戦争と平和 第2巻・第3部(25−2)マリヤからジュリィへのお見舞いの手紙(続き) | 気ままな日常を綴っています。

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いつか静かに消える時まで。。
一人静かに思いのままに生きたい。。

(物語)

(手紙の続き)

そしてどうでしょう❓

あれから5年経ちました今、私も乏しい知力ながらも、何の為にお義姉様が死ななければならなかったのか、そうしてこの死が創造主の限り無き慈悲の一つの現れに過ぎなかったのか、と言う事がはっきりとわかりかけています。

神様のなされる事全てが、例えその大部分が私達には理解出来ない事であっても、自らの創造物に対する無限の愛の現れに過ぎないのです。

 

もしかしたら、お義姉様は母親の全ての義務に耐える力を持つ為には、心があまりにも綺麗過ぎたのかも知れません。

若妻としては、非の打ち所がありませんでしたが、同じ様に立派な母親になる事が出来なかったのかも知れません。

今は、お義姉様は私達に、特にアンドレイ公爵に、最も清らかな哀惜と思い出を残したばかりか、おそらく天国で、私などとても望めない様な羨ましい位置をお受けになられている事でしょう。

しかし、お義姉様一人の事だけでなく、この早く訪れた恐ろしい死は、その全ての悲しみにも関わらず、私と兄にもっとも好ましい影響を与えてくれました。

先立たれたばかりの頃は、この様な考えは私の頭に浮かぶはずも有りませんでした。

でも今は、それがはっきりと確実にわかるのです。

愛するジュリィ、私がこんな事を細々と書くのは、ひとえに、私にとって生活の信条となった福音書の真理を、貴女にも信じさせたかったからです。

 

今度の冬をモスクワで過ごすか、と言う貴女のお尋ねでございましたわね❓

貴女にお会いしたい気持ちは山々ですが、私はそのつもりは有りません。

父音健康がこの頃目に見えて衰えまして、人に反対されるのが我慢出来ず、ひどく怒りっぽくなりました。

その癇癪が、主に政治問題に向けられているのです、ボナパルトがヨーロッパの全皇帝、とりわけ偉大なエカテリーナ女帝のお孫であらせられるわが皇帝陛下と対等の立場で、事を運ぶと言う考えが、父には耐えられないのです。

 

貴女もご存知の様に、私は政治問題には全く無関心ですが、それでも父の言葉や、父とミハイル・イワーノヴィチの話から、世界で行われている事はすっかり知っています。

分けても世界中で、まだこの禿山では偉大な人間ともましてやフランス皇帝とも認められていないボナパルトを、世間では賛賞されている事も、すっかり知っています。

そして父には、それが我慢出来ないのです。

どうやら父は、主に政治問題に対する自分の見解の結果として、ああ言う気性の方ですので、誰彼構わず自分の意見を述べて衝突が起こる事を予見しているらしく、モスクワ行きをあまり語りがらない様に見受けられます。

せっかく養生して少し良くなったのに、絶対に避けられそうに無いボナパルトに関する議論で、またダメにしてしまうでしょう。

 

兄は、この前の手紙でお知らせしました様に、最近すっかり変わってしまいました。

あの不幸の後、兄は今年になってようやく、すっかり精神的に蘇りました。

兄は、私が子供の頃に知っていたとそっくりの兄になりました。

善良で、優しくて、あんな黄金の様な美しい心を持っている人を、私は知りません。

私は、兄は自分の人生がまだ終わっていない事を悟った様に思われます。

 

しかし、この精神的な変化と同時に、兄は肉体的にはすっかり弱くなってしまいました。

前より痩せて、神経質になったのです。

私は、兄の身体を心配しておりましたので、医師が前々から勧めておりました外国への転地療養を、今度兄が決意した事を大変喜んでおります。

 

兄がペテルブルグで最も活動的な、教養高い、聡明な青年の1人として噂が高いと、貴女がお知らせ下さいましたね。

肉親の身びいきですが、私は決してそれを疑った事が有りませんでした。

兄がこちらで百姓達から貴族の方達まで、全ての人達に行った善行は、とても数え切れないほどですのよ、兄は当然の評価を受けただけでございますわ。

 

だいたいどの様にして噂がペテルブルグからモスクワに流れて来るのか、特に兄とロストフ家の末娘との結婚などと言ういい加減な噂には、本当に驚きますわ。

アンドレイがそのうち誰かと結婚するなんて、とりわけあの娘と結婚しようなどとは、私には考えられませんわ。

①兄は、滅多に亡くなった妻の事は口にしませんが、妻に死なれた悲しみが深く、いつか後妻を迎え、私達の可愛い天使を継母の手に渡す事など、とてもなれない事は私が知っておりますもの。

②私の知る限り、あの娘はアンドレイ公爵の好みのタイプでは有りませんもの。正直言うと、私もそれを望みません。

 

もう2枚目が終わる所です、すっかりおしゃべりしてしまいましたね。

さようなら、私の愛するジュリィ。

マドモアゼル・ブリエンヌからも貴女にくれぐれもよろしく、との事でございます。        マリィ

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(解説)

マリヤのジュリィに対するお見舞いの手紙の続きですね。

前回に引き続き、アンドレイの亡くなった前妻のリーザについて、彼女から見たリーザの優しさを綿々と綴っているのは前回の通りですね。

 

さらに父のボルコンスキー老公爵の精神的老化が著しく、特にいま、ロシアが親フランスになっている事、それに伴ってロシア国内でのボナパルト賞賛の風潮に怒り狂っている、と言う事ですね。

よって、今年の冬は禿山から一家でモスクワに出る事はないだろう、という事務的な話が続いています。

 

最後に、アンドレイとナターシャの結婚の噂があると言う話も聞きつけて、マリヤは「そんな話があるはずがない」と思っていると言う部分ですね。

あの人をあまり批判しないマリヤはロストフ家のナターシャについては良い感情は持っていない様な感じも見受けられますね。

ナターシャがボルコンスキー家にあまり受け入れられていない、と言う事実がここで判明しています。

理由は明らかにされていませんが、なんとなくわかりますね。