戦争と平和 第2巻・第5部(15−1)ソーニャ、ナターシャへのアナトーリからの手紙を見つける。 | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

その夜遅く戻ったソーニャは、ナターシャの部屋へ行ってみました、すると、ナターシャは服を着たままソファの上で眠っていました。

側のテーブルの上に、アナトーリからの手紙が広げられたままになっていました。

ソーニャはその手紙を手に取って読み始めました。

彼女は読みながら、読んでいる内容の説明を探り取ろうとして、眠っているナターシャの顔にちらちらと目をやりましたが、それは見出せませんでした、顔は穏やかで幸福そうでした。

ソーニャは顔を蒼白にして、恐ろしさと興奮にがくがく震えながら、くたくたと肘掛け椅子の上に崩れて。さめざめと泣き出しました。

 

『ああ。。どうして私は何も気づかなかったのかしら❓こんな所まで進んでしまうなんて、どうしてそんな事が❓本当にアンドレイ公爵への愛が冷めてしまったのかしら❓それにしても、ここまでクラーギンに許すなんて、どうしてそんな気持ちになれたのかしら❓彼は嘘つきで悪者、そんな事は分かっているはずなのに。こんな事を知ったら心の清いニコラスが何と言うかしら❓そうか。。この為だったのね、一昨日も、昨日も、今日も、興奮した、思い詰めたような顔をしてたのは。。』と、ソーニャは考えました。

『でも、この人があんな男を愛するなんて、考えられないわ❗️おそらく、誰からとも知らないで、この手紙を開けたんだわ。そして屈辱を感じたんだわ、きっと。この人にこんな事が出来る訳無いもの❗️』

 

「ナターシャ」と、彼女は小声で呼びました。

ナターシャは目を覚まして、ソーニャを見ました。「あら、戻ったの❓」

彼女は優しい態度でソーニャを抱きしめました、しかし、ソーニャの顔に狼狽を見て取ると、ナターシャの顔に狼狽と疑いの色が現れましら。

「ソーニャ、手紙を読んだのね❓」と、彼女は言いました。

「ええ。。」と、ソーニャは低く答えました。

ナターシャは嬉しさが吹き上げたように、にっこり笑いました。

「あたしだめ、ソーニャ、もう抑えきれないわ❗️」と、彼女は言いました。

「あたしだめ、ソーニャ、もう貴女に隠しておけないわ、わかる❓私達、愛し合っているのよ❗️ソーニャ、ほら、あの人書いているでしょ❓」

ソーニャは、自分の耳が信じられぬように、目をいっぱいに見開いてナターシャの顔を見つめました。

 

「じゃ、ボルコンスキーは❓」と、ソーニャは言いました。

「ああ。。ソーニャ、あたしがどんなに幸福か、貴女に知って貰えたら❗️貴女は知らないのよ、愛ってどんなものか。。」

「でも、ナターシャ、本当にあれはすっかりお終いになってしまったの❓」

ナターシャには、ソーニャのこの問いの意味がわかりませんでした。

「どうなの、アンドレイ公爵の方はお断りするつもりなの❓」と、ソーニャは言いました。

「ああ。。貴女は何もわからないのよ、ばかな事は言わないで、お聞きよ。」と、ムッとしてナターシャは言いました。

「私にはわからない。どうして丸々1年も1人の人を愛して来て、急に。。だって貴女、彼に3度会っただけじゃ無いの、ナターシャ、私には信じられない、わずか3日で全てを忘れてそんな風に。。」

 

「3日なのね、あたしは、もう100年も彼(=アナトーリ)を愛しているような気がするの。彼の前には誰の事も一度も愛さなかったみたい。貴女にはこの気持ちはわかりっこ無いわ、ソーニャ、そこへ座って。」

ナターシャはソーニャを抱いて接吻しました。

「こう言う事はある事だって、あたし聞かされたわ。貴女もきっと聞いてるでしょ❓でも、あたし今度初めてこの愛というものを経験したのよ。これは今までのとは違うのよ。彼を一目見た途端に、彼こそあたしの支配者だ、あたしはその奴隷だ、どうしたって愛さずには居られない、って感じたの。あたしは一体どうしたらいいの❓どうしたらいいのよ、ソーニャ❓」と、ナターシャは幸福そうな怯えたような顔で言いました。

「自分が何をしているか、考えてみる事ね、私はこんな事、このままにしてはおけません。こんな秘密の手紙なんか。。どうしてあんな人にここまで許せたの❓」と、彼女は恐ろしそうに嫌悪の気持ちをやっと隠しながら言いました。

 

「だから言ったでしょ❓アナトーリの前ではあたしは自由意志が無くなる程愛しているのよ。」とナターシャは答えました。

「いいわ、私はそんな事許せない。話してしまうから。」と、涙の堰が切れて、ソーニャは声を上ずらせました。

「何を言うの❓お願いだから。。もし話したら、貴女はあたしの敵よ。貴女はあたしの不幸を望んでいるのね、あたし達(=アナトーリとナターシャ)の間を裂きたいのね。。」

ナターシャの恐怖を見ると、ソーニャはこの親しい友が恥ずかしく、憐れに思えて泣き出してしまいました。

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(解説)

夜会から夜遅く帰宅したソーニャは、ナターシャの部屋に挨拶に行って、机の上のアナトーリからナターシャへ宛てられた恋文を見つけます。

ソーニャは、その手紙からナターシャとアナトーリの間の(接吻まで交わしたと言う)関係❓を知り、混乱してしまいます。

ソーニャにしてみれば、あの立派なアンドレイ公爵が居ながら、ナターシャが遊び人で評判が悪いアナトーリに心を許してしまった理由がわかりません。

ソーニャの価値観からしたら、遊び人のアナトーリなんかよりもアンドレイ公爵の方が立派なのです、結婚相手としてこれ以上の男性は居ないのですね。

 

しかし、それは『愛』を表面的に見たらそうだ、と言う事に過ぎません。

特にナターシャにしてみれば「貴女はまだ若いのだから、1年間距離を置いて本当に貴女が私と結婚しても良いと思うのなら結婚しましょう、それまでに貴女が他の男性と交際したり結婚を決めることも自由です。」と言い残して、婚約の印も与えずに異国の地に行ってしまった男性なのですね、『立派な』アンドレイ公爵は。

彼はナターシャの手にだけ礼儀正しく接吻して、時々冷たい表情でどこかを見ている男性なのですよね。

もちろん、ナターシャがあと10年大人であれば、アンドレイが何を彼女に求めているのか知ろうとし、努力もしたでしょう。

しかし、彼女はまだ17歳くらいで、女性は男性に依存して生きてそれが幸せなのだ、と言う価値観くらいしか知りません。

 

そんな彼女に熱烈に愛をアピールする男性が、彼女の心の隙間を埋めてくれるのなら、彼(=アナトーリ)こそ彼女の全てと行っても良いだろう。。おそらく、ナターシャの気持ちを分析するとすればこう言う感じでしょうかね。。

アナトーリは、計算尽くで自分にプロポーズしなかったボリスとも違うし、父親の反対を押し切ってまでは。。と考えるアンドレイとも違う、その時の情熱のままに障害を物ともせずに自分に突き進んでくる。。そんな新しいタイプの男性だったのでしょうね。。よくわかりませんけれど。