戦争と平和 第2巻・第4部(12−2)ナターシャ、アンドレイ公爵と本当に結ばれるのか不安になる。 | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

ナターシャのテーブルの上には、宵のうちにもうドゥニャーシャが用意してくれた鏡が置かれていました。

「ただ。。何時それが皆実現するかしら❓あたし心配なのよ、その日が来ないんじゃないかしらなんて。。だって、それはあんまり幸せ過ぎるんだもの❗️」と、立ち上がって鏡のほうへ行きながら、ナターシャは言いました。

 

「座ってごらん、ナターシャ、あの方が見えるかも知れなくてよ。」と、ソーニャが言いました。

ナターシャは蝋燭の火を灯して、座りました。(※民間の伝来で、クリスマスに未婚の女性が鏡を覗くと、未来の夫の姿が映るとされていた。)

「髭を生やした男の人が見えるわ。」と、ナターシャは自分の顔を見ながら言いました。

「笑っちゃいけませんよ、お嬢様。」と、ドゥニャーシャが言いました。

ナターシャは、ソーニャと小間使いに手伝って貰って、鏡の位置と向きを直しました。

 

彼女は鏡の奥へずっと連なっている蝋燭の列を睨みながら、一番奥にぼんやり霞んでいる四角の鏡面の中に、棺が見えるのでは無いか(聞かされた話と思い合わせて)『彼が』アンドレイ公爵が映りはしないか、と長い間じっと目を凝らしていました。

しかし、ごく小さな斑点を捉えて、それを人間の姿か、棺の形かに見ようと、どんなに目を凝らしても、彼女はそのどれも見る事が出来ませんでした。

彼女は瞼がぴくぴくし出して、鏡の前を離れました。

 

「どうして他の人には見えて、あたしには何も見えないのかしら❓」と、彼女は言いました。

「今度は貴女が座って見て、ソーニャ、今夜はどうしても貴女に見てもらわなくちゃ。」と、彼女は言いました。

「但し、あたしの代わりにね。。今度はあたし怖いわ、とっても❗️」

ソーニャは鏡の前に座ると、鏡の向きを定めて、見つめ始めました。

「ソフィヤ・アレクサンドロヴナはきっと見えますわよ。」と、ドゥニャーシャは声を潜めて囁きました。

ソーニャはその囁きを聞いていました、そしてナターシャがこう囁いたのも聞こえました。

「あたしにはわかるのよ、きっと見えるわ、この人は去年も見たんだもの。」

3分程、皆黙っていました。

「きっとよ❗️」と、ナターシャは囁きかけて、口をつぐみました。

ふいにソーニャが

抑えていた鏡を脇へ押しやって、片手で目を覆いました。

 

「ああ、ナターシャ❗️」と、彼女は言いました。

「見えたの❓何が見えて❓」と、鏡を押さえながら、ナターシャは咳き込んで言いました。

ソーニャは何も見た訳では有りませんでした。

彼女は、ドゥニャーシャにも、ナターシャにも、嘘をつきたく無かったのでした。

片手で目を覆った時、どうして、何の為に、叫び声を漏らしてしまったのか、彼女は自分でもわかりませんでした。

「彼が見えたのね❓」と、彼女の手を握りながら、ナターシャは聞きました。

「ええ。でも待って。。私。。見えたわ。」と、ソーニャは、ナターシャが『彼』と言ったのは誰の意味なのか、『彼』とはーーニコライの事なのか、アンドレイの事なのか、まだわからずに、思わず呟くのでした。

 

『でも、見えたって、どうして私が言っちゃいけないのかしら❓だって、他の人達だって見えるんだもの❗️それに、私が見えたか、見えないか、そんな事、誰がわかるのかしら❓』と言う考えがソーニャの頭に閃いて来ました。

「ええ。。彼が見えたわ。」と、彼女は言いました。

「どうだった❓どんな風にしてた❓立ってた、それとも寝ていた❓」

「ううん、見えたけれど。。初めは何も無かったわ、ふと見ると、寝てらっしゃるのが。。」

「アンドレイが寝てたの❓まあ、病気かしら❓」

「いいえ、反対よ、楽しそうなお顔でこちらをお向きになったわ。」

すると、こう言った瞬間に、彼女は自分でも、自分の言った事を実際に見たような気がしました。

 

「それで、それからどうだったの、ソーニャ❓」

「それからよく見えなかったわ、何か青いものや赤いものが。。」

「ソーニャ❗️あの人はいつお戻りになるかしら❓ああ、神様❗️あたし不安でならないのよ、あの人の事が、自分の事が。何もかもが。。あたし怖い。。」と、ナターシャは言いました。

そしてソーニャの慰めに一言も答えずに、寝台の上に横になりました。

そして、蝋燭を消してからも長い間、目を開けて、凍った窓ガラスから差し込んでくる月光を見つめていました。。

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(解説)

ここは幸せな結婚を夢見る若い女性達が、果たして自分は幸福な結婚が出来るのか❓と胸をときめかせて鏡占いをするシーンですね。

当時の女性達の幸せが、ちゃんと結婚して、精神的にも経済的にも安定した家庭に入る事だった事が如実に表されています。

だから、自分が立派な男性の妻になれるのか❓は少女達の切実な願いだったのです。

もし、結婚できなかったら。。と言う思いが、すなわち『=恐怖』だったのだと思います。

それは、恵まれた環境で育ち、皆に愛されているナターシャだって例外では無いのですね。

 

ソーニャは、何気なく『鏡占い』をナターシャに勧めましたが、ナターシャが何も見えないと不安がるので、つい、自分にはアンドレイが見えた、元気に笑ってらしゃった。。と嘘をつくのですね。

これは『優しい嘘』だと思います。

「何も見えなかった」と言えば、未来の夫が居ない❓と言う事になりますからね、それにアンドレイとナターシャは、ニコライとソーニャよりも夫婦になれる可能性がうんとあるんですから。。

ソーニャは、内心は自分が占いたいくらいでしょうが、優しくナターシャを優先してあげているのですね。

そして、やはり彼女の心の中には『覚悟らしいもの』もできていたんだろうな、と思います。

私の勝手な想像ですけれどね。

 

それでも勘の鋭いナターシャは一抹の不安を感じながら夜もまんじりと出来ないのですね。。

 

(追記)

このシーンは、第3巻において、ニコライがアンドレイ公爵の妹マリヤと出会った時に、ソーニャがナターシャにこの時の事を話して聞かせるシーンに再度引用されます。

当時の法律では兄妹が兄妹同士でお互いに結婚が出来ない制度だったようです。

すなわち、もし、ナターシャがアンドレイ公爵と結婚すれば、ニコライはアンドレイ公爵の妹であるマリヤとは結婚できない事になってしまいます。(ソーニャはそれを期待していたのですね。。この頃のソーニャは、自分の愛に『見返りを求める』と言う形で表現されています。)

そして、ソーニャがこの時『鏡の中にアンドレイ公爵が横たわっているのを見た』と嘘をついた事を、あたかも実際に自分が見た、だからナターシャはアンドレイ公爵と結ばれる運命なのだ、とソーニャがナターシャに言うシーンが出て来ます。