戦争と平和 第3巻・第2部(10−2)令嬢マリヤ、ドローンに荷馬車と馬の準備を命じるも。 | 気ままな日常を綴っています。

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いつか静かに消える時まで。。
一人静かに思いのままに生きたい。。

(物語)

『妹がフランス軍の手中に落ちたなんて、アンドレイ公爵が知ったら❗️ニコライ・アンドレーエヴィチ・ボルコンスキー公爵の息女たる者が、ラモー将軍とやらに保護を請い、その慈悲にすがるなどと、そんな生き恥がさらされようか❗️』この考えが、彼女を恐怖に突き落とし、恥ずかしさが頬を染めさせ、これまで知らなかった増悪と誇りの激発を感じさせたのでした。

彼女は、これを自分の頭で考えたのでは有りませんでした、そうするのが義務と思って、父と兄の身になって考えたのでした。

彼女個人にとっては、どこに留まろうと、どんな事になろうと、どうでも良い事でした。

しかし、同時に彼女は、自分が亡くなった父とアンドレイ公爵の代理である事を感じていました、今、2人が言うはずの事、2人がするはずの事をしなければならない、と彼女は感じていました。

 

マリヤはアンドレイ公爵の書斎に入りました、そして彼の考えに徹しようと努めながら、自分の立場を熟慮しました。

父の死と共に消えたものと思っていた生きる欲求が、かつて知らなかった程の新しい力で彼女の前に湧き上がりました。

彼女は頬を真っ赤に上気させながら室内を歩き回り、アルバートゥイチを、ミハイル・イワーノヴィチを、チホンを、ドローンを呼びにやりました。

ドゥニャーシャも乳母も小間使いも、ブリエンヌの言った事がどの程度まで正しいのか全くわかりませんでした。

 

アルバートゥイチ は、警察署長の所へ出向いていて、まだ戻っていませんでした。

建築技師のミハイル・イワーノヴィチは、呼びつけられてマリヤの前に出てみたものの、この15年間郎公爵の言いなりで自分の意見というものを表明しない男だったので、役に立ちませんでした。

老従僕のチホンは、悲哀の最中で、マリヤが何を聞いても『へえ、さようで。。。』と答えるばかりで、彼女を見守りながらやっと嗚咽をこらえていました。

最後に村長のドローンが部屋に入って来ました。

「ドローヌシカ」と、マリヤは言いました、彼女は彼を疑いの無い忠実な友、毎年ヴァージマの定期市に行く度に、好物の蜜菓子を買ってにこにこ顔で持って来てくれたあのドローヌシカと見ていたのでした。

「ドローヌシカ、アルバートゥイチ がどこか行っていて、私は誰にも相談のしようが有りませんのよ。もう、何処へも行けないって聞かされましたけど、本当ですの❓」

「どうしても(※馬車では)行けねえので、お嬢様、(※歩いてなら)行かれますとも」と、ドローンは言いました。

「敵軍が居て危ないって、言われたのよ。ねえ、ドローヌシカ、私は何も出来ないし、何もわからないし、誰も相談する人が居ないのよ。私、どうしても今夜遅くか、明日の朝早く出発したいと思うの。」

ドローンは黙っていました。

「アルバートゥイチ にも申し上げておきましたが、馬がいねえので。」

「どうして居ないの❓」と、公爵令嬢は言いました。

 

「何もかも天罰でごぜえますだ。」と、ドローンは言いました。

「居ねえ訳じゃ無いが、軍に持って行かれたり、くたばったりで、今年はひでえ厄年でごぜえます。馬に食わせるどころじゃねえ、下手すると人間が干上がりそうな有様でして❗️こうして3日も食わずにいる始末ですよ、何もねえんで、すっかり荒らされてしめえまして。。」

公爵令嬢マリヤは、彼の言う事を注意深く聞いていました。

「百姓達が荒らされたの❓食べるものが無いの❓」と、彼女は尋ねました。

「餓死しかけてますだ。荷馬車どこの話じゃねえんで。」と、ドローンは言いました。

 

「だったら、どうしてそれを言ってくれなかったの、ドローヌシカ❓出来る事は何でもして上げるわ。。」

今のような、こんな悲しさに胸が一杯の時に、金持ちと貧乏な人が居て、金持ちが貧乏な人々を助けずにいる事が出来ないなんて、マリヤには不思議な事に思われました。

地主の麦というものがあって、百姓達に分けられることがあるという事も、彼女は漠然と知っていましたし、聞いた事も有りました。

彼女は又、兄も、父も、百姓達に分ける事を断らないだろう。。という事も知っていました。

彼女は、百姓達の窮状と、ボグチャーロヴォに有る地主の麦について、詳しくドローヌシカに尋ね始めました。

 

「ここは地主の、いえ兄の麦があるんでしょう❓」と、彼女は聞きました。

「お屋敷の麦はそっくり手付かずにごぜえます。若公爵様が売るようにお言いになりませんでしたので。」と、ドローンは得意げに言いました。

「それを百姓達に分けてあげなさい。要るだけあげなさい。私が兄に代わって許します。」と、マリヤは言いました。

彼女がそう言っている間、ドローンは食い入るような目で、じっと彼女の顔を見守っていました。

 

「おらをクビにして下せえ、お嬢様、お願えです、おらから鍵を取り上げて下せえ。23年勤めさせて貰いましたが、悪いことは1度もした事がねえ。クビにして下せえ、お願えです。」

彼が何を望んで、なぜ辞めさせてくれと言い出したのか、マリヤにはわかりませんでした。

彼女は「彼の忠実な心を1度も疑った事が無いし、彼と百姓達の為なら、どんな事でもしてやるつもりだ。」と答えました。

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(解説)

マリヤは、ボグチャーロヴォがもうフランス軍の手に落ちた事を知り、一刻も早くこの地を逃れなければならない、と認識するのですね。

だから、いろんな使用人を呼びつけて意見を聞くのですが、肝心なアルバートゥイチ は警察署長の所へ行っていてまだ戻って来ていません。

彼は、軍隊の力を借りて、この窮状をなんとか打開しなくてはもうどう仕様もないと認識出来ています。

マリヤは、この事を知らないので、ドローンを呼んで、脱出の為の荷馬車の準備を頼みます。

 

しかし、ドローンは、馬の準備は出来ないとマリヤに言います。

マリヤは、どうして馬の準備が出来ないのか理解できません。

ドローンは、実は、もう既に農民達はフランス軍に言いくるめられて、ボグチャーロヴォに留まって(フランス軍の為に食料を提供すれば高額で買い取ってくれるといううまい話)に完全に乗せられているなどとはとてもマリヤには言えません。

これはロシア人領主に対する『裏切り行為』になるからです。

それで、言い逃れとして「麦が足りなくて馬どころか農民達ももう3日も食べていない」と嘘を付くのですね。

マリヤは、その話を鵜呑みにしてしまいます。

世間知らずのマリヤは、『だったら金持ちがこんな時は貧乏な人を助けるのが筋だ。』と思うだけです。

 

マリヤは、誠実な態度でドローンに「領主の麦を解放しましょう」と申し出ます。

ドローンは、さすがにこの心の美しい女性領主を裏切っている自分を恥じます。

だから、彼は「これまで23年間悪いことは1度もした事が無い。だから(今はもう、貴女に裏切り行為をしている自分を)辞めさせてほしい。。」とマリヤに言うのですね。

ドローンは、自分も20年ほど前の東南の温暖な河の流域を求めて移動した貧乏な百姓だった男です。

だから、農民達の気持ちが痛いほど分かるのですね。

自分達の農作物が高く売れて、自分達に自由なお金=自由が得られれば、どんなに素晴らしい事だろう。。このロシアにおいて、もし、そんな事が実現すれば、これは明らかに『新しい社会』を自分達が開拓しようとしている事なのだ❣️という、かつての大移動の時の夢が蘇るのですね。。。