第1巻・第3部(17−2)ロストフ、さらに先に進み、潰走するロシア兵の群に出会う。 | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

ロストフは、後で聞いて愕然とするのでしたが、あの輝かしい近衛騎兵ーー有望な未来を持つ富者や、青年や、士官達の集団のうち、突撃後生き残ったのは、わずか18名に過ぎなかったのでした。

近衛歩兵連隊の陣地まで来ると、彼はその辺りに砲弾が落下しているのに気づきました、彼は砲弾の音というよりも、兵士達の顔に現れた不安の表情、士官達の不自然な緊張からそれを知ったのでした。

 

彼は、近衛歩兵隊の散兵線の一つの後方を通って行くと、彼の名を呼ぶ声を聞きました。

「ロストフじゃないか❗️」

「誰だ❓」ボリスと気付かずに、彼は叫び返しました。

「何と、突然第一線に出たのさ❗️わが連隊は突撃を敢行したんだぜ❗️」と、初めての戦火をくぐった青年によく見られる、ある幸福そうな微笑を浮かべながらボリスは言いました。

ロストフは、馬を止めました。

「そうか❗️で、どうだった❓」と、彼は言いました。

「撃退したさ❗️」と、ボリスはおしゃべりになって、元気に言いました。

そしてボリスは、近衛連隊が配備についている時、目の前の部隊をオーストリア軍と思っていたら、いきなり砲弾をブチ込まれて、自分達が最前線に出ている事を知り、いきなり戦端を開く事になった、という話をし始めました。

 

ロストフは、ボリスの話が終わらないうちに、馬を動かしました。

「どこへ行くんだ❓」と、ボリスが尋ねました。

「陛下のところへ、伝令将校だ。」

「あそこにお見えだよ。」と、ロストフの言った『陛下』と『殿下』と聞き違えて、ボリスは言いました。

そして彼は、百歩程の所に立っている、近衛騎兵の軍服に鉄兜姿の大公を指差しました。

「あれは大公殿下じゃないか、僕は総司令官か陛下に用があるんだよ。」と言って、ロストフは馬をやろうとしました。

 

「伯爵、伯爵❗️」と、ベルグがボリスに負けない程元気に、反対側の方から駆け寄りながら叫びました。

「伯爵、私は右腕を負傷しましたが、でも戦線に止まりました。伯爵、軍刀は左手で握りますよ。わがフォン・ベルグ家は、代々立派な騎士でした。」

ベルグはさらに何か言いましたが、ロストフは終いまで聞かずに、もう馬を走らせていました。

 

ロストフは、また最前線に迷い出る事の無いように、激しい銃声や砲音の聞こえている所は遠く迂回しながら、予備軍の線に沿って馬を進めました。

ふいに彼は、自分の行く手で我が軍の後方に当たる、敵が居ようとはおおよそ予想出来ぬ辺りに、近い銃声を聞きました。

『はて、何だろう❓我が軍の後方に敵が侵入したのか❓そんなバカな。。』と、ロストフは思いました、すると、我が身と会戦の帰趨を案ずる恐怖がふいに彼を襲いました。

『あれが何であろうと、もう迂回する訳には行かぬ、俺はここで総司令官を探さなければならぬ、そして全員が玉砕するなら、みんなと死を共にするのが俺の使命だ』

 

ふいにロストフを襲った不吉な予感は、烏合の衆と化した様々な部隊の敗走兵達に埋め尽くされたブラッツ村後方の平地に、馬を乗り進めるに連れて、いよいよ動かし難いものとなりました。

「どうしたんだ❓何があったんだ❓誰を❓誰が襲っているんだ❓」と、入り乱れて潰走してくるロシア兵やオーストリア兵の群れにロストフは聞きました。

「誰が知るもんか❗️全滅だ❗️もうおしめえよ❗️」潰走する兵士達の群れがロシア語やドイツ語やチェコ語で叫びました。

何が起こったのか、ロストフ同様誰もわかっていないのでした。

そして混乱の中で、ロシア兵とオーストリア兵が撃ち合う始末でした。

 

『おお、何たる醜態だ❗️』と、ロストフは思いました。

『この辺りのどこかに陛下が居られるのだ。何時このザマをお目に止められるかもしれぬ。。しかし、こんなはずが無い。きっと、一部の腰抜け共が騒いでいるだけだ。じきに収まるさ。一刻も早くこの連中から離れてしまう事だ❗️』

敗走と潰走という考えは、ロストフの頭には入り込む余地が無いのでした。

ブラッツェン高地上に総司令官を探す事を命じられた、他ならぬその位置に、彼はフランス軍の砲と部隊を望見しましたが、彼は自分の目を信じたくは無かったのでした。。

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(解説)

バグラチオンの連絡書を携えて、クトゥーゾフ総司令官か陛下に会いに行くロストフは、馬を進めるに従って、どうも様相がおかしい、しかも、最初聞いていた話(=この会戦は、ロシア・オーストリア軍の圧勝になるはずだ、という話)とは全く違う不安感に満ちた空気を感じます。

しかも、味方の後方に敵のフランス軍が居るらしい気配を感じます。

『まさか。。我が軍の後方に敵が侵入したのか❓』と、ロストフは不安にかられながら馬を乗り進めます。

 

そしてこのロストフの不吉な予感は、烏合の衆と化した様々な部隊の敗走兵達に埋め尽くされたブラッツ村後方の平地に馬を乗り進めるに連れてはっきりしたものになります。

さらに総司令官が居るはずのブラッツェン高地には、フランス軍の砲と部隊を望見するものの、自分の目を信じることが出来ないのでした。

 

ロストフ始め兵士達には、「この会戦は楽勝だろう。」と上層部にインプットされている訳ですから、現場で砲撃されている兵士達ですら、何が起こったのか訳がわからないのですね、その混乱がさらに混乱を広げ、被害を拡大している感じです。