この前の二週間の旅の間は、堀江敏幸さんの著書を読み続けていて、ああ僕にはこんな小説は書けないなぁと、もはや小説を書くのは諦めようと思っていたのですが、そろそろ書くことにしました。
最近は何度も読んだ本を読み返すことも多い。
金子光晴さんの「マレー蘭印紀行」などの昔の詩的旅行記を読み返しては、僕もこんなあてのない旅をしたいと思ってみたり、角川春樹氏の「黄金の軍隊(ゴールデン・トライアングルのサムライたち」という、1978年に出版された同氏の紀行作品を読んで驚いたりしていた。
村上さんの「国境の南、太陽の西」は過去に三度ほど読んでいたが、同氏の小説ではダンス・ダンス・ダンスの次くらいに好きなので、今日はベッドに寝転びながら再読してみた。
音楽もそうなのだが、小説も読むそのときのこころの状態によって受け入れ方が違ってくる。
あくまでも小説なのに、今日は最後のあたりで少し涙が出てきた。
「僕は君のことがとても好きだ。会ったその日から好きになったし今でも同じように好きだ。もし君に会わなかったら、僕の人生は惨めでひどいものになっていたと思う。言葉で表せないくらい深く感謝している。でもそれにもかかわらず僕は今こうして君を傷つけている。それはたぶん、僕が身勝手で、ろくでもない無価値な人間だからと思う」
物語の経緯があるので、この部分だけでは何のことか分からないだろうけど、僕は亡き妻と出会っていなかったら、間違いなく悲惨な人生になっていたに違いないと思うし、息子二人の貴重な生命もこの世に産んでもらえなかったのだから。
こころも金銭的にも貧しかった僕を救ってくれたことに感謝しないといけないのに、人間は本当に愚かだなぁ、出会ったころの気持ちをいつか知らないうちに忘れてしまって、彼女の存在の大きさをいなくなってしまってからようやく気付くのだからね。
もちろん、人間のできた人は思いやりと感謝に満ち溢れた幸せな夫婦として、年老いてどちらかが逝くまで愛情とともに見送るのだろうけど、僕にはあらゆる人間性が欠落しているのだろうなぁ。
そんなふうに珍しく村上さんの小説でこころが動かされた日でした。