れます。

彼は榴弾の破片を右腹に受け、重傷を負ってしまうのですね。

その時の心の中のセリフが『俺は死ねない、死にたくない、俺は生命を愛する、この草を、大地を、空気を。。愛する』。。

う〜〜〜む。。思っている事とやっていることが乖離しすぎですね。

この人の部下は、本当に迷惑だったと思いますよ。

副官だって、連隊長が勝手に榴弾を受けたようなものなのに、自分が助かって決まり悪い思いをしたんじゃ無いでしょうかね。

 

おまけに包帯所に担ぎ込まれた時の悲惨な様子にも関わらず、彼は連隊長だから優先的に手当を受けるのでしょう❓

その挙句の果てに、『だが、あの世には何があるのだろう、そしてこの世には何があったのか❓どうして俺はこの生活と別れるのが惜しかったのか❓この生活には、俺の分からなかったものが、今もわかっていないものが何かあった』。。。

う〜〜む。。あなたはね、自分のミスでたくさんの人の人生(この戦闘を含めて)を狂わしたんですよ。

それでいて、裏切られたとか、あの人は形式的な女だったとか、士官として恥ずかしいとか勇気を持って突っ込めとかね。。自分がどれ程の人間だと思っているのでしょうね。

この人が知らなければならなかった事は、『こうした自分の罪』と『許しを請い、許しを与える』という人間として基本的な事だったんですよね。まだ先は読んでいませんけれど、おそらくそんな辺りじゃ無いのかな、と思います。