夕霧は「この程度にお側に近寄った位の事が人並み外れて許し難い無礼でしょうか。。私がお慕い申し上げていた気持ちは、積もる年月によくお耳になさっておられたでしょうに。。」と女二宮に物静かに胸の思いを打ち明けるのよ。
女二宮は、ただもう口惜しくてお返事など決してする気も無いのよ。
「貴女は、私の気持ちにお気づきの事も有ったろうに、無理に気づかぬふりをなさいますので、はっきりお耳に入れてわかっていただきたいと思ったばかりです。これ以上馴れ馴れしい振る舞いなどは、お許しが無い以上決して致しません」と夕霧はひたすらこらえて心優しく気を遣うのよ。
女二宮が襖を抑えていらっしゃるのは何の役にも立たず、すぐに開けられるけれど、夕霧は引き明けようとはせず「この程度の役に立たない隔てさえ頼みになさり、無理にも私を拒もうとなさるお気持ちがお気の毒で」と笑い、情熱のままの無茶な行動はしないのよ。
襖の隙間から伺う女二宮のお姿が、優しく気高く優雅でいらっしゃる事は、世間の噂などと違い、やはり格別のお方とお見受けされるのね。
夕霧は「貴女の仕打ちがあまりにも薄情なので、自分のこの気持ちをとても抑えきれない様な気分になります。男女の仲を全く御存知ない訳でも無いでしょうに。。」と責めるのよ。
女二宮は、男女の性愛の経験のある女だから気軽に口説きやすいと言わんばかりに、夕霧が仄めかすのは不愉快で、自分はどうしてこんなに不幸な身の上なのだろう。。と死んでしまいたい気持ちになるのよね。
宮は聞き取れない程の声で泣きながら「夫の死別に泣かされて、なおまた貴方の邪恋に噂され、こうも泣かされる」とふっと洩らされるのよ。
夕霧は「あらぬ噂を私がたてたところで、亡き人に降嫁された事で一度立てられた噂は消えもしないのに。。」と、「一思いにご決心下さい」と嘆願するのよ。。
そして軽々と宮のお身体を抱き寄せて月光の明るい方へ連れて行くのよ。
「これ程類もない私の情熱な恋心を認められて。。ご安心になって下さい。。お許しが無ければこれ以上の振る舞いは決して、決して。。」ときっぱりと申し上げているうちに、明け方も近くなるわ。。
そして、いきなり好色めいた乱暴な振る舞いに及ぶなどという事はこれまで未経験だし、宮に対してもお可哀想だと思うし、どちらの為にも人目につかぬ様。。立ち込めている霧に紛れて帰って行くのよ。。
「どうせ(私達の間に何事も起こらなかったにせよ)浮き名は立つでしょう。。これも冷酷に私を追い払われる貴女のお心のせいですよ」と言い残して。。
夕霧は、その帰り道の草原一帯の露のしとどさにすっかり濡れてしまったのよ。
この姿では、雲居の雁の君がきっと恨んで咎められるに違いないと思い、ひとまず六条の院の花散里の御殿に行くのよ。。
「いつにないお忍び歩きをなさったのね」と女房達は囁きあっているのよ。
夕霧は、濡れたお召し物を着替えて源氏の御前に参上するのよ。
ところで、夕霧は、小野の山荘に(後朝では無いけれども)お手紙を差し上げるけれど、女二宮は御覧にもならないわ。
女二宮は、御息所はこの事をお耳になさるだろう。。と思うと恥ずかしく思うのよ。
何となくいつもと違った自分の素ぶりにお気づきになって、人の噂はたちまち広がる世間だから自然御息所のお耳にも入り、自分が隠し立てをしていたとお考えになったらとても辛いので「いっそ女房達がありのままをそっとお耳に入れてくれないものか」と思うのよ。
女房達は、二人の仲はどうなっているのだろう。。このお手紙の内容を知りたがって大将のお手紙を広げてご覧に入れようとするわ。
女二宮は「あの人に姿を見られてしまった軽率さは私の過失に違いないけれど、あの方の無遠慮な振る舞いが口惜しくて、とてもお手紙など拝見できない、とお返事なさい」と臥せってしまうのよ。
今朝のお手紙は、普通の後朝のお手紙でもないらしいけれど、女房達にはやはり昨夜お二人に何があったのか、不審でならないのよ。。
御息所は、そんな事とは夢にも御存知ないのよ。。
日中のお加持が終わって阿闍梨が一人残るわ。
この者は、実に聖僧然とした朴訥な律師で、突然「いつからあの夕霧の大将は、こちらの姫宮に通うておいでなのかな❓」と問うのよ。
御息所は、故大納言の遺言で夕霧の大将は誠実に面倒を見てくれているだけです、と答えるのよ。
しかし、律師は、昨夜夕霧がこちらに泊まられた事を御息所に言うのよ。(※平安時代の聖僧って口が軽い💦)
そして「この縁組みは望ましいものでは無いです」とも。。
つまり、こういう事なのよ。
夕霧は優れた人物でご立派だけれど、北の方(雲居の雁の君)のお里が今を時めく御一族で(身分的には女二宮の方が上)、こちらの宮とて、とてもあの御権力は抑えられまい。。と。
本妻の嫉妬の怒りを買ってしまえば成仏の障りにもなろうか。。とも。
坊主頭を振りたててズケズケと言いたい放題なのよ。
御息所は心の中で「そんな色めいた心に気づかない事は無かったが、元々お人柄が聡明なのでまさか。。人が少ない様子を見て取って忍び込まれたのか。。」と思うのよ。
律師が立ち去った後で、御息所は小少将を呼んで詳しい事情を聞こうとするのよ。
小少将は「大将がこれまでずっと長い間心に秘められたお気持ちをお伝えしてお解りいただきたいというだけの事では無いでしょうか❓」と(聡明に)答えるのよ。
御息所が辛そうに聞くので、小少将は「どうしてありのまま申し上げてしまったのだろう。。ただでさえ御病気で苦しんでおられるのに。。」と後悔して座っているのよ。。
御息所は、女二宮を、あくまでも皇女として高貴なお扱いをしようとのお考えでしたのに、世間並みの女の様に軽々しい浮き名が立つのか。。と思うととてもたまらなく嘆くのよ。。
そして「宮にこちらにお出で下さる様申し上げなさい」と、涙を浮かべて言うのよ。
小少将は、女二宮の所に伺って「御息所はこうおっしゃってお出でです。。」とだけ申し上げるわ。。
今日はここまでです。
いつも長文ですみません💦
次回も「夕霧」③です。
今日も良い一日をお過ごしくださいね❣️
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(追記)
夕霧と柏木の妻だった女二宮は、客観的に見れば、釣り合うご縁だとは思うのですよね。
でも、青抜きの部分の理由で、この二人が夫婦になる事は、世間的には「好ましくない」と評判になるのは目に見えているようですね。
まず、前回も記載しましたが、夕霧と女二宮の周囲関係が比較的近い縁なのですね。
だから、亡くなった柏木との関係でも夕霧の本妻の雲居の雁との関係でも「倫理的にどうか❓」と思われるフシがあるのですね。
また、女二宮は朱雀院の皇女ですから、一度降嫁しただけでも「世間的には驚き」なのですね。
貢女は高貴で誇り高く、男性との浮名を流さずに清く正しく生きるのが良しとされていたようですから。
母親の御息所は、亡くなるまで女二宮が一度ならず二度も結婚することに難色を示します。。
これは、女二宮自身も「自覚」している所なのですよ。
だから、「女性としてどうか❓」と考える以前に「皇女としての立場で振る舞うのなら、相手が夕霧と言えどなびいてはならない」という強い自覚があるのですね。
そして、当時は、自分の感情に素直に従ってしまって、ご先祖様の顔に泥を塗ってなならない、という「義務感」の方が優先していたようですね。
でも、私、個人的には、女二宮は、夕霧にこんなに言い寄られて何も感じないはずは無かったと思うのですよ。
だから、その自分の感情と戦うのがとても辛いのでしょうね、だって、本当に嫌なら素っ気なくしておけば済む事ですからね。
そのような点から、なんとなく行間に夕霧と女二宮との「心理戦」を見て取れるような気がするのです。
夕霧だって、この結婚は難しいと自覚しているからこそ、慎重に事を進めている感じも読み取れますね。
それだけ女二宮に惹かれているのでしょうね。
