戦争と平和 第3巻・第2部(15−1)アンドレイ公爵、クトゥーゾフの宿舎の前であのデニーソフ中佐 | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

総司令官の任命を受けると、クトゥーゾフはアンドレイ公爵を思い出し、総司令部に出頭するように命令を送りました。

アンドレイ公爵がツァリョーヴォ・ザイミンチェに着いたのは、あたかもクトゥーゾフが最初の閲兵を行なっていた当日のその時刻でいた。

アンドレイ公爵は村に入ると、総司令官の馬車が停まっている司祭の家の門ぎわのベンチに腰を下ろして大公爵(=クトゥーゾフ、今、彼は皆にこう呼ばれていた)を待つ事にしました。

アンドレイ公爵から10歩程の所に、総司令官の2人の従卒と、伝令と下僕が日向ぼっこをしていました。

 

そこへ口髭と頬髭の豊かな、顔の浅黒い、小柄な軽騎兵中佐が門前に馬を乗り付けると、アンドレイ公爵をじろりと見て、ここが大公爵の宿ですか、もうじき戻られますか❓と聞きました。

アンドレイ公爵は、自分は大公爵の幕僚ではなく、やはり今来たばかりの者だ、と言いました。

軽騎兵中佐は、めかし込んだ従卒に同じ質問を向けました。

「はあ、閣下ですかね❓たぶん、もうじきお戻りでしょうかね、何のご用事❓」

軽騎兵中佐は、馬を降りて手綱を伝令に預け、ボルコンスキーの方へ歩み寄りながら、軽く会釈をしました。

アンドレイは脇へ寄って、軽騎兵中佐は彼と並んで腰を下ろしました。

 

「やはり総司令官閣下をお待ちですかな❓」と、軽騎兵中佐は言葉を掛けました。

「誰にでも気軽に会ってくれるそうですな、有り難い事です。全く、ドイツ人共が相手じゃかなわんですよ❗️エルモーロフがドイツ人に格上げしてくれ、と願い出たというのも、わかりますな。これでまあ、ロシア人も口が聞けるというものでしょう。これまでと来たら、何をしていたか訳がわからん。退却ばかりしくさってからに。貴方も実戦部隊からですか❓」

「有り難い事に。。」と、アンドレイ公爵は答えました。

「退却に参加したばかりか、この退却において、大切なものをすっかり失いました。領地や生家は言うに及ばず。。父までこの惨敗に憤死したのですよ。僕はスモーレンスク県の者です。」

 

「えっ❓。。では、ボルコンスキー公爵ですね❓面識を得て光栄です。僕はデニーソフ中佐、それよりもワシカの名で通っております。」と、デニーソフはアンドレイ公爵の手を握りしめ、特別の好意を込めてじっと顔を見守りながら言いました。

「お察しします。私も伺っておりました。公爵、お会いできて大いに愉快です。」と、彼はアンドレイ公爵の手を取り、また、寂しげな微笑を浮かべながら付け加えました。

アンドレイ公爵は、ナターシャから最初の求婚者の話を聞かされていたので、デニーソフの名は知っていました。

 

この思い出は、甘さと苦さを伴って、近頃はもう久しく考えた事はありませんでしたが、それでも彼の心に残っていた、あの苦痛な感覚へ彼を引き戻しました。

しかし、近頃の苦しい試練に晒され続けてきたので、これらの思い出はもう久しく彼の心に浮かばなかったし、浮かんだにしても、かつてのような力で彼に作用する事は有りませんでした。

デニーソフにしても、ボルコンスキーの名によって呼び起こされた一連の思い出は、つい我を忘れて15歳の少女に結婚を申し込んだと言うような、今はもう遠い詩的な思い出に過ぎませんでした。

 

そしてデニーソフは今、彼の心を捉えている問題に話を移しました。

それは彼が後退の間ずっと前哨に勤務していながら考案した作戦計画でした、そして、それをクトゥーゾフに進言するつもりでした。

その計画の骨子は、フランス軍の作戦全線はあまりにも長く伸びすぎているので、正面から攻撃する代わりに、側面からくさびを入れて、敵の連絡路分断の行動に出るべきであると言う事でした。

彼はその計画をアンドレイ公爵に説明し始めました。

「敵はこの全線を維持する事は出来ません。そんな事は不可能だからです。私が責任を持って、それを断ち切ります。私に500の兵を与えたら、断ち切ってみせます、間違いありません❗️一つの方法はーーパルチザン戦法です」

 

デニーソフは立ち上がりました。そして手振りをしながらボルコンスキーに述べていたその言葉の途中で、村に馬蹄の響きと叫び声が聞こえて出しました。

「お帰りだぞ❗️」と門ぎわに立っていたコサックが叫びました。

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(解説)

クトゥーゾフは、総司令官に就任するに当たって、一連のアウステルリッツ会戦における『あの』ボルコンスキー公爵の仕事ぶりを思い出して、ぜひ彼と仕事をしたいと、総司令部に出頭するように命令を送ります。

クトゥーゾフは、暦上でも名将の誉れ高く、アンドレイ公爵の能力を正当に評価してくれていたのですね。

アンドレイ公爵は、クトゥーゾフの宿舎に着きましたが、その日はクトゥーゾフ総司令官の最初の閲兵の日で総司令官は不在でした。

アンドレイは、クトゥーゾフ(大公爵)が戻って来るまで門の側のベンチに腰掛けて待つ事にします。

 

そこへやって来たのが、味方の糧秣強奪事件(※この事件は、テリャーニンの陰謀で、自分の部下達の食料が何日も輸送されなかった為と言う気の毒な事情があったのですけれどね。)で軍から罰せられ、一時軽い❓怪我で病院に入っていたデニーソフ軽騎兵中佐でした。

彼は無事生きていたのですね❣️

ロストフが病院にお見舞いに行って以来の登場です。

 

デニーソフはアンドレイ公爵に言葉を掛けます。

そして、アンドレイ公爵の身の上話を聞いて、彼が『アンドレイ公爵』だと気付きます。

この二人の男性には、同じ女性(ナターシャ)にまつわる苦い思い出がありました。

しかし、二人とも、もう、それは終わった事なのだ。。とそんな淡い慕情に浸っている場合でない『戦争』と言う現実にどっぷりと浸かっています。

ナターシャの事はもう恨む気持ちも消えたのですね。。デニーソフはもちろんアンドレイ公爵でさえ。

 

そして、デニーソフは、今までドイツ人将校(バルクライ・ド・トリー)の下で、後退ばかり続けさせられた事への不満、そしてフランス軍を撃破する為の自分の考案した作戦をアンドレイ公爵に聞いてもらいます。

その時、総司令官が宿舎に戻って来たと言う知らせが入ります。