第1巻・第2部(8−3) フランス軍砲弾の嵐の中、第二騎兵中隊橋を焼く事に成功する❗️ | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

一方、ネスウイッキイ、ジェルコフと、幕僚将校は、一緒に敵地の射程外に立って、橋の辺りを慌ただしく動き回っている、黄色い騎兵帽、モールの縫飾りの付いた暗緑色の軍服、青い騎兵ズボンの少数の人群れと、対岸の遠くから肉眼でも容易に大砲と見分けられるものを馬に引かせて次第に接近してくる、青い外套の敵兵の集団を見守っていました。

『橋は焼き落とせるだろうか、落とせないだろうか❓どっちが先か❓味方が駆けつけて火をかけるのが先か、フランス軍が榴弾砲撃距離に到着して、味方をなぎ倒すのが先か❓』と、橋の辺りに動めいている騎兵隊達と、対岸に接近してくる銃劍を光らせ大砲を引いた青い外套の敵兵を眺めていました。

 

「おお❗️軽騎兵達がやられているぞ❗️」とネスウイッキイが言いました。「もう榴弾砲撃の射程内だ。」

「おや」と、幕僚将校は言いました。「あれは榴弾砲だ❗️」

フランス軍基地の、大砲を取り巻く兵達の群れの上に、一つ、二つ、三つと、ほとんど同時に砲煙が上がりました。

そして第一砲の砲声が聞こえて来た途端に、四つ目の砲煙が上がりました。

二つの砲声が相次いで聞え、続いて三つ目が聞こえました。

「おっ。。おお❗️」ネスウイッキイは激しい苦痛に焼き立てられたように幕僚将校の腕を掴んで、うめきました。

「見たまえ、一人倒れた。。倒れたぞ❗️」

「二人。。のようですね❓」

「僕がツァーリだったら、絶対に戦争なぞしないぞ。」と、顔を背けながらネスウイッキイは言いました。

 

今度はまちまちな間隔をおいて、砲煙が上がり、榴弾が唸りを立てて橋の上に落下し、はじける炸裂音が空気を引き裂きました。

しかし今度は、ネスウイッキイは橋の上で何が起こったか見る事が出来ませんでした。

橋から濃い煙が上がったからです。

軽騎兵達は、橋に火を放つ事に成功したのです。そのためにフランス軍の榴弾砲の砲撃は、彼らの作業ではなくロシア軍の軽騎兵達に照準が定められたのでした。

軽騎兵達が、馬丁が馬を引いて待機している位置に戻るまで、フランス軍の大砲の為に三名がなぎ倒されたのでした。

 

ロストフは、ボグダーヌイチに勇気を疑われはしないか、とそればかりに心を奪われていましたが、斬ろうにも相手が居なかったし、火縄を持って来なかったので、橋に火を放つ作業に加勢も出来ず突っ立っていました。

ふいに、まるで胡桃をばら撒いたような炸裂音が橋の上を足って、彼のすぐ側に居た軽騎兵が呻き声と共に欄干に倒れ掛かりました。

ロストフは、他の軽騎兵達とそちらへ駆けつけました。

「担架❗️」「おうう。。放っといてくれ、頼む。」と、負傷兵は呻いていましたが、やはり彼は抱き上げられ担架に乗せられて行きました。

 

ニコライ・ロストフは顔を背けて、遠くを、ドナウ河の流れを、空を、大地を眺めました。

そこは美しい光景でした。

『何も、何もぼくは望まないだろう。。ただあそこへ行かれさえしたら。。こんなにたくさんの幸福があるのに、ここには。。呻きと、苦痛と、恐怖と、この慌ただしさ。。そうだ、これがあれなのだ、死なのだ。。一瞬したら。。ぼくはもはやあの太陽も、あの流れも、あの谷間も二度と見る事が無くなってしまうのだ。。」

 

『神よ❗️ぼくを救いたまえ、許したまえ、守りたまえ❗️』と、ロストフは口の中で囁きました。

軽騎兵達は馬の位置に駆け戻り、落ち着きが戻り始めました。

「どうした、おい❗️煙の匂いを嗅いだのか❓」と、ロストフのすぐ耳の上でワシカ・デニーソフの声がしました。

『全てが終わった。だが、おれは臆病者だ。』とロストフは腹の中でつぶやいて、のろのろと馬の上の人になりました。

 

「わしが橋を焼いたと、公爵に報告して下さい。」と、連隊長は勝ち誇ったように言いました。

「だが、損害を尋ねられたら❓」

「極めて軽微ですな❗️負傷二名、戦死一名です。」

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(解説)

第二騎兵中隊は、フランス軍の大砲が至近距離に来ているにもかかわらず、橋に戻って「橋を焼く」という任務を遂行します。

榴弾が炸裂する中、決死の覚悟で橋に火をつけている最中ですね。

そんな中、目の前で榴弾に仲間が倒れます。

ニコライ・ロストフはその光景を見て、戦争の残酷さに身震いし恐怖心すら感じています。

高台から橋を見下ろしていたネスウイッキイも同じように恐怖を感じていますね。。「僕がツァーリだったら、絶対に戦争なぞしないぞ。」と。

ふと。。ニコライは目前を見ると、そこには美しい風景、美しい青空、燦々と降り注ぐ太陽、雄大に流れるドナウ河が見えます。

こんな美しい幸福の中を、どうしてこんな地獄絵のような現実が。。

ニコライは、人間ならば当然の幸せへの憧れを、自分が臆病者だからだ、と思っています。

ニコライ・ロストフの初陣は、挫折感を感じさせるものだったようです。