専横と平和 第3巻・第2部(12)令嬢マリヤ、自室にて父を想う。 | 気ままな日常を綴っています。

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いつか静かに消える時まで。。
一人静かに思いのままに生きたい。。

(物語)

その夜遅くまで公爵令嬢マリヤは、自分の部屋の開け放された窓に座って、村の方から聞こえて来る百姓達の騒がしい話し声に耳を澄ましていましたが、彼女が考えていたのは百姓達の事では有りませんでした。

彼女にとって、百姓達の事は到底理解出来るものでは有りませんでした。

彼女は、ずっと1つの事、現実についての心配によって中断された、過去の自分の悲しみの事を考えていました。

 

父の病気や、死の前のひとときなど、近い過去の光景が次々と彼女の目の前に浮かんで来ました。

そして彼女は、今はもう、父の最期の姿だけをぞっとしながら払い除けて、こちらの諸々の形象にうら悲しい喜びを持って目を留めるのでした。

そして、これらの光景が、どんなに細かいところもあまりに鮮明に見えたので、現実の事では無いのでは無いか、と怪しまれたり、やっぱり過去の事だと思われたり、いや未来の事かも知れない、という気がしたりするのでした。

 

今度は、父が倒れて禿山の家から運び込まれたあの時の光景がまざまざと浮かんで来ました。

『お父様はあの時(=倒れる前夜)におっしゃりたかったんだわ、死ぬ日におっしゃったあの事を。。私におっしゃった事をお父様はいつも考えていらしゃったんだわ。。』

すると、禿山で老公爵が倒れる前夜の事が、ごく微細な所までまざまざと思い出されて来たのでした。

 

その時マリヤは、不幸を予感して、老公爵の意思に背いて側についていたのでした。

彼女は眠らずに、夜更けにそっと階段を降りて、その夜父が寝る事にしていた温室の戸口に近づき、父の声に耳を澄ませました。

彼は疲れ切った弱々しい声で、チホンと何やら話していました。

どうやら、老公爵は、その時話をしたいらしかったのでした。

『でも、どうして私を呼んで下さらなかったのかしら❓もう、今となっては、お父様は心の中にあった事をすっかり誰にも打ち明けられないもの。お父様にとっても、私にとっても、あの時はもう永久に戻りはしないんだもの。あの時なら、お父様は言いたい事をすっかり言えただろうし、チホンじゃなく、私なら、それを聞いて理解して上げられたはずなのに。。』と、彼女は思いました。

 

『お父様は、あの時(=なくなる前日)も、チホンと話をしながら、2度私の事を聞いていらしたわ。お父様は私に会いたがってらしたのだわ。それなのに私はすぐ側のドアの陰に隠れていたなんて。お父様はわかって貰えぬチホンと話しているのが、寂しく辛かったのね。もし私が飛び込んで行ったら、お父様は気をお鎮めになって、私にあの言葉をおっしゃって下さったかも知れないのに。。』

公爵令嬢マリヤは、老公爵が死ぬ日に彼女に言ったあの優しい言葉を、声を出して言ってみました。。「かわいい嬢や❗️」と、もう一度繰り返して、彼女はさめざめと泣くのでした。

 

彼女は今、目の前に父の顔を見ていました。

それは彼女が物心ついてから覚えている顔、いつも遠くから見ていたあの父の顔では有りませんでした。

それはーーあの最期の日に、初めて近くからしみじみと見た、あの皺の深い、弱々しい、おどおどした父の顔でした。

彼女は棺の中で白いハンカチで顎を結わえられて横たわっている父の顔にあったあの表情を目の前に見ていました。

そして、父の頬と唇に触れて、これは父では無いばかりか、何か見る者を突き放すような神秘的な者だと見届けた時に、彼女を襲ったあの恐怖が、今も彼女を捉えました。

彼女は他の事を考えようと思い、祈ろうと思いました、しかしどうする事も出来ませんでした。

 

彼女は目を一杯に見開いて、月の光と影を見守っていました、そして今にも父の死に顔がそこから出て来そうな気がして、家の内外に垂れ込めた静寂の中に、自分が塗り込められて行くのを感じていました。

「ドゥニャーシャ❗️」と、締め付けられるような声で叫ぶと、静寂を振り切って彼女は女中部屋の方へ駆け出しました。

その声に驚いて、乳母と小間使い達が飛び出して来ました。

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(解説)

マリヤは、農民達が自分の言う事を聞けなかった、と言う事に、それが一体どう言う理由からなのか分かっていないと思います。

おそらく、それは、女性でまだ若い自分の能力不足だからだろう。。程度にしか思っていなかったと思います。

それで、今まで彼女はどれだけ父に庇護されていたのか悟ったのだと思います。

厳しすぎた父親では有りましたが、この気性の荒い農民達と立ち回って、言う事を聞かせ、それなりの富を得て、皆が豊かに過ごしていた事を思い返していたのだと思います。

 

そして、彼女は、父親にいっぱい教えて欲しい事が有ったのですね。

こう言う時、ああ言う時、一体自分はどのようにふる舞えば良いのか。。

彼女は、父が自分の死期を覚悟した時、一体何が言いたかったのだろうか、それは大事な事だったのでは無いか。。と思ったのだと思います。

しかし、今となってはもうあの時に帰る事は出来ません。

彼女は、ボグチャーロヴォの静寂な夜に迫りくる危険を感じます。

そして、月光を見ていると父の死に顔が浮かび、まるで自分を迎えに来ているように思いぞっとするのでした。。

 

ああ。。一応、かなり勝手な解釈をしております。