戦争と平和 第3巻・第2部(14−2)公爵令嬢マリヤのニコライへの気持ち、そしてニコライの胸中。 | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

縛られた2人の百姓(カルプとドローン)は屋敷の庭へ引き立てられました。

2人の酔った百姓達が後について来ました。

「やい、良いザマだ❗️」と、1人がカル部に向かって浴びせかけました。

「いってえ旦那方にあんな口が聞けると言うのかよ❓この野郎、何考えてけつかっただ❓」

「まったく、ばかだよ、おめえは❗️」と、もう1人が言いました。

 

2時間後に、荷馬車の列が屋敷の中に並んでいました、百姓達が威勢良く領主の荷物を運び出して、荷馬車に積んでいました。

そして公爵令嬢マリヤの希望で、納屋にブチ込まれていたドローンが出されて、庭に立ちはだかって百姓達を指揮していました。

「おい、そんなに邪険に置くもんじゃねえ」と、のっぽの百姓が丸い顔をにやにやさせて、小間使いの手から手箱を受け取りながら言いました。

「これだって銭が掛かってるんだぞ。そんな風に手荒に放り出したり、直に縄を掛けたりしたら、傷んじまうじゃねえか、俺はそういうやり方は好かねえな。何でも心がこもって、法ちゅうものに合ってなきゃいけねえ。そら、そんな風にむしろ掛けて乾草で包んでおく、そうでなきゃいけねえ。」

「へえ、見ろよこの本、大した数じゃねえか。」と、もう1人の百姓がアンドレイ公爵の本箱を持ち出しながら感心しました。

「つまづくなよ❗️重いのなんの、まったく、大した本だぜ❗️」

「うん、書き物ばかりしてらしたもんな、遊びもしねえでよ❗️」と、のっぽの丸い顔の百姓が辞典を指差しながら、意味有り気に片目をつぶって言いました。

 

ロストフは、公爵令嬢にお近づきになる事を押し付けたくなかったので、彼女の所へは行かないで、村に残って彼女の出発を待っていました。

マリヤの幌馬車が出ると、ロストフは馬に乗り、ボグチャーロヴォから12露里の、我が軍の勢力下にある地点まで随行しました。

ヤンコヴォの旅宿で、ロストフは丁重に彼女に別れを告げ、初めて勇を鼓して彼女の手に接吻しました。

「その様におっしゃられては痛み入りますよ。」と、公爵令嬢マリヤの救出(彼女はロストフの行為をこう呼んだ)の感謝の言葉に対して、彼は顔を赤らめながら答えました。

「貴女とお知り合いになる機会を持つ事が出来ただけで、僕は幸せです。これで失礼します、お嬢様、お幸せと御心のお安らぎを祈ります、そして願わくばもっと幸福な条件の下でお会いしたいものです。もし、僕を赤面させる事をお望みでないなら、どうかお礼はおっしゃらないで下さい。」

 

しかし、公爵令嬢にとっては、感謝される程の事は無いと言う彼の言葉を、そのまま受け取る事は出来ませんでした。

それどころか、もし、彼が来てくれなかったら、彼女はきっと、暴徒達とフランス軍の手にかかって破滅しなければならなかったろう。。と言う事は疑う余地が無い事でした。

彼が、彼女を救う為に、恐ろしい危険に自分の身を晒した事も、彼女には分かっていたし、それよりももっと明白な事は、彼が美しい高潔な魂の持ち主で、彼女の立場と不幸を理解してくれたと言う事でした。

彼女が自分でも涙声になって、父の死の事を語った時、彼の誠意に満ちた善良そうな目に涙が浮かんだのを、彼女は忘れる事が出来なかったのでした。。

 

彼と別れて、1人きりになると、マリヤはふいに目頭が熱くなるのを感じました、そしてこれが初めてではありませんでしたが、私はあの方を愛しているのかしら❓という自分でも不思議な疑問が彼女の頭に浮かびました。

『でも、あの方をを愛したとして。。どうなるものかしら❓』と、マリヤは思いました。

恐らく、決してこちらを好きになってくれないであろう相手を、自分の方から先に愛した事を、自分の心に打ち明ける事が、どんなに恥ずかしい事であっても、誰にも決してこれを知られる事は無いし、自分が生まれてから後にも先にもただ一度愛した男を、誰にも言わずに死ぬまで愛し続けても、それは自分の罪では無いのだ、と考えて自分を慰めていました。

 

時々彼女は、彼の眼差しを、彼の思いやりを、彼の言葉を思い出してみました、すると、幸福があり得ない事では無い様な気がするのでした。。

そんな時ドゥニャーシャは、彼女が微笑を口元に浮かべながら窓をじっと見ているのに、気づくのでした。

マリヤは、ニコライがあの様な時にボグチャーロヴォに来た事、そしてニコライの妹がアンドレイ公爵を断らなければならなかった事に、神の意志(※もし、ナターシャとアンドレイ公爵が結婚したら、法律上、ニコライとマリヤは結婚出来ない事になっているらしいです、当時は。)を感じるのでした。

 

公爵令嬢マリヤがロストフに与えた印象は非常に快いものでした。

そして僚友達が、ボグチャーロヴォでの彼の騎士的冒険を知って、乾草を探しに行って、ロシアで最も富裕な花嫁候補の1人にぶつかった、などと冷やかすと彼は腹を立てました。

あの感じの良い、莫大な財産を持つ公爵令嬢マリヤとの結婚という考えが、自分の意に反して、すでに何度か頭に浮かんだからでした。

ニコライとしても、マリヤ以上の妻を望む事は出来ませんでした。

この結婚は両親を幸せにするだろうし、マリヤをも幸せにするはずだーーニコライはそう感じていました。

しかし、ソーニャとの約束は❓それがあるからこそ、ボルコンスキー公爵令嬢との件で冷やかされると、ロストフは腹をたてるのでした。。

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(解説)

ま。ニコライは、マリヤが農民達の暴挙によって立ち往生しているのを颯爽と登場して助けた訳で、この出会いは流石に物語的な。。という感じはします。確かに。

しかし、マリヤは、そういう運をアテにして生きてきたわけでは無い、しっかりと足が地に着いた女性です。

だからこその出会いだったようにも思うんですよねー。

そして、マリヤのモノローグの部分でも記載されているように、兄のアンドレイ公爵と、ニコライの妹のナターシャの婚約が破綻となった事は、実はニコライとマリヤを結びつける為の運命への序章のようにも思えるんですよね。

当時のロシア社会では義理関係とはいえ、兄妹同士の結婚は認められていなかった訳ですから。

 

マリヤは、到底美人でも無い、婚期も逃しつつある、地味な自分がニコライには相応しいとは思っていません。

こういう控えめさが却ってニコライの心を澄み渡らせているのですね。。

こういう心の共鳴があるって本当に稀な事だと思います。

マリヤは、その事(今、思っている出来事)の稀有さ、崇高さをきちんと理解しているのですね。。

もう、自分は一生家庭を持つ事は望めないだろう。。とは思うものの、ニコライとのこの一瞬の心の交流がどれほど今度の彼女の人生の支えになるのか。。彼女はそれを理解し、それでいいのだ、と思うのですね。

 

一方、ニコライの方も、マリヤの清潔感、優しさ、慈愛に満ちた美しい眼差しに心を打たれています。

彼女はロシアを代表する大金持ちの令嬢ですが、ニコライは彼女と結婚したら、両親ばかりではなく彼女もきっと幸せになるだろう。。。と確信はしているのですね。

もちろん、ニコライの純粋な気持ちは、お金目当てではありません、心打たれた女性がたまたま大金持ちだっただけです。

しかし、ニコライは幼馴染のソーニャとの約束を忘れていなかったのですね。。

ニコライは、その事を考えると、無責任に冷やかす僚友達の言葉に腹をたてるのですね。