なぜ真空管アンプなのか 

オーディオの世界では真空管アンプでなければと言うユーザーは少なくなったと思います。 しかし、エレキギターの演奏には真空管アンプでなければと思っている方は、今なお少なくないのでは。

 

楽器店としての「funk ojisan」は、「真空管」への拘りからPA機器まで真空管を導入したライブハウスを運営している様です。 そのYouTube「funk ojisan」の動画で、トランスに関するテストが少し気になったので紹介します。

 

 

 

 

 

ネットでは音は伝わらないのでは 

実際の音は動画を通じては伝わらないと思います。「音量を上げた状態では痛さが改善される」と言っていますが、これから推測できるのは、一定のフィルター効果があると言う事でしょうか。 結局、目の前で聴かないと判らないですが... 

 

 

アウトプットトランスについて 

約半世紀前、オーディオの世界で、アンプの主流が真空管アンプからトランジスタアンプに移行する際に、アウトプットトランスの問題は大きく採り上げられました。

 

アウトプットトランスを無くした真空管アンプ回路はあるのですが、実際には良い結果にならなかった様です。 実用のオーディオ用/楽器用の真空管アンプは、現在もアウトプットトランスがスピーカーとの間に入る回路が当たり前です。

 

 

 

真空管アンプで音の品位を求めると、アウトプットトランスにコストがかかり、しかも重量は半端ではないので、トランジスタアンプが商品として主流になるのに時間はかかりませんでした。 しかし、それ以降も真空管アンプを支持するファンは多く、私もその一人です。

 

アウトプットトランスは、電気的な特性では「いただけない部品」だと思います。 増幅回路で、信号を綺麗に比例拡大する状態を「直線性が良い」、元の信号に比例しない不完全な拡大を「直線性が悪い」と言います。 で、安物のトランスを使ったアンプは「直線性」の悪さが露呈して、すぐに判る癖のある音になります。 そこで「直線性」を損なわない工夫を繰り返した高価な真空管用のアウトプットトランスが作られる様になり、現在も少ないながら生産されています。

 

 

 

トランスはヒステリシスや磁気飽和といった、音響回路上で直線性を損なう性質があるので、安易に「厄介者扱い」されました。 しかし、この不完全さが実は真空管アンプの隠し味なのではと、私は思うところがあります。

 

オーディオ用途はともかく、楽器用途としてのアウトプットトランスは、「直線性」が良い事は求められていません。 試した人なら知っていると思いますが、オーディオ用セットでエレキギターを鳴らすと、なんともつまらない音になります。 楽器用アンプは「直線性の悪さ」こそを競っているのだと私は思っています。 ディストーションやオーバードライブは、歪ませてなんぼですから。

 

しかし、それが単純ではない事は、ギターを鳴らす人はたいてい知っています。 どんな歪み方が良いのか、数値化できない部分が沢山あるのです。「悪さ」「素直でなさ」「ひねくれ方」を競うって、文字通りロックな世界の話です。

 

 

 

クラプトンの「Champ」 

クラプトンがフェンダーの小型真空管アンプ「Champ」をレコーディングに使ったのは有名ですね。 バンド練習でせいいっぱい音を出していた管球アンプ、あの音は何んだったのか。 もうこれ以上の音を出しきれない状態で、それでも音を出そうとした時にしか出ない音があったと思います。

 

そういった音の秘密のひとつに、アウトプットトランスも一役買っていると、私は推測しています。 理屈なんてあとから判る事です。 いい音が出るギターアンプは、これからもずっと求められ続け、おそらく真空管アンプは不滅ではないでしょうか。