見れば、若くて可愛らしい女が、きちんとした身なりをして、薫きしめた香の匂いが芳しく漂い、限りなく気品の高い感じがするのよ。
「これはもう、私の思い悲しんでいる死んだ娘が帰って来たようです」と尼君は泣きながら女房達にその若い女を自分の部屋に抱き入れさせるのよ。
「何かおっしゃいな。貴女はどういうお身の上のお方なのですか❓どうしてこんな事になられたの❓」と尼君が言うけれども、衰弱しきって今にも息も絶え入りそうに見えるのよ。
験者の阿闍梨は、土地の神々の為にお経をあげてお祈りし、加持祈祷をするわ。
この人は、見るからに弱り果てていて、今にも消えて行きそうな有り様なので、阿闍梨は「これでは到底生きられまい。死ねばつまらぬ死人の穢れの為にここから出られず閉じ籠もらなければならなくなる。全く迷惑千万だ」と言うのよ。
僧都は「しかしなかなか高貴なお方のようだ。たとえ死んでしまったとても、そんな高貴な人を何もせずそのまま捨てておしまいになれるだろうか」と互いに話し合っているのよ。
妹の尼君は「ああ、静かにしなさい。この事を人に喋らないように。。あとで厄介なことが起こると困る方」などと口止めしながら、病気の親よりもこの人を生き返らせてみたいと、その命を惜しんでぴったりと看病に付き添っているのよ。
見た目もこの上なく美しい人なので、死なせてはならないと、皆大騒ぎして世話をするのよ。
その女は、弱り切っているものの、さすがに時々目を見開き、涙をとめどなく流すのよ。。
妹の尼君は「ああ情けない。今でも忘れられない死んだ私の娘の代わりに仏様が授けて下さったと思っているのに、その甲斐もなく貴女が亡くなってしまったら、お逢いしたばかりに却って辛い思いをする事でしょう。前世からの縁があったからこそ、こうしてお世話をさせていただくのでしょう。せめて一言でも何かおっしゃって下さいな」と言い続けるのよ。
女はやっと「生き返ったとしても、私はどうしようもないこの世に不用の者なのです。夜、この川に投げ込んでください」と息も絶え絶えに言うのよ。
「何かおっしゃるので嬉しいと思えば、何という情けない事を。。一体どういう訳でそんな事をおっしゃるのです。また、どうしてあんな所にいらっしゃったの❓」と訊くけれど、女は何も言わなくなったのよ。
この女は、まばゆいばかりに美しく、やはり人の心を惑わそうとして現れて来た魔性の化け物かと思われるのよ。
一行は、2日ばかりそこに滞在したのよ。
この女の不気味な話題に、人々はあれこれ憶測して不審な出来事に驚いているのよ。
近所に住む下人が、僧都がこちらに御逗留だと聞き付けて御挨拶に来るのよ。。その者達の話はこうなのよ。
「お亡くなりになった八の宮の姫君で、薫の大将が通っておいでだった方が、急にお亡くなりになったというので、山荘では騒ぎになりました。その御葬式の様々な雑用のお手伝いに参って、昨日はこちらにお伺いにも出来ませんでした」
女房達は「昨夜、川向こうに見えた火は、御葬送の火のように仰々しく見えなかったけれど」と言うのよ。
このさと人は「御葬儀は簡素になさったので。。」と答えるのよ。
その里人は、死穢に触れていると言うので、邸の中には入れず、庭先で立ち話のまま帰ったのよ。
周りの者は「薫の大将が、八の宮の姫君にお通いだったのは随分昔の事で、そのお方はお亡くなりになってから何年も過ぎていますのに。。。。。(※大君の事ですね。)、今の話は一体どなたのお話でしょう。。帝の姫宮を北の方にいただいているのに、そんな浮気はなさらないはずですが。。」などと噂しているのね。
母の尼君は、御病気が良くなられたので、こんな不気味なところは長く御滞在なさるのも良くないと、帰る事になったわ。
車を二輌用意して、母の老尼がお乗りになった車には、お仕えしている尼が二人乗り込み、次の車にはこの女を寝かせて妹に尼君ともう一人の女房が付き添いに同乗するのよ。
夜もすっかり更けて住居がある小野に帰り着くわ。
僧都は母の尼君のお世話をして、妹の尼君はこの素性も知れない女を介抱するのよ。
母君は次第に回復されたので、僧都は横川におのぼりになったのよ。
こう言う若い女を連れて帰るなどと言うことは、法師達の間では慎むべき事で、その現場を見なかった人々には僧都達は話さないのよ。
尼君もみんなに口止めするのよ。
それでも、もしかして、この人を探して訊ねてくる人があるのではないか、と思うと気が気でないのよ。。
「どうしてあんな田舎者の住む宇治のような所に、こんな上品な人が落ちぶれさすらっていたのだろう。。初瀬詣りの途中で気分が悪くなり病気になったのを捨てられたのだろうか。。」と妹の尼君は考えたりするのよ。
宇治の院で「川に流して欲しい」と言った一言以外は物を言わず、素性も事情もわからないけれど、尼君は何とかして健康な体に回復させたいと思うのよ。
でも、この女は気力も体力も尽き果てたようにぐったりしたまま起き上がる事も出来ず、不安な状態が続くのよ。
初瀬の観音様から亡き娘の代わりの者を授かると言う夢告をいただいた事を打ち明けて、阿闍梨にこっそり芥子を入れて護摩を焚いたりしてもらうのね。
こうして4月、5月も過ぎてしまったわ。。。
妹の尼君は思い余って、山に籠って修行中の僧都に「もう一度山を下りてこの人を助けて欲しい。この人が意識不明のまま命が今日まで持ったのは、死ぬはずのない寿命があったからでしょう。。あなたが京にお出かけになりますならば、山籠りの誓願を破る事になりましょうが、この西坂本までなら差し支えないでしょう」と、切ない心情を書き連ねたお手紙を差し上げるのね。。
今日はここまでです。
いつも有難うございます💞
次回も「手習」③です。
今日も良い一日をお過ごしくださいね❣️
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(追記)
妹の尼君がその女を見ると、その女はきちんとした身なりをして気高い感じがします。
験者の阿闍梨は、土地の神々の為にお経を上げて加持祈祷をし、この女を回復させようとしますが、女は今にも消え入りそうな有り様です。
妹の尼君は「この事を人に喋らないように。。後で厄介なことが起こると困るから」と」口止めしながら、病気の親よりもこの女を生き返らせたいと看病します。
この美しい人を死なせてはならないと、皆大騒ぎをして世話をするのでした。
その女は弱り切っているものの、時々目を見開き涙を流します。
それを見て妹の尼君は「今でも忘れられない死んだ私の娘の代わりに仏様が授けて下さったと思っているのに、その甲斐もなく貴女が亡くなってしまったら、お逢いしたばかりに却って辛い思いをする事でしょう。前世からの縁があったからこそ、こうしてお世話をさせていただくのでしょう」と言います。
女はやっと「私はこの世に不用の者なのです。夜、この川に投げ込んでください」と息も絶え絶えに言うのでした。
一行は、そこに2日ばかり滞在します。
そこへ近所の下人が来て僧都に「八の宮の姫君で薫の君が通っておいでだった方が急にお亡くなりになり、葬儀も済まされました」と言うのです。
周りの者は、大君の事と勘違いしてその里人の話は何年も前の話だと思うのでした。
そうするうちに母の尼君の病気が回復したので、僧都と妹の尼君の一行は、この女を連れて住居がある小野に帰り着きます。
そして僧都は横川に登って行きました。
こう言う若い女を連れて帰るなどと言うことは、法師達の間では慎むべき事で、その現場を見なかった人々には僧都達は話をしません。
尼君もみんなに口止めします。
それでも、もしかして、この人を探して訊ねてくる人があるのではないか、と思うと気が気でないのでした。
「どうしてあんな田舎者の住む宇治のような所に、こんな上品な人が落ちぶれさすらっていたのだろう。。初瀬詣りの途中で気分が悪くなり病気になったのを捨てられたのだろうか。。」と妹の尼君は考えたりするのでした。
妹の尼君は、素性も事情もわからないこの女を何とかして健康な体に回復させてあげたいと思うのでした。
こうして4月5月と過ぎて行きます。
妹の尼君は、この女の意識が回復しないのを心配して思い余って修行中の僧都に「山を下りてこの女を助けて欲しい」とお手紙をさし上げるのでした。。
