源氏物語「橋姫」③ 薫の君、八の宮家の姉妹を垣間見る。 | 気ままな日常を綴っています。

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いつか静かに消える時まで。。
一人静かに思いのままに生きたい。。

霧が深いので、姫君達のお姿ははっきり見えそうに無いのよ。

またさっきのように月が出て欲しいと思ううちに、奥から「お客様がいらっしゃいました」とお知らせした女房が居たのか、急に簾を下ろして皆、奥へ入ってしまったわ。

慌てた様子でなく、しなやかな身のこなしで、そっと隠れたお二人の御様子は、衣擦れの音もせず、高貴で優雅だったのよ。

薫の君は、しみじみ心を打たれるわ。

 

薫の君は、そこを離れ出ると、京のお邸に帰りのお車を引いてくるように、と使者を走れせ、さっきの宿直の男に「折悪くお留守に参上したが、却って嬉しい事があって、日頃の憂鬱な気持ちも少しは慰められた。こうして私がお伺いした事を姫君に申し上げておくれ。すっかり夜霧に濡れてしまったという愚痴も。。」とおっしゃったのよ。

男は、姫君のお側に参って、それをお伝えするわ。

 

姫君達は、まさか見られていたとは思いも寄らず、くつろいで弾いていた合奏の音も、もしやお聞きになったのではないか。。と恥ずかしく思うのよ。

そういえば、不思議に芳しく匂う風が吹いてきたのに気がつかなかったとは、何とも迂闊な事だったか、とおろおろと恥ずかしくてたまらないのね。

 

ご挨拶を取り次ぐ女房なども、不馴れで機転も利かなさそうなので、薫の君は霧の為に自分の姿が見えないのを幸いに、さっきの御簾の前に歩み寄って座るのよ。

田舎びた若い女房達がお相手する言葉も知らず、敷物を差し上げる様子もぎこちないのよ。

若い女房達では、すらすらと応対申し上げられそうになく、奥から古い女房達を起こして来ようとするけれども、手間取っているのよ。

妙に勿体ぶっていると、薫の君に思われるのも困るので、大君(一の姫君)は「何事もわきまえない私達でして、わけしり顔にどうお答えして良いものやらさっぱりわかりませんので。。」と、たいそう教養有り気に気品ある声で遠慮がちにおっしゃるのよ。

 

薫の君は「全てを悟りすましていらっしゃる父宮とご一緒にお暮らしの貴女のお心の内では、何もかもお見通しとお察し致します。世間にありがちな色めいた連中などとは一緒にお考えいただきたくないと存じます。今はまだ話し相手も無く一人者でして全く所在無く暮らしております。私の世間話でも聞いていただくお方とお頼りして、また、こうした世間離れした御暮らしではそちら様も物思いもおありでしょうから、その気晴らしにそちらからお便りを下さるくらいの親しいお付き合いをさせていただけたら、どんなに嬉しい事でしょう。。」と、色々お話しするわ。

 

大君が恥ずかしがってお答えに困っているうちに、起こしにやった古い女房(弁の君)が出て来たので、その者に応対を任せるわ。

その老女(弁の君)は、御簾の中に薫の君を案内するわ。

老女は「八の宮は、世間の人並みにも数えられないような御様子で、当然お訪ね下さってもいいお方達さえ、お見舞いにいらっしゃるという事もなく、次第に淋しくなる一方ですのに、こうした御親切心は、どんなにか有り難く思っているかわかりません。ましてお若い姫君達も、御厚意がおわかりにならぬはずはございませんが、それをお口にするのが恥ずかしいのでしょう。。」と、物馴れた調子で言うけれど、その立ち居振る舞いなどはなかなか見どころがあり、優雅な声をしているのよ。

 

薫の君も「貴女(弁の君)が万事よくわかって下さっているのは頼もしい限りです」とおっしゃって物に寄りかかって坐っていらっしゃるお姿は、霧にしとどに濡れてしっとりと湿っていて、この世ならぬ極楽浄土の香りかと思うような芳香が漂い満ちているのよ。。

そして、この老女(弁の君)は、さめざめと泣き出すのよ。。

「出過ぎたこととお咎めもあるかと存じ、我慢しておりましたが、悲しい昔のお話につきまして、どんな機会かを捉えてお耳にお入れしたいとずっと念仏の間にもお願いしてきたお陰でしょうか。。こうして貴方様にお会い出来まして、何もお話しないうちに涙があふれて来ます」と申すのよ。

これ程までこの老女が深く悲しんでいるのもおかしい。。と薫の君は不審にお思いになり「貴女のように、ものの情もおわかりになる人は居なかったので、いつも霧深い道中を独り濡れそぼちながら往来していました。いかにも嬉しい機会だと思うから、何もかも残らずお話し下さい」とおっしゃるわ。

 

老女(弁の君)は続けるわ。。

「(薫の)御母の三条の宮のお邸にお仕えして居た女房の小侍従(※柏木を手引きした女房)は亡くなってしまったとか。。その頃親しくしておりました同じ年頃の人々も、ほとんど亡くなってしまいました。私は、遠い田舎から伝手をたどって、ここ5、6年ばかりこのお邸にお仕えしております。この節、藤大納言(※柏木のすぐ下の弟。按察使の大納言。)の兄君で、お亡くなりになった柏木の衛門の督の事はご存知でしょうか❓ この、柏木の衛門の督の乳母だった者は、この弁(私)の母でございました。 それで私も、お側にお仕えしておりましたので、衛門の督はお心一つに納めきれないような事を時々私にお洩らしになられたのです。そして、御臨終も間近かになった時は、私を枕元にお呼びになり御遺言をなさいました。その中に、どうしても貴方様のお耳にお入れしなければならない事が一つございます」と言って、さすがにその後は口を閉ざしてしまうのよ。

 

薫の君は、何とも不思議でもっと聞きたいと切にお思いになられたけれど、確かに今は人目も多いことだし、徹夜してしまうのも不作法なように思われたので「いつかきっとこの話の続きを聞かせて下さい。このまま霧が晴れて明るくなったらきまり悪いような格好(霧に濡れきっている)で姫君達に失礼だと思われますので、残念ですが。。」と、お立ちになるわ。

その時、あの八の宮のお籠りになる寺の鐘の声がかすかに聞こえて、あたり一面に霧が立ち込めているのよ。

その様子が悲しいので、まして、この姫君達のお心はどんなにか切なくていらっしゃるだろう。。と薫の君はお思いになるのよ。

 

薫の君は和歌を詠むわ。。「朝が明けて来ているけれど、帰る家路も見えない程霧が立ち込めている。。(=帰りたくないのです)」と。

立ち去りにくそうに佇んでいるそのお姿は、山里の女房達の目にはどんなにか美しく映った事か。。

御返歌は、女房達が気後れしているので、また前のように大君がひどく遠慮がちに「雲のかかっている山崖に霧まで立ち込めて、父宮との間を隔てているのが悲しいのです。。」と、お返しになり、ほっと溜め息を洩らされる気配はしみじみ薫の君の胸を打つのよ。。

 

今日はここまでです。

本当に長文で失礼しております。

次回は「橋姫」④です。

 

それでは皆様、よい一日をお過ごしくださいね❣️

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(追記)

薫が姫君達を見ている時、来客(薫の)を知らせる女房の声がします。

姫君達は、急に簾を下ろして、しなやかな身のこなしで奥に入ってしまいます。

薫は、そんな優雅な姫君達に会えたのが嬉しくてたまりません。

 

薫の来訪を聞いた姫君達は、先程の合奏の音を薫に聞かれたのかも知れない。。そう言えば、不思議な芳香が漂って来ていたのに。。と、内心恥ずかしく思います。

取次の若い女房は、来客に慣れていないので、奥に居る古い女房を呼びに行きますが、大君(長女の姫君)は妙に勿体ぶっていると見えるのが気の毒で、薫に自らお待たせしている事に詫びを入れます。

そんな大君の気品と教養に、薫は感銘を受けます。

 

薫は、大君に自己紹介をし、今後お互いに手紙などを交わせたら。。と大君に申し出ます。

そして、自分が独身であることも。

薫は、大君にすっかり恋をしてしまっていたのです(本人に、そこまでの認識が持てているのかは不明)

 

ようやく奥から古い女房の弁の君が応対に参ります。

弁の君は、薫がこうして八の宮を尋ねて来てくれている事に礼を言います。

弁の君の立ち振る舞いは、物慣れているとは言え、高貴な邸宅に長年仕えて来た優雅さと物の道理をきちんとわきまえている様子を兼ね備えています。

 

弁の君は、あの柏木の乳母の子で、故・太政大臣邸(柏木のお父様の屋敷)に6年程勤めていた女房だったのです。

弁の君は、薫の姿を見てさめざめと泣き出し、柏木が乳母である自分の母親に対し、柏木の心に納めきれなかった思いを伝えていたのだ、と言い出します。

しかし、その後の話は流石に人目もあるので口を閉ざしてしまいます。

薫は、その話は「いつか良い折にでも」と弁の君に伝えます。

 

夜霧が漂って来ます。

薫は、帰ろうにもこの深い霧の中では帰れそうもない(=貴女の側から離れたくない)と大君に和歌を詠みます。

大君はそれに対し、何気ない返歌を薫に詠みます。

幻想的な山荘のシーンの中でこうして二人は初めて出会います。

この世のものとも来世のものとも思えないような山の中の幽玄さが、まるで二人の行く末を暗示しているかのようです。