戦争と平和 第3巻・第2部(15−2)アンドレイ公爵、クトゥーゾフ総司令官と再会する。 | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

ボルコンスキーとデニーソフは、哨兵の分隊が整列している門の側へ歩いて行きました、すると小柄な栗毛の馬に跨って通りをこちらへ進んで来るクトゥーゾフ の姿が見えました。

おびただしい数の将軍達がその後に従っていました。

バルクライは彼と馬首を並べるようにして進んで来ました。

士官達の群れがそれを取り囲むように馬を走らせて「ウラー❗️」を連呼していました。

クトゥーゾフ は、彼の為に近衛騎兵を主体に精兵を選りすぐって特に編成された分隊の前まで来ると、彼はしばらくの間無言のまま、司令官の鋭い目でじっと彼らを見つめました、それからやおら周りの将軍や士官達の群れを振り向きました。

彼は怪訝そうに肩をすくめました。

「このような精兵達を持ちながら、退却ばかり続けるとは❗️」と、彼は言いました。

 

クトゥーゾフ は馬を進めてアンドレイ公爵とデニーソフの前を通って門内へ入って行きました。

「ウラー❗️ウラー❗️」と、彼の後ろ姿に歓声が上がりました。

アンドレイ公爵が見なかった間に、クトゥーゾフ は一段と太って脂ぎり皮膚がたるんでいました。

クトゥーゾフ は、かすかに口笛を鳴らしながら、庭へ入って来ました。

その顔には総司令官の公的な勤めを終えて一息入れようとする人間の、嬉しそうな安堵の色が現れていました。

彼はようやく、馬からふうっと唸って、下から彼の身体を支えているコサックや副官達の手の中へ降りました。

 

彼は姿勢を直して、細めた目でじろりと辺りを見回しました、そしてアンドレイ公爵に目を留めましたが、気付かなかったらしく、上下動の激しい歩き方で、玄関の階段の方へ歩き出しました。

「フェ。。フェ。。フェ。。」と、彼は口笛を鳴らして、またじろりとアンドレイ公爵を見ました、アンドレイ公爵の顔の印象は、何秒か経ってからやっと、彼についての記憶と結びついた様でした。

「ああ、元気か、公爵、よく来たな。こっちへ来てくれ」と、彼は振り向きながら気だるそうに言いました。

そしてその重みでぎしぎし鳴る階段を苦しそうに登って行きました、彼は襟をはだけて階段の上のベンチにどっかと腰を下ろしました。

 

「お達者かな、お父上は❓」

「昨日、父の死の知らせを受けました。」と、アンドレイ公爵は言葉少なに言いました。

クトゥーゾフ は驚きの目を見張ってまじまじとアンドレイ公爵を見ました。

それから軍帽を脱いで十字を切りました。

「公爵の霊に天国の幸あれ❗️我ら全ての上に神の御意のあらし事を❗️」彼は重い溜息をつくと、そのまましばらく黙っていました。

「私はお父上を愛していたし、尊敬していたのだ。君には心からお悔やみ申し上げる。」と、彼はアンドレイ公爵を抱き寄せると、厚い胸にしっかり抱きしめ、そのまま長いこと離そうとしませんでした。

彼の抱擁を解かれた時、アンドレイ公爵はクトゥーゾフ のたるんだ厚い唇がひくひく震え、目に涙が溜まっているのを見ました。

クトゥーゾフ はほっと溜息をつくと、立ち上がろうとして、ベンチに両手をつきました。

 

「どれ、私の部屋へ行こうか、少し話を聞かせてくれ。」と、彼は言いました。

ところがその時、敵に対してはむろんだが、上官に対してもほとんど臆する事の無いデニーソフが、階段の所で副官達が腹立たしげに小声で制止するのも聞かずに、無謀にも拍車を階段に鳴らしながら、つかつかと進み出ました。

クトゥーゾフ は、ベンチについていた両手をそのままにして、不興げにデニーソフを見やりました。

デニーソフは、官姓名を名乗って、祖国の安泰の為に大公爵閣下に申し上げたき重大な要件があると述べたてました。

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(解説)

特に書くまでもありません。

アンドレイ公爵は、アウステルリッツ以来初めてクトゥーゾフ総司令官と再会を果たすのですね。

クトゥーゾフ は、自分がアンドレイ公爵を総司令部に呼んでいたのに、なかなかアンドレイ公爵に気が付きませんでした。

彼は、おそらくこの時67歳だったと思います。

ようやく、アンドレイ公爵と気付くと、父上のボルコンスキー老公爵の安否を問います。

しかし、ボルコンスキー老公爵はつい最近亡くなったと知り、落胆のアンドレイ公爵を慰めます。

 

もう、父が居ないアンドレイ公爵にとって、クトゥーゾフ は父親の様な存在に見えます。

そういえば、もともとアンドレイ公爵がクトゥーゾフ の副官になったのも、父のボルコンスキー老公爵の口添えの手紙が有ったからだったと思います。

クトゥーゾフ は、自分の部屋にアンドレイ公爵を誘って、話を聞こうとします。

そこへ、怖いもの知らず(敵に対してはもちろん、上官に対しても)のデニーソフが自分の作戦を聞いて欲しいと、クトゥーゾフ に無遠慮に近付いてくるのでした。