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美容皮膚科 ペルラクリニック神宮前 院長の本田 淳です。
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1996年の論文(Gabriel et al. 1996)
The dielectric properties of biological tissues: I. Literature survey
The dielectric properties of biological tissues: II. Measurements in the frequency range 10 Hz to 20 GHz
The dielectric properties of biological tissues: III. Parametric models for the dielectric spectrum of tissues
今回は、上記3論文(Ⅰ~Ⅲ 章) のうちⅡ章の、ごく簡単な要約をご紹介いたします。
Ⅲ章は、別記事でご紹介したいと思います。
緑字は私の低レベルなコメントですので、お読みにならなくて結構です。
では、
本研究は、生体組織の誘電分散スペクトルを 10 Hz〜20 GHz にわたり連続的に計測し既存文献にみられる周波数帯の不統一やデータ形式のばらつき、測定範囲の空白といった不整合を埋めることを目的とした、体系的かつ網羅的な実験研究である。
10 Hz〜10 MHz を HP4192A インピーダンスアナライザ、300 kHz〜3 GHz を HP8753C、130 MHz〜20 GHz を HP8720 で測定し、すべて open-ended coaxial probe によりサンプルと高周波回路を結合した。
これら 3 つの周波数帯は互いに重なるように設定されており、同一試料を同一温度条件(体温)下で連続的に測定することで、装置間の連続性と整合性が検証された。その結果、得られたスペクトルは既存文献のデータと比較しても周波数依存性に矛盾がなく、連続した一つの分散特性として再構成できることが示された。
10 Hz ~ 10 MHz の範囲で測定する場合、単純な正規化では不十分であり、測定は電極分極(electrode polarization) と リード線インダクタンス (lead inductance)の系統誤差の影響を強く受ける。
前者は試料–電極界面に形成される分極インピーダンスであり、とくに水和イオンを含む導電性媒質で顕著となる。低導電性の生体組織では電解質溶液ほど強くはないものの、1 kHz 以下の周波数で顕在化する。
後者は、測定治具に固有のリード線インダクタンス(stray inductance, L = 2×10⁻⁷ H)が直列リアクタンスとして作用し、高周波側で見かけの負の誘電率を生じ得る。
このため、測定値(Cm, Gm)は補正式
C = (Cm + L Gm ω² + L Cm² ω²) /[(1+ω²LCm)² + (ωLCm)²]
G = Gm /[(1+ω²LCm)² + (ωLCm)²]
により補正し、さらに低周波領域では導電率が同等の電解質溶液(塩化ナトリウム水溶液)を基準として正規化することで電極分極を補正した。これにより、電極分極による 誘電率の異常上昇(100 Hz以下)や stray inductance による高周波側のアーチファクトが除去され、既存文献と整合する連続的なスペクトルが得られた。
本研究の意義は、同一試料を 3 種類の測定装置で連続的に測定し、その結果を一貫したスペクトルとして提示した点にある。脳灰白質、心筋、腎皮質、肝臓、肺、脾臓、骨格筋(線維方向の異方性を含む)、皮膚、子宮など、多数の動物・ヒト組織における ε′(f), σ(f) を実測し、その周波数依存性から典型的な誘電分散(α・β・γ分散)の特徴が確認された。
とくに骨格筋では、open-ended coaxial probe先端から広がるフリンジ電界が放射状に広がるため、筋線維に平行な電場と、線維を横断する電場に対する誘電特性の上限値・下限値を提示するものではない。とはいえ、得られたスペクトルの一部には線維方向に依存した異方性が明瞭に現れており、Gabriel I(文献調査)で整理された「筋組織の方向依存性」を実測データとして支持する結果になっている。
さらに、in vivo と in vitro の差異、および 動物種間の差異 には規則性はなく、むしろ同一種内の個体差が大きいことが確認された。脂肪組織では含水率のばらつきが大きく、含水量が多く多血性の脂肪と含水量の少ない脂肪とでは σ(f) が大きく異なる。骨髄も骨側ほど血液の含量が増えるため、測定位置によって誘電率が変化する。このような生体の構造的不均質性は、測定値の変動幅( 100 MHz以上では±5–10% 、低周波領域で±15–25%)として定量化された。
既存の文献(Kraszewski, Stuchly, ICRP など)のデータと比較すると、本研究で得られた測定値は、周波数依存性・絶対値のいずれにおいても良好な一致を示した。とくに 10 kHz 未満の周波数帯については、従来データの乏しかった領域に新たな実測値を提示した。
これらの結果は、生体電磁界線量評価(EM dosimetry)における境界条件および分散モデルの整合性を高めるとともに、後続の Part III で行われる Cole–Cole モデルへのパラメトリック統合の基盤データとして機能しています。
総括すると、本稿(Part II)は、生体組織の誘電特性を 10 Hz から 20 GHz まで連続的に測定し、従来の文献で分断されていた周波数帯を実験的に一つのスペクトルとして統合した点に大きな意義があります。低周波域の電極分極と高周波側の寄生成分といった系統的誤差を丁寧に補正したうえで、動物・ヒト、in vivo・in vitro を横断する広範なデータを収集し、誘電特性の全体像を整合的に一貫性をもって提示しています。
これらのデータセットは、その後の生体における電磁界線量評価や SAR 評価、医用 RF・マイクロ波デバイスの設計、安全基準策定に至るまで、広い領域で物性に関する基盤情報として参照され続けています。