その年も押し詰まったわ。
朱雀院は、相変わらず病気が重いままだったのよ。
院は心急かされて女三宮の裳着の式を思い立つわ。
朱雀院のなさる行事も、恐らくこれが最後となるだろう。。と帝も東宮も唐渡りの品をたくさんお送りになるわ。
六条院からもおびただしい献上品が届くわ。
秋好む中宮からは、その昔、中宮が御入内の時に朱雀院が送った御髪上げの用具にお祝いの意味を込めて新しく細工を加えた物が入れられていたわ。
中宮からは「いつも髪に挿しながら昔の帝のお情けをしみじみと感じておりました。この美しい小櫛もすっかり古くなりました。。」とお手紙が添えられていたのよ。
朱雀院は、中宮からの和歌を見つけて、その昔、美しかった斎宮の彼女の面影を思い出すわ。。
そして「貴女のご幸運にあやかってこの小櫛を継いだ女三宮が万世までも栄えますように。。」とだけお返事するわ。
朱雀院は、気分が苦しいのを辛抱しながらようやく裳着の儀式を無事終えたわ。
そして、その3日後に決心してついに御落飾するのよ。。
朧月夜を始めお妃の方々もそれは悲しみにくれるわ。。
源氏は、朱雀院が少し気分が良いと聞き参上するわ。
源氏は、准太上天皇だけれども何事も簡略して院のご負担にならない様に訪問するのよ。
朱雀院は、源氏の訪問を待ちかねていたわ。
院は、出家を思い立った経緯などをお話しになって「姫宮たちを後に残して捨てて行くのが可哀想で辛いのです。その中でも他に世話を頼む人の居ない女三宮の事がとりわけ気掛かりです」と源氏に言うわ。
源氏は、院が、(自分が内心気持ちが引かれている)女三宮の事を仄めかしていると思うのね。
それで源氏は「女三宮には、今のうちに適当な人物を選び婿と決めておくべきでしょう。。」と申し上げるわ。(※ここで源氏の「承諾」の暗示が見て取れます。源氏は、女三宮を引き受ける事への六条の院の女君たちへの波紋よりも、自分の男としての興味を優先してしまう、と言う瞬間ですね。)
それで朱雀院は「この幼く頼りない姫宮を、特別に引き取ってお育て下さい。あなたの考えでしかるべき縁を結んで結婚させていただけないでしょうか❓」と、ついに自ら源氏に女三宮の事をお願いするのよ。
源氏は「私が真心を込めてお世話申し上げたら、院のお側にいらした時と変わらないように思われると思います。ただ、自分の命も先が短いのだけが気掛かりです」と、ついに姫宮との結婚を引き受けてしまうわ。。
この日は雪が降っていて、院は風邪が酷くなり気分も優れなかったけれど、女三宮の件を源氏に依頼して決めたのですっかり安心したのよ。
一方、源氏は、と言えば、女三宮の事をお引き受けしたものの、何となく心苦しくて思い悩むわ(※当然です。)
紫の上も、こうしたお話がある事を噂には聞いていてものの「まさか。。」とは思っていたのよ。
流石に源氏も、紫の上が何の疑いも持って居ない事が可哀想に思うわ。
ましてやこの頃では、お互いに心の隔てもすっかり無くなって睦じい仲になっているので、心に隠し事が有るのが気が重くてその夜はそのまま寝て朝を迎えるのよ。
翌日、ついに源氏は紫の上に、女三宮との事を打ち明けるわ。
朱雀院の病気が重い事、女三宮の身の上について自分にあれこれお頼みになった事、それを見るにつけ聞くにつけ、どうしてもお断りすることも出来なくて引き受けてしまった事など。。
自分も朱雀院のご意向については、人を介して聞いて居たが、今更結婚など気恥ずかしく何かと口実をつけてお断りして居たが、直接お目にかかった際の院の親心の深い思いを伺いどうしてもお断りできなかった、とも。
貴女はさぞ不愉快に思われるだろうけれど、貴女に対する自分の愛情が変わる事は無いので、気にしないように。むしろ女三宮の方こそ気の毒だと思うので、ぜひ仲良く穏やかに暮らして欲しい。。と。
今までは、紫の上は、源氏のちょっとした浮気沙汰でも機嫌を悪くして居たようなご気性の方だったのよ。
それが今回は寛大なのよ。
紫の上は「女三宮の母君は、私の父方の叔母君に当たられるというご縁からも、親しくしていただけたら。。」と謙遜するのね。
源氏は、紫の上の態度を却って心配するわ。
そして、人から何を言われようと成り行きに任せてつまらない嫉妬はしないように。。。と教えて差し上げるのよ。
紫の上は「まるで晴天の霹靂だわ。もうこうなっては騒ぎ立てるようなみっともない真似はするまい。。院のご意向に対して意見をする事も出来ないのであるから。。今回の事を、継母の式部卿の宮の北の方が知ったらさぞかしいい気味だと思われるだろうけれど。。」と心の中で呟くのよ。
今ではもう。。自分の上に立つ人はあるまい、と安心してしまった源氏との夫婦仲を人はどんなにか物笑いにするだろう。。と、表面はさりげなく振舞って居ても胸は潰れる思いだったのよ。
新年になったわ。
朱雀院では、女三宮が六条の院に移る支度が着々と進んでいくわ。
今まで姫宮に求婚して居た方々は落胆するわ。。
冷泉帝からも入内の思し召しは有ったのだけれど、今回の決定で中止となったのよ。
今日はここまでです。
長文、本当に失礼いたしております。
ありがとうございました。
次回も「若菜・上」③です。
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(追記)
これは、常識的にもありえない決定ですね。
ストレートに、朱雀院もなぜ源氏を❓と思います。
確かに冷泉帝への入内は高貴な女御に揉まれる苦労というのは分かります。
しかし、自分と3歳しか年が違わない弟・源氏に嫁がせるメリットって❓
確かに、源氏は紫の上のように素晴らしい女性を育て上げているので、女三宮も同じようにしつけて欲しい。。って言うのはわかりますけれどね、でも「素材」の問題もあるのですよね。いくら源氏でも「手に負える人」と「そうでない人」は居るでしょう。。
さらに、源氏は才気煥発、資産もあるし、囲っている女君に宮様のような抜群の高貴な出身の方は居ない。。。正妻格の紫の上は帰る所もないし、性格も優れているという噂だから自分の立場をわきまえるだろう。。と言ったところですね、朱雀院の胸の内は。
そして源氏が出家するとかいう場合には、どこか適当な婿❓を見つけて再婚させると言ったルートでしょうかね。。。
そんなにうまいこと事は運ぶものではありません。特に「人の気持ち」が絡む縁というものは。
源氏は、ここでも亡き藤壺の尼宮の縁つづきという事で若い女三宮に興味を持ってしまいます。
そして、人格者である風流人である兄の朱雀院の娘だから、「少なくとも情への理解、美意識は高いだろう」と思い込んでいるのです。
かけがえのない紫の上の胸の内は、考えてはいますが配慮は足りて居ない。。この人は自分の好色な思いに忠実な男ですね。
六条の院への波紋は凄い(女三宮の身分が高いのも理由)のですが、その辺の配慮は息子の夕霧以下ですね〜。
そして紫の上の反応ですが、これは女の立場から見て「かなり危険な」状態ですね。
昔の女性の立場を考えて見ても「飛び出す」事も出来ない彼女(父の式部卿の宮家には恐ろしい性格の北の方がいるし、精神病の娘も帰って来て居ます。)は、この事で自分の基礎を覆される思いですから。。。
