戦争と平和 第2巻・第3部(16−2)アンドレイ公爵、ナターシャをワルツに誘う。 | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

アンドレイ公爵は、騎兵大臣の純白の軍服に身を包み、長靴下に短い靴という姿で、晴れやかな明るい顔で、ロストフ家の人々からあまり遠く無い人々の輪の前列に立っていました。

フィルコブ男爵が、明日に予定されている国家会議の第1回の集会について彼と話し合っていました。

アンドレイ公爵は、スペランスキイと親密だし、法制委員会の仕事に参加しているので、明日の会議について確実な情報を与えることが出来る立場にありました。

しかし彼は、フィルコブの言っている事には耳も貸さずに、皇帝の姿やワルツの輪の中へ入りきれずに躊躇っている男達を眺めていました。

 

アンドレイ公爵は、皇帝の前で気後れを感じている男達や、踊りに誘われたい思いで胸を焦がしている婦人達を観察していました。

ピエールがアンドレイ公爵の側に寄って、その手を握りしめました。

「貴方はいつも踊るじゃありませんか、あそこに僕の『被保護者』が居るのですが、ロストフ家のお嬢さんです。踊りに誘ってあげて下さい。」と、彼は言いました。

「失礼」と、アンドレイ公爵は男爵の方を向きながら言いました。

「この話はまたの機会にゆっくり語り合いましょう。舞踏会には踊らねばなりませんので。。」と、彼はピエールに示された方へ歩いて行きました。

 

絶望に沈みかけ、今にも気を失いかけた様なナターシャの顔が、アンドレイ公爵の目に映りました。

彼は直ぐにその顔がわかり、その気持ちを察し、彼女が恐らく社交界に出たばかりである事を悟りました。

そして窓辺での彼女の会話を思い出しながら、明るい晴れやかな表情でロストフ伯爵夫人の前に歩み寄りました。

「こちらがうちの娘でございます、どうぞお見知りおき下さいませ。」と、伯爵夫人は顔を赤らめながら言いました。

「もし、お嬢様にご記憶いただけましたなら、私はもう拝顔の栄に浴しておりますが。。」と、アンドレイ公爵は傲慢無礼だというペロンスカヤの評とはまるで正反対に、慇懃に深々と一礼して言うと、ナターシャの前に歩み寄り、踊りへの招待の言葉を言い終わらぬうちに、胴へ回す為に片手を差し伸べました。

彼はワルツを1曲申し込みました。

 

絶望へも歓喜へも変わろうとして、今日は息が止まりそうになっていたナターシャの顔の表情が、ふいに幸福と感謝に満ちた天真爛漫な微笑に輝き渡りました。

『もうずっとお待ちしておりましたのよ。』この余りの幸福におののいている少女は、片手をアンドレイ公爵の肩に乗せながら、滲みかけた涙の陰から現れた微笑で、こう語りかけている様でした。

2人は輪の中へ滑りでた2番目の組でした。

 

アンドレイ公爵は、かつての最も優れた踊り手の1人でした。

ナターシャも踊りの名手でした。

彼女の小さな足は、素早く、軽やかにステップを刻み、顔は幸福の感動に輝いていました。

彼女のあらわな襟元や腕は細すぎて、ふくよかな美しさはありませんでした。

エレンの肩に比べると、彼女の肩は痩せていたし、胸の形もまだついておらず、腕も細いのでした。

しかしエレンは、数前の視線に擦られて、その肌がワニスで艶出しをかけられた様になっていましたが、ナターシャは初めて素肌を晒し、恥ずかしさにいたたまれなかったであろう様な、処女らしい初々しさが有りました。

 

アンドレイ公爵は踊りが好きでしたし、皆が持ちかけて来る難しい政治の話から早く逃れたいし、さらに皇帝在籍の為に醸し出された忌々しい困惑の輪を早く断ち切りたい、と思って踊り始めたのでした。

彼がナターシャを相手に選んだのは、ピエールに勧められたのと、彼女が彼の目に留まった最初の美しい女性だからでした。

そして、彼女が彼のこんなに近くで身を動かし、微笑みかけると、途端に彼女の魅力の美酒が彼の頭を強く打ちました。

彼は息をつく為に彼女を止め、立ち止まって踊っている人々を眺め始めた時、自分でも生き生きと若返った様な気がするのでした。。

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(解説)

はい。アンドレイ公爵がナターシャと初めて相対する場面ですね。

アンドレイは、一度オトラードノエでナターシャと面識はあり、すでに彼はナターシャの若さと美しさに心を奪われていたのですね。。

この時点でアンドレイ公爵は、ずっと自分の領地と実家の禿山という田舎に引っ込んで生活をしていたのにも関わらず、心機一転ペテルブルグに返り咲いています。

これも、恋のなせる技だったのですね。

 

ピエールから勧められて、ナターシャと初めて触れ合ってダンスをし、彼女の息遣いを目の当たりにするにつれて、アンドレイはますますナターシャの無垢な美しさに心を傾けていきます。

今回は、アンドレイのナターシャに対する心の推移を具体的に記した場面です。

 

しかし、ここでアンドレイが惹かれているナターシャの持っている美は、『生まれたばかりの赤ん坊の可愛らしさ・美しさ』とほぼ同じなのですね。

無垢な清潔な美しさです。

半分人生が終わっていた様に思っていたアンドレイ公爵の心の闇は、この清らかな光によって照らされ、希望を与えられるのですね。

 

しかし、このまま一生、清らかな心をキープし続ける事など出来るのでしょうか。。

もし、二人が結ばれるとしても様々な問題(アンドレイの頑固な父親の存在、アンドレイの前妻との間の子供、あまりにも格式の異なる家風。。。。)が有り、ナターシャの清らかさも陰りが見える事があると思うのですよね。。将来的には。

『愛』というものは、表面的なものだけでは決して無いという事すら考えさせることが出来ないナターシャの若い魅力にアンドレイはハマってしまった。。と言う事でしょうかね。

さて。。先を続けましょう。。