第1巻・第1部(23) ボルコンスキー若公爵夫妻、禿山の領地に帰郷する。 | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

アンドレイ若公爵夫妻が、禿山の領地に到着した時、老公爵はお休み中で、息子夫妻の帰省と言えど予定を変更する事は有りませんでした。

それはアンドレイ自身もよく心得ていたので、アンドレイは夫人を連れて、まずマリヤの所に行く事にしました。

夫人は、まるで舞踏会の主人に賞賛の言葉を捧げる時のような表情で夫に「これはまるで宮殿ですわね。」と言ったり、侍僕のチホンにも、夫にも、案内の給仕にまでも微笑を振りまいていました。

「あれはマリヤがお稽古してるの❓気付かれない様にそっと参りましょう。。」

アンドレイは、憂いを含んだ慇懃な態度で夫人の後から歩いて行きました。

 

クラヴィコルドの音が聞こえている部屋の前で、マリヤの相談役のマドモアゼル・ブリエンヌが飛び出して来て、公爵夫人と抱き合うのでした。

彼女達は、音が聞こえてくるソファ室へ入って行きました。

結婚式の日にほんの短い間会った切りの令嬢と夫人が、抱き合って再会を喜び合うのでした。

マドモアゼル・ブリエンヌも二人の側に立って感じ入ったように微笑するのでした。

そして三人の婦人が泣き出したので、アンドレイは気まずくなりましたが、彼女達にすれば泣くのがごく自然な事と思われたのでした。

 

前もってアンドレイ公爵夫妻の帰郷を聞かされていなかったマリヤは今更ながらに「あら❗️アンドレ、私、兄さんが目にも入らずに。。」と声を張り上げました。

公爵を見上げたマリヤの表情は、その瞬間実に美しく愛情に満ち溢れた眼差しでした。

公爵夫人の方は、休みなく他愛のない事をしやべり続けていました。

しかし、マリヤの心の内には、兄嫁の話に関わりの無い自分の考えが動いていた事は明らかでした。

「それで。。どうしても戦争に行くつもりですの、アンドレ❓」と、彼女はため息と共に兄に言いました。

リーザもため息をつきました。

「それは明日だよ。」と、兄は答えました。

「この人は、私を捨てて行くのですよ。もうじき昇進出来るかも知れないと言うのに。。」

彼女は思い当たったように、兄嫁の方を向くと、優しい目でその腹部を指し「そうなのね❓」と聞きました。

「ええ。。そうなの。ああ。。私恐いわ。。」と、リーザは泣き出しました。

「休息が必要なんだよ。」と、アンドレイは顔をしかめながら言いました。

「リーザをお前の部屋に案内してやってくれ。ぼくは、お父様に挨拶をして来ます。」

 

老公爵の午睡の時間が過ぎると、チホンがアンドレイを呼びに来ました。

アンドレイが父の書斎に入って行った時、彼は客間での装ったような気難しい表情では無く、ピエールと過ごす時のような生き生きとした表情になっていました。

アンドレイは父の側に歩み寄って、差し出された額に接吻し「お父さん、帰って参りました。身重の妻を連れまして。」と、生き生きとした敬いの目で言いました。

 

「お体の方はいかがですか❓」

「体を壊すのは、ばかか道楽者だけだよ。わしは朝から晩まで忙しいし、節制しとる。まあ、健康そのものという所だな。」

「神のおかげですね。」と、息子は笑いながら言いました。

父は息子に戦争戦略の事などを聞きますが、アンドレイの話は全く聞かず、三度いきなり話を中断させる始末でした。

息子は苦笑し「ぼくは、ありのままを語ったままです。ナポレオンは、既にこれに劣らぬ計画を作成していますよ。」

「なに。お前の話に目新しい事は何も無かったのでな。国へ帰るのはいつの日ぞ。。か。さあ、食堂に行ってなさい。」

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(解説)

アンドレイ今日尺夫妻の帰郷の様子ですね。

息子が帰って来ても、自分の生活パターンを崩さぬ父を、実はアンドレイは尊敬しているのですね。

父・息子のやり取りから、お互いの信頼感が見えます。

父は、息子が明日戦場に行く事を知り、(一応、息子を立てて)戦略の話などをさせますが、内心は酷く寂しいのですね。

かけがえのない息子の命の保証すら有りません。

でも父は、黙って息子を送り出す気で居るようですね。

 

一方、女性達はお互いに出会いと再会を喜び、涙まで流します。

女性達の表面的な感情表現、また、リーザ夫人の素振りはまるで「社交界の華」と歌われたママで、そんな様子がアンドレイの気にそぐわないようですね。

父のアンドレイに対する「語らない愛情」とリーザ夫人の「表面的な求める愛」の対比のように感じます。

 

一方、思慮深いマリヤは、リーザの妊娠を察知し、妊娠している妻を置いて明日戦地に出かける兄の気持ちを測りかねているようです。