戦争と平和 第3巻・第1部(23)皇帝の出現とお言葉により、ピエールでさえ感情に流される。 | 気ままな日常を綴っています。

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いつか静かに消える時まで。。
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(物語)

その時、貴族達の前に、将軍の軍服の肩から大綬を胸に斜めに下げたラストプチン伯爵が、あご髭を突き出し足早に入って来ました。

「皇帝陛下が今お見えになります。私は今、そちらから戻ったばかりです。私達が今置かれている状態では、そう難しく審議しなければならぬ事は何も無いと思います。陛下は我々と商人階級の招集を命じられました。」と、ラストプチン伯爵は言いました。

「金は100万でもあちらから流れるでしょうから(彼は商人達の居る広間を顎でしゃくりました)、我々の仕事は義勇軍を差し出す事と、我が身を惜しまぬ事です。。これが我々が成しうる最小限の事です❗️」

 

大テーブルの周りに座っていた老高官達の間だけで協議が始まりました。

競技は、先程と異なり静かに進められました。

1人が「賛成ですな。」と言うと、次は言い方を変えて「わしも同意見じゃ。」と言った調子で、年寄り臭い声がぽつりぽつりと聞こえて来るだけでした。

モスクワの貴族は、スモーレンスクに倣って、1,000人に10人の割の義勇兵と、その軍装品一切を提供すると言う、モスクワ貴族会の決議の成文が書記に命じられました。

協議していた老人達は、肩の荷を下ろしたお湯に、椅子をカタカタさせて立ち上がると、静かに話し合いながら歩き回り始めました。

 

「陛下です❗️陛下がお見えです❗️」と言う声が広間に伝わり、一同は慌てて扉口へ急ぎました。

両側に壁のように並んだ貴族達の間の広い通路を通って、皇帝は広間へ入って来ました。

どの顔にも畏まったおどおどした好奇の表情が現れました。

ピエールははるか遠くに立っていましたので、皇帝の言葉がよく聞き取れませんでした、彼は、わずかに聞こえた言葉の断片から祖国の置かれている危機と、モスクワ貴族にかけている期待について皇帝が語っている事を、察しただけでした。

別な声がそれに答えて、今決まったばかりのモスクワ貴族会の決定を皇帝に奏上しました。

 

「皆さん❗️」と皇帝の震えを帯びた声が言いました、周囲は静まり返りました。

そしてピエールは、実に優しい人間味に溢れた、胸に迫る皇帝の声を聞きました。

その声はこう語りました。「私はかつてロシア貴族の熱誠を疑った事は無い。しかし今日はそれが私の予期を超えた。祖国の名に置いて皆さんに感謝します。皆さん、立ち上がりましょう。。時が何よりも大切です。。」

皇帝は言葉を途切らせました、一同は皇帝の周りをひしと取り囲んで、そしてそこここから感極まった嗚咽が聞こえました。

 

皇帝は、貴族達の広間から商人達の広間へ進みました。

皇帝は、そちらに10分ばかり居ました。

ピエールは他の貴族達に混じって、商人達の広間を出て行く皇帝の目に感謝の涙が溢れているのを見ました。

後で聞いた所では、皇帝は商人達に話を始めた途端に、目から涙が溢れ出て、声を震わせて語り終えたと言う事でした。

ピエールが皇帝の姿を見た時、皇帝は2人の商人に付き添われて出て行く所でした。

1人はピエールの知っている専売業者で、もう1人はーー商工会の会長で、山羊髭の黄色い顔をした痩せた男でした。

2人とも泣いていました。

 

「生命も、財産も、すっかり差し上げます、陛下❗️」

この瞬間、ピエールは、自分には何も惜しいものは無い、何もかも捧げる覚悟だと言う事を示したいと言う願いの他は、もう何も感じていませんでした。

憲政主義の傾向を持つ自分の言葉が、自分に対する叱責のように思われて、彼はそれを償う機会を求めました。

マモーノフ伯爵が、一連隊の兵を提供すると聞くと、ピエールはその場でラストプチン伯爵に、1,000人の兵とその装備給養を寄付すると申し出ました。

 

ロストフ老人は、その日の模様を泣かずに夫人に語る事が出来ませんでした。

そして即座にペーチャの願いを聞き入れ、自分で志願の申し込みに出掛けて行きました。

 

翌日、皇帝は去りました。

会に召集された貴族達は皆礼服を脱ぎ、家やクラブに腰を落ち着けました。

そしてため息をつきながら、管理人に義勇兵についての指示を与え、自分達のしでかした事(=供出)に愕然とするのでした。。

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(解説)

まず、前回の通り、帝政ロシア下では、ピエールの立憲君主制的な思考は全く馴染まず、周囲の大多数の貴族の支持を受けていない状態です。

この時点では、ピエールはまだ自分の考えを改める気持ちはありませんでした。

 

しかし、アレクサンドル皇帝の人間としての温かみに触れると、理屈屋のピエールですら、皇帝をなんとしてもお助けしたい。。と熱い感情が湧いて来るのですね。

ヨーロッパ最強の最高の司令官ナポレオン率いるフランス軍の大群が押し寄せていると言うロシア国家の危機下に於いて、アレクサンドル自身が自ら貴族や商人達に頭を下げて願う姿は、当然そこに居る者の心に響き愛国心を湧き上がらせるのですね。

当時のロシアの士気の高揚に、アレクサンドル1世の人間らしさ・優しさが大いに役立って(❓)居たのだと言う記録が有ったのだろう、と思われます。

 

アレクサンドル自身は、軍事司令能力に長けた人物ではなかったようですが、国民や国家を自分なりに大事にしていた人なんだろうな、と思います。

その皇帝の人間らしい優しさが、ロシアからフランス軍を敗走させた、と言う奇跡を起こしたと言っても良いのかも知れません。

 

ここで第3巻・第1部は終了です。

第2部の冒頭では、なぜ、ボロジノでロシア軍が勝てたのか❓と言うトルストイの考察が記載されています。

この『人間』アレクサンドルを中心とした強い国民意識が奇跡をもたらしたっぽい考察のように思われる気もするんですけれどね。次回、見てみましょう。。

 

さて。。キリが良いので、ここで、2・3日休憩を挟みたいと思います。

年末年始ですしね。

今年は、こんな長ったらしい記事にお付き合いいただいて誠に有り難うございました(^。^)