(セーヴル陶磁器美術館)
1756年、工場はヴァンセンヌからセーヴルに移転しました。
新工場の建物は、シャトー風の極めて非機能的なもので、無駄な経費がかかりました。
しかし、釉薬の改良を始め、技術的進歩は目覚ましいものがありました。
すでにヴァンセンヌの時期から、明るい青色(トルコブルーあるいはブルー・セレスト)、濃い青色(いわゆる「国王の青」)鮮やかな緑などは製品の基調色として人気を得ていました。
(1788年 セーヴル軟質磁器 ブルーセレステ金彩花絵パネル花と果実絵のスープディッシュ)
(1771年 セーヴル軟質磁器 ド・ロアン公の平皿)
ブルー・セレストのプレートです。
(1760年頃 セーブル軟質磁器 花弁縁皿)
※個人的には、セーブルの軟質磁器の金彩は、「手書き」でしかなし得ないと思っています。
セーブルのように均一に整然と打とうとするならば。
セーブルは、硬質磁器に踏み切った頃から、金彩はプリント+手書きによる上書きでなされていますが、軟質磁器の場合は磁器質自体がツルツルではないので、うまくプリントはできないのではないか、と思います。
この小石文様も、引き伸ばして見ると、手書きの細い線と点描で描かれています。
本当に気の遠くなるような作業です。
ちなみに、マイセンは硬質磁器ですが、金彩は全て「手書き」でなされています。
(ウイキペディアより。おそらくこれが「王者の青」)
さらに、1757年に絵付工のクルーエによって優雅なピンクが作り出されました。
いわゆる「ポンパドールのバラ色(ローズ)」です。
おそらく中国・清の粉彩の桃色にヒントを得て開発されたようですが、より典雅で洗練されたピンク色となっています。
この魅力的な色釉の創製には、科学者エロが何らかの役割を果たしていたらしく、それを裏書きするかのように、1766年のエロの死と相前後して、この釉は消滅してしまいます。
つまり、この最もロココ的な色釉は、生まれてわずか10年ほどの寿命しか持たなかったのです。
そして、その10年は、フランス・ロココの象徴ともいうべきポンパドール夫人(1764年没)の全盛期と奇しくも一致していたのです。
(1832年 セーブルおそらく硬質磁器 ピンク地金彩ストライプカップ&ソーサー、ミルクジャグ)
ポンパドール夫人の時代よりも60年ほど下りますが、ポンパドール・ピンクはこんな感じの色合いだったのではないかと想像しております。
デザインも、この時代はロココ調ではなく、アンピール様式(ナポレオン時代はアンピール様式が主流だったようです。)っぽいですね。
※アンピール様式
「アンピール様式」とは、19世紀初頭にフランスで流行した装飾様式のこと。 ナポレオン第一帝政の下で発展したことから、帝政様式と呼ぶことも多い。 大衆様式でもあり、均衡が取れたデザイン。 そのため自由ということを大きくうたった建築であるとも言える。
他の釉としては、明るい黄色(いわゆる「黄水仙の黄色」)、濃い赤紅色、紫色などがありますが、使用頻度は低かったようです。
例えば、下の写真の「ポプリ香壺(ポンパドールの壺)」は、この紫色の釉は非常に珍しく、類品は無いようです。
(1750年 ヴァンセンヌ軟質磁器 ポプリ香壺「ポンパドールの壺」)
(黄水仙の黄色)画像はお借りしています。おそらくポンパドール夫人が存命だった頃の作品。
1764年のポンパドール夫人の死は、初期の、そしておそらく絶頂期のセーヴルの終焉を告げるものでした。
王の寵愛を引き継いだ形のデュ・バリー夫人は、セーヴルのデザインをロココ調から新古典主義風に変えました。
これは言い換えれば、ルイ15世様式からルイ16世様式への移行であり、さらには近い将来におけるソフト・ペーストから真正の磁器(ハード・ペースト)への推移を予告するものでした。
しかし、それとは別に、そこにはより大きな時代の変化が進みつつあったのです。
大革命の嵐が、セーヴル窯を一時閉窯にの危機に追いやったのです。
デュ・バリー夫人も、やがてギロチンの露と消えてゆきました。。。
※新古典主義(しんこてんしゅぎ、英語:neoclassicism)は、18世紀中頃から19世紀初頭にかけて、西欧で建築・絵画・彫刻など美術分野で支配的となった芸術思潮を指す。それまでの装飾的・官能的なバロック、ロココの流行に対する反発を背景に、より確固とした荘重な様式を求めて古典古代、とりわけギリシアの芸術が模範とされた[1]。
(新古典主義建造物:エトワール凱旋門1806年着工1836年完成)
(1775年 セーヴル軟質磁器 バラと矢車草図プレイト)
新古典主義的なデザインと思われます。シンメトリー様式(ギリシア美術の影響)ですし。
(アンピール様式 事例) 画像はお借りしております。ナポレオン1世時代ですね。デザインや頭文字からしても。
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今日はここまでです。
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