佐保川沿いの桜並木を抜け、国道を横切り、到着したのは不退寺。
ここは、別名「業平寺」とも呼ばれていて、六歌仙の一人として百人一首でも有名な(ちはやぶる 神代もきかず 竜田川…の作者)、在原業平ゆかりのお寺。
伊勢物語(註:この作品の主人公は業平とされている)を読んで以来、すっかり業平のファンになってしまった僕としては、一度は訪れておかねばならない聖地です。
ちなみに現在、このお寺では遷都1300年特別公開として、通常は3月、5月と秋にしか公開されない「在原業平朝臣画像」が公開されている…とのこと。
これに関しては、全くノーチェックだった僕としては嬉しい驚き。
しかも、ここに来ようと思い立ったのは、昨日の夜のこと…。
きっと、これは業平さんに呼ばれたのに違いありません。
山門をくぐると、庭いっぱいの木々がお出迎え。
その向こうにはちょっと小さめの本堂。お堂というよりも豪華な邸宅といった雰囲気。
庭をウロウロしていたら、お寺の方がやってきて「さ、さ、本堂へ…」と促すんで、何で?何で?と思いつつも、慌てて本堂へ…。
上がってみると、ちょうど説明が始まるところでした…なるほど…。
一通り説明を聞いた後、まずは業平画像。
筆を手に持って「困ったなぁー、どうしようかなー」という表情を浮かべる様子は、どことなくチャーミングで思わず「業平クン」と親しみを込めて呼びたくなるほど。
お寺の方の説明によると「歌を考えている様子」とのことだったのだけれど、この様子ではそれだけでも無さそうな雰囲気。
百人一首などでの業平の肖像はビシッとした貴族の正装で決めていて、伊勢物語の主人公の愛すべき人物像とちっとも結びつかなかったのですが、この業平像とならばバッチシ結びつきます。
百人一首の業平がオンの時だとすれば、こちらはオフの業平とでも言うべきでしょうか…何とも親しみのもてる良い肖像画でした。
業平画像を堪能した後は、仏像たちをしっかりと見仏。
まずは本尊の聖観音立像から。
明治時代以前は、住職でさえ一生に一度しか観ることができなかった…というこの仏像。
当時は極彩色に塗られていた…という顔は、いつしかその色も褪せてしまい、今ではおしろいで真っ白に塗られているかのよう。
その白さとふくよかなほっぺたは、まさに「色白ぽっちゃり系美人」の典型。どこか親しみの持てる雰囲気がとても素敵。
その周囲を囲む五大明王たちも、ところどころ彩色が残っていてなかなかのカッコよさ。
しかも表情が柔らかくて「憤怒」というほど恐ろしい形相ではないので、どこか親しみの持てる雰囲気。
…そんなわけで、ここの仏像たちは「衆生を救う偉大な仏たち」というよりも「困った時には助けてくれる先輩たち」といった雰囲気。
でも、そのやさしさに甘えることなく、しっかりとやっていかねばいけないなと思いました(でも本当にやばくなったら助けてね、先パイ)。
いやー、急に思い立って来ることに決めたこのお寺でしたが、想像以上に佳いお寺でした。
これからはしばしば訪れることになりそうな…
そんな予感が致します。