戦争と平和 第2巻・第3部(14)ロストフ家、エカテリーナ女帝時代の顕官の舞踏会に招かれる。  | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

12月31日、1810年という新しい年を迎える前夜、エカテリーナ女帝時代のある顕官の邸宅で舞踏会が催されました。

舞踏会には各国の外交団や皇帝も出席される事になっていました。

この舞踏会の為にロストフ家の人々の間は大騒ぎで、招待が来ないのでは無いか、衣装が間に合わないのでは無いか等と気を揉んでいました。

伯爵夫人の遠縁に当たる親しい友達で、皇太后付きの女官を勤めていたマリヤ・イグナーチェヴナ・ペロンスカヤという老婦人が、ロストフ家の人々と一緒に行く事になっていました。

この老婦人が、ペテルブルグの上流社会での田舎者のロストフ家の人々の指南役を勤めていました。

 

ナターシャにとっては、生まれて初めての大きな舞踏会でした。

彼女は、この日は朝8時に起きて、1日中激しい不安に包まれて、熱に浮かされたようにくるくると飛び回っていました。

伯爵夫人は、臙脂色のビロードの衣装を、ナターシャとソーニャの2人は薔薇色の絹の衣装の上に白いチュールを重ねて、胴には薔薇色の花を飾り、髪はギリシャ風に結うはずでした。

伯爵夫人もソーニャも着付けを終えていましたが、ナターシャは皆の世話をしていたので遅れていました。

 

ロストフ家の人々は、夜の10時に、タヴリーチェスキイ公園の側の女官の家に迎えに寄ることになっていました。

舞踏会は10時半までに集まるように決められていましたが、ナターシャはこれから着付けをして、さらにタヴリーチェスキイ公園にも寄らなければなりませんでした。

厄介な事になっていたのは、ナターシャのスカートの丈が長過ぎた事でした。

2人の小間使いが気忙しげに糸を噛み切りながら、裾上げをしていました。

もう1人の小間使いは、ピンを何本もくわえて、伯爵夫人とソーニャの間を飛び回っていました。

さらにもう1人は片方の手を高く上げて、チュールの衣装をそっくり持ち上げていました。

 

「そろそろ出来たかな❓」と、ドアの陰から覗きながら伯爵が言いました。

「ほら、香水。ペロンスカヤがもう待ちくたびれてるぞ。」

「出来ましたわ、お嬢様」と言うと、小間使いは裾を詰めたチュールの衣装を2本の指でそっとつまんで持ち上げ、何やらフット吹き、指で払い、その動作で自分の捧げている衣装の軽やかさと清らかさを保証しました。

ナターシャは衣装をつけ始めました。

「じっとして、お嬢様、動かないで。」と、小間使いはひざまずいて、衣装を引っ張ってたくれを直しながら言いました。

 

「そら、ごらん」と、ナターシャの衣装を見回して、ソーニャがもう知らないという声で叫びました。

「だから言ったのに。。まだ長いわ❗️」

ナターシャは姿見に映して見る為に、少し離れました、衣装は確かに長いのでした。

「いいえ、お嬢様、ちっとも長くありませんよ。」と、ナターシャの後から膝で床をはいながらマヴルーシャは言いました。

「そうね、長いならかがりましょう。。直ぐですから。」と、思い切りの早いドゥニャーシャは言うと、胸のハンカチから針を抜き取り、また床にひざまずいて仕事に掛かりました。

 

その時、ビロードの衣装に帽子という姿の伯爵夫人が、恥ずかしそうにそっと入って来ました。

「よお❗️美人じゃ無いの❗️おまえ達より美しいぞ❗️。。」と、伯爵は叫びました。

「ママ、帽子をちょっと曲げた方がいいわ。」と、ナターシャは言いました。

「あたしが直してあげる」そう言うより早く、もうそちらへ駆け出していました。

裾をかがっていた小間使い達が、それについて行けないで、チュールが少しピリッと裂けてしまいました。

「あらっ❗️どうしたのかしら❓あたしじゃ無い、知らないわ。。」

「大丈夫ですよ、かがりますから、見えなくなりますよ。」とドゥニャーシャは言いました。

 

10時15分過ぎに、ようやく一同は馬車に乗り込んで出掛けました。

これからまだタヴリーチェスキイ公園に寄らなければなりませんでした。

ペロンスカヤはもう出掛けるばかりになっていました。

彼女の所でも、年寄りで顔も醜い方なのに、やはりロストフ家とそっくりの騒ぎが演じられていたのでした。

ペロンスカヤはロストフ家の人達の装いを褒めました。

ロストフ家の人達も、彼女の好みと装いを褒めました。

髪や衣装を乱さないように気を付けながら、11時に馬車に乗り終わって出発しました。。

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(解説)

初めての大きな舞踏会に招かれて出席するのに大騒ぎになっているロストフ家の女性達の描写です。

大騒ぎをしているとは言え、皆が和やかに衣装を整え、小間使い達も、本当にこまめに動いている様子が描かれています。

小間使い達の献身ぶりを見ても、きっと太っ腹のロストフ伯爵は使用人達を大事に雇っていた様子がうかがわれると思います。

 

ここでは省略していますが、ナターシャがファッションセンスが有ると自分でも認識していますので、彼女はソーニャや母親の出で立ちに詳細に口を挟んでいます。

その為に自分の衣装がなかなか整わない様子が描かれています。

トルストイが時間まで詳細に記載しているところを見ると、ロストフ家、特にナターシャのマイペースぶりを時間で表現していると思います。

また、彼女は(父の使用人に対する献身とは裏腹に)少し小間使い達に対する配慮が欠けているように見えますね。

仕事がしやすいように。。と言う配慮が全く見られません。

相手は、もう時間が過ぎそうなのだから必死なのですけれどね。

母親の帽子の角度なんかいつでも直せるのに、ここでも出しゃばって却って迷惑行為をしています。

それを誰も注意もしません。

彼女は16年に渡りこのように育てられて来た。。と言う経緯が見て取れると思います。

今まででも、そのような描写が散見されていますしね。

 

そもそもロストフ家は、ペテルブルグでは田舎者の一族で、今回の(皇帝も出席なさるような)舞踏会に招待されるのか否かさえ判らない状態だったようです。

それなのに、自分達より目上のペロンスカヤを待たせ、会場に到着するのは夜の10時半まで、と決められているのに、どう考えても1時間以上の遅刻ですね。

しかもその原因が主にナターシャだなんて考えられない事なのです。

それでも若さも美しさも有れば、不問とでも言いたいのでしょうか。。誰もナターシャに注意する者はいません、ペロンスカヤでさえ、ロストフ家の遅滞に何も言っていない様子です。