第1巻・第2部(12−1) アンドレイ公爵、フランツ皇帝に拝謁する。 | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

謁見式の後、昨日の侍従武官が拝謁を許すという皇帝の意向を、慇懃にアンドレイ公爵に伝えました。

フランツ皇帝は、謁見室の中央に立ったまま、ボルコンスキーを迎えました。

話を始める前に、皇帝が何を言い出したものやらわからないで戸惑っているのを見て、アンドレイ公爵はびっくりしました。

皇帝からは簡素な質問がなされ、アンドレイは分かり切った返答をしました。

「何マイルあるのか❓」

「どこからどこまででしょう、陛下❓」

「デュレンシュタインからクルームス までじゃ。」

「3マイル半であります、陛下。」

「フランス軍は左岸を放棄したのか❓」

「斥候の報告によりますと、夜半に最後の部隊が筏で渡河したとの事であります。」

「クルームス に馬糧は十分にあるか❓」

「馬糧は十分とは申せません。必要量にはまだあと。。」

皇帝は彼を遮りました。「シュミット将軍が戦死したのは何時か❓」

「7時だったと記憶しております。」

「7時か❓ 惜しい事をした❗️実に悲しい事だ❗️」

 

皇帝は労を謝すると言って、軽く頭を下げました。

アンドレイ公爵は、謁見室を退出しました。

すると、周り中から優しい目が彼に注がれ、優しい言葉が聞こえました。

昨日の侍従武官が、どうして宮殿内に泊まってくれなかったのかと恨みを言うし、陸軍大臣が歩み寄って皇帝より勲三等マリヤ・テレサ勲章が授与された事を伝えて、彼にお祝いの言葉を述べました。

大公妃も彼と会う事を望んでいました。

 

ビリービンの言葉に反して、アンドレイ公爵もたらした知らせは喜びをもって迎えられたのでした。

クトゥーゾフはマリヤ・テレサ十字章を授与され、全軍に感謝状が与えられました。

ボルコンスキーは招待責めにあって、その日いっぱいをオーストリアの枢要な顕官たちの訪問に費やさなければなりませんでした。

夕方の4時過ぎに訪問を終わって、アンドレイ公爵は、今回の全戦と急使としての勤めを父に報告する手紙を頭の中で作りながらビリービンの家に戻って来ました。

アンドレイは、実は、ビリービンの家に戻る途中で行軍中に読む本を買い込む為に書店に立ち寄ってかなりの時間を取られていました。

 

ビリービンの家の玄関先では、荷物が積み込まれた馬車が止まっていて、召使いが重そうにトランクを引きずりながら扉口から出て来ている所でした。

「どうしたの❓」アンドレイ公爵は尋ねました。

「あ。。公爵様❗️私どもはもっと奥へ向かうのですよ。悪党どもが後ろまで迫りましたので❗️」

「何を言っているのか❓どういう事だ❓」と、アンドレイはたたみかけました。

そこへビリービンが迎えに出て来ました。いつも落ち着いているビリービンの顔に狼狽がありました。

「タボール橋(※ウイーンにある橋頭堡)のお粗末な一席ですよ。フランス軍は、抵抗無しに渡ったのですよ。」

アンドレイ公爵は何の事かわかりませんでした。

「貴方はどこに居たのかね、もう町中が知っている事を知らないなんて❓」

「今、大公妃のところから戻って来たのですが、あそこでは何も聞きませんでしたが❓」

 

「要するにですな、アウエルスペルクが防衛している橋をフランス軍が渡った、橋は爆破されなかった、それでミュラ(※フランス軍元帥)が今、ブリュンへの道を急進中で今日明日にもここへ到着するというのですよ。」

「爆薬が仕掛けられているのに、どうして橋が爆破されなかったのですか❓」

「それはこっちが聞きたい所ですよ。ボナパルト自身も知らんでしょうな。」

「しかし、橋が渡られたとすると、防衛軍も壊滅したという事で、退路を断たれる事になるでしょう❓」と、アンドレイは言いました。

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(解説)

アンドレイ公爵は、オーストリアのフランツ皇帝に拝謁を許され、皇帝から労をねぎらわれ、勲章も賜ります。

ロシア総司令官クトゥーゾフにも勲章が与えられ、ロシア軍には感謝状が贈られます。

アンドレイは、昨日宮殿に到着した際の侍従武官や陸軍大臣の対応とは打って変わったオーストリア側の対応に戸惑いますが、ほっと一安心したようです。

彼は要人達との会見を終え、父親への今回の会戦の報告、急使の報告の手紙の構想を練りながら、書店で長い時間本を漁るという余裕を持って、宿泊先のビリービンの家に帰宅します。

 

しかし、そこで待っていたのは、アウエルスペルク公爵が守っていたはずのタボール橋をフランス軍が難なく渡って、ウイーンからブリュンへフランス軍が押し寄せて来ているという事実でした。

アンドレイが本屋で時間を費やしている間にブリュン中にその情報が到着したのでした。

アンドレイ公爵は、敵が渡ろうとすれば爆破されるべきだったのに爆破されずに、しかもなぜ難なくフランス軍がブリュンに向かう事が出来るのか、まだ事実関係が飲み込めません。