蜜のあわれ | ヤンジージャンプ・フェスティバル

ヤンジージャンプ・フェスティバル

基本はシュミ日記です。
…遊びをせんとや生れけむ 戯れせんとや生れけん…
  

まだ続きますよ・・な、昔観た映画の感想文シリーズ。

この作品を観に行った時はちょっと長めのお休みをいただいていまして「それならば、この機会に観そびれていた映画を観て回るぞ!」といろいろと劇場を検索していたところ、かつて通っていた劇場がリニューアルされて、ちょっと前の話題作を続々と上映していることを発見!

場合によっては3日間位通う気分で鑑賞計画を練っていたのでした。
(結局、1日しか行かなかったけど)

では、リニューアルされた劇場で観た初めての作品。
あらすじの紹介です。

【あらすじ】
室生犀星の同名幻想小説を「狂い咲きサンダーロード」「シャニダールの花」の石井岳龍監督が映画化した文芸ファンタジー・ロマンス。金魚が姿を変えたコケティッシュな美少女と老作家の秘めたる禁断の恋の行方をシュールなタッチでユーモラスに綴る。
主演は「私の男」「この国の空」の二階堂ふみと「HANA-BI」「天の茶助」の大杉漣。共演に真木よう子、高良健吾、永瀬正敏。
 老作家を“おじさま”と呼び、一緒に暮らしている赤い服の美少女、赤子。その正体は、尾ひれをひらひらさせて水の中を泳ぐ真っ赤な金魚だった。気が向けば少女の姿で外にも繰り出すが、ある時、野良猫にバレてお尻を引っ掻かれ、尾ひれをケガしてしまう。
そんな赤子の前にある日、真っ白な着物の女性が現われる。彼女は老作家への想いを断ちがたく、この世を彷徨う幽霊だった。

(allcinema onlineより)

こちらの劇場はシートがとっても座り心地がよくて、そこのところも気に入っていたポイントだったんだけれども、どうやらシートはそのまま継続して使っているようでした。

座った瞬間、全身で感じたかつての記憶。
人間の感覚って、不思議なものだなぁ・・・とつくづく感じたのでした。


さて、不思議といえばこの作品は、とにかく不思議な作品。

金魚の化身である少女と、老作家との禁断の恋・・・という設定だけで明らかに不思議。

人魚姫のようだといえば、まあそうなんだけれども、思いっきり「和」のテイストだからどこか怪談のようでもあるなぁ・・・と思っていたら、途中から老作家に恋する幽霊なんかも出てくるものだから、事態はさらに不思議な方向へ・・・・。

金魚も幽霊も、これは老作家にしか見えないという設定なのかな・・・と思っていたら、どうやらそれ以外の人たちにも見えているらしい描写も出てくるし・・・で、どんどん不思議さが増殖していって、作品の世界に慣れるまでしばらく時間が経ってしまいました。


で、観続けているうちに判ってくるんだけれども、この作品は作家と作品との関係について語った作品なんですね。

作家に限らず、創作物を創る人にとって、作品とその登場人物というのは虚構でありながら現実。

そして、作品を鑑賞している立場の読者や視聴者にとっても、作品の登場人物は虚構であり現実。

ならば、この映画の中で金魚の化身である赤子や、老作家に恋をする幽霊の姿を見ることができる人たちが登場するのも決しておかしなことではないのでしょう。


こうした視点でみると、作品のラストで去っていく赤子に向かって
「ひとりにしないでくれ!」と泣き叫ぶ老作家の姿は、肉体の衰え(才能の枯渇も?)によって作品を産み出せなくなってしまう自分に向かっての叫びだったのか・・・ということに気付き、
その瞬間、これまではファンタジック・ラブコメディだとばかり思っていたこの作品の本当の「哀れ」さを知り、何とも哀しい気分になってしまったのでした。


そんな不思議なストーリーの素晴らしさもさることながら、とにかくこの作品のキャスティングの凄まじさと言ったら!!
老作家を演じるベテラン、大杉漣にも全く引けを取らないほどの存在感を放つ、二階堂ふみの演技の凄まじさ。
すぐにこの人主演で芥川龍之介の映画をつくってほしいほどに、あまりにも芥川っぽい高良健吾・・・などなど、枚挙に暇なし!

漫画原作もいいけど、たまにはこういう文学作品原作の映画もいいなぁと思わずにはいられない、佳い作品でした!
(2016年7月19日 アミューあつぎ映画.comシネマにて鑑賞)