戦争と平和 第2巻・第4部(10−4)ニコライ一行、トロイカで競争しながらメリュコーワ家に到着す | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

滑り木で油を塗ったように磨かれ、一面に刻みつけられた蹄鉄の跡が月光にはっきりと見えている、平坦な大街道へ出ると、馬どもは心待顔に手綱を引っ張って速度を加え始めました。

左の脇馬は首を伸ばし、ぐいぐい自分の挽革を引っ張りました。

中馬は『始めますか、それともまだ早いですかな❓』とでも聞くように、耳を動かしながら振い立ち始めました。

前方にはもうかなり水を開けて、ザハール(=父のトロイカの御者)の黒いトロイカが白い雪の上にくっきりと見えていました。

 

「よーし、そら行け、頼むぞ❗️」と、ニコライは手綱を握った手と、鞭を握り締めた手を振り上げながら叫びました。

そして、前方から吹きつけるような風が強くなったのと、ぐいぐい首を伸ばしながら、ますます速度を上げて行く脇馬の手綱の手応えとで、トロイカが疾走し出したのが分かりました。

ニコライは後ろを振り向きましたーー叫び声と軋り音を立て、鞭を振って中馬をけしかけながら、後の2台も猛然と追いすがって来ました。

 

ニコライは先頭のトロイカに追いつきました。

2台のトロイカは坂を下って、河沿いの草場を突っ切っている踏みならされた広い道に出ました。

『ここはどこだろう❓』と、ニコライはふと思いました。

『コソーイ草場だな、きっと。いや。違うぞ、これはどこか新しい場所だ、まるで見覚えが無い。一体どこなんだ❗️どうもわからん、まるで魔法の土地みたいだ。何、構うものか、どこかへ出るさ❗️』そう思って彼は馬どもに声を掛けると、先頭のトロイカを追い越し始めました。

 

ザハールは手綱を引き締めて馬どもを抑えると、もう、眉の辺りまで真っ白に針のような氷を付けた顔を振り向けました。

「よし、負けなさんなよ、旦那」と、彼は言いました。

ますます速度を加えて2台のトロイカが並んで疾走し、疾駆する馬の脚が目まぐるしく交錯しました。

ニコライが先に出始めました。

「騙したな、旦那」と、ザハールはニコライに叫びました。

ニコライは3頭の馬をここぞと駆り立て、ザハールを追い抜きました。

馬どもは、煙のような乾いた粉雪を橇に乗っている人達の顔に浴びせかけ、橇の滑り木が雪を切る鋭い音と女達の悲鳴が方々から聞こえました。

 

また馬を止めて、ニコライは辺りを見ました。

辺りは一面依然として、月光をたっぷり吸い込み、星を撒き散らされたような魔法の雪野原でした。

『ザハールのやつ、左へ曲がれと叫んでいたが、なぜ左へ曲がるんだろう❓』と、ニコライは考えました。

『本当に俺達はメリュコーワの屋敷へ向かっているんだろうか❓これがメリュコーワの村かな❓どこを走ってるのか、どういう事になってるのか、皆目見当がつかんーーそれにしても、これは何とも不思議だし、実に素敵だ』と、彼は自分の橇を振り向きました。

「ご覧よ、兄さんの顔、口髭もまつ毛も。。みんな真っ白」と、橇の中の細い髭と眉を付けた奇妙な、美しい、見知らぬ人達の1人が言いました。

 

『あれはナターシャのようだったな。。』と、ニコライは思いました。

『あれがマダム・ショッスか、いや、違うかな。ところで、この髭のチェルケス人はーー誰か知らんが、可愛くて好きだよ』

「寒くないかい❓」と、彼は聞きました。

皆は返事をしないでクスクスと笑いました。

後方の橇からジンムラーが何やら叫びました。

どうやら滑稽な事らしいが、何を叫んだのか、彼には聞き取れませんでした。

「ええ、そうよ。」と、笑いながら何人もの声が答えました。

 

それにしても。。あの黒い影とダイアモンドのきらめきに包まれている不思議な魔法の森、その中にチラチラ見えるまっすぐな大理石の階段、魔法の家の銀色に輝く屋根、そしてけたたましい何かの獣の声。

『もし、これが本当にメリュコーワの屋敷だとしたら、どこを通ったか皆目分からずに飛ばして来て、目当ての家に着いた事になるぞ、ますます持って不思議だ』と、ニコライは考えました。

 

実際に、それはメリュコーワの屋敷でした、そして召使いや小間使いが蝋燭を手に手に、嬉しそうな顔をして車寄せに飛び出して来ました。

「どなたかしら❓」と、玄関から尋ねる声がしました。

「伯爵家の仮装した人達だよ、馬でわかるよ。」と、いくつかの声が答えました。

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(解説)

ニコライは、父のトロイカを走らせている御者のザハールに追いつき追い越そうと必死に橇を走らせます。

ニコライは、ザハールを追い抜き、ふと馬を止めて自分のトロイカを振り返ると、見知らぬ人(扮装しているので)が乗っていて、ソーニャのチェルケス人が可愛くて好きだ、と思います。

ニコライは、この幻想的で澄み切った風景の中、夢のような気持ちになっています。

この時、おそらくニコライはソーニャの新たな一面を垣間見、その魅力にはまって行くのを感じているのだと思います。

しかし、現実離れした空間の出来事であり、おそらくトルストイとしては、この気持ちは決して現実世界で成就する事はないだろう。。と示唆しているようにも思えます。

 

今夜は、ニコライとソーニャの夢の中の二人だけの世界になれるのだ、ソーニャはそれを予感したからこそ、マダム・ショッスに同伴を熱心に願ったのだろう。。と思います。

最後に二人だけで過ごせるクリスマス。。。彼女は、おそらくそう思ったのだろうと推定します。

 

この不思議な魔法のようなトロイカの旅路で、彼らはついにメリュコーワの屋敷に到着します。