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美容皮膚科 ペルラクリニック神宮前 院長の本田 淳です。
当院は、院長が診察から治療まで一貫して施行すること(ワンドクター制)を特徴としています。
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以下本文となります。
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前回の続きとなります。
Insights into the unique roles of dermal white adipose tissue (dWAT) in wound healing
2024年の論文です。
抜粋し、適宜要約しています。
緑字は私のコメントですので、読み飛ばしていただいて構いません。
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創傷治癒プロセスにおけるdWATの瘢痕形成への関与
dWATは創傷治癒において一定の役割を果たしている。病的な瘢痕形成や線維化は創傷治癒の異常な転帰であり、dWATはそれらと何らかの関連があると考えられている。
dWATの減少は、線維芽細胞および筋線維芽細胞の過剰な増殖や分化転換、またECMの過剰な沈着と関連している可能性があり、その結果として瘢痕形成が引き起こされる。
身体の部位によってdWATの構造と含量(体積)は異なっており、このことは瘢痕形成における部位別の特徴と相関があることを示している( Ma et al., 2023 この引用論文には、dWATについては全く述べられていません。線維芽細胞の以下略)。ヒト皮膚サンプルの組織学的解析により、dWATは主に顔面、頸部、胸部、腹部、背部といった肥厚性瘢痕を形成しやすい部位に存在する(もちろん顔面や頸部全体が肥厚性瘢痕の好発部位というわけではありません)一方で、手掌、初期胎児皮膚(early fetal skin 妊娠第1〜2期でしょうか?? )、頭皮などの瘢痕形成の可能性が低い部位にはほとんど存在しないことが明らかとなっている。さらに、瘢痕を形成しづらい動物、たとえばラットやウサギにおいてはdWATの量が少ないとされる。これは、dWATの含量がヒトおよび一部の動物における瘢痕形成や線維化に関与している可能性を示唆している(Kruglikov and Scherer, 2016b)したがって、瘢痕形成とdWATの部位間の構造や量の差異が、各部位における創傷治癒および皮膚線維化の特性に影響を及ぼしている可能性が高いと考えられる。
dWATが瘢痕形成や線維化に及ぼす作用のメカニズムに関して、Marangoni らは(Marangoni et al., 2015b)は、脂肪組織の欠損および脂肪細胞の筋線維芽細胞への分化転換・転分化(AMT)が、皮膚線維化の発症の主要な因子である可能性を示した。Marangoniらは、ブレオマイシンによって線維化を誘導したマウスにおいて皮下脂肪組織が線維組織に置換される現象を観察した。皮膚における代表的な脂肪分化マーカーPPARγの発現が、皮膚線維化マーカーの発現に先行する形で減少した。このことは、dWATの含量が皮膚線維化の進行に強い影響を及ぼすことを示している。さらに、dWATにはreparative fat由来(修復に寄与する脂肪細胞群?)の間質細胞が含まれており、アディポネクチン等の抗線維化サイトカインを発現・分泌している。アディポネクチンは主に脂肪細胞から分泌され、膜貫通型受容体AdipoR1およびAdipoR2を活性化し、アデニル酸(AMP)シグナル伝達経路を作動させることで、抗線維化作用を発揮する(Zhang et al., 2021a)。
肥厚性瘢痕を有する患者の血清アディポネクチン濃度は、正常人と比較して低いことが確認されている。全身性強皮症モデルマウスにおいて、アディポネクチンは線維芽細胞の活性化を抑制しており、これにより、アディポネクチンの欠如はシグナル伝達の亢進を引き起こし、皮膚の線維化を悪化させることが示唆されている(Wang et al., 2017・・・この論文は主に糖尿病と心筋虚血再灌流障害を研究するためのマウスモデルなのですが・・・年度も違いますので以下略)。dWATが失われると皮膚の線維化に対する保護機能が低下し、線維化がさらに助長される。
Marangoni RGによる細胞運命追跡研究では、、アディポネクチンプロモーターによりCreリコンビナーゼを発現するトランスジェニックマウスを用い、dWATを欠くアディポネクチン陽性前駆細胞が、時間の経過とともに脂肪細胞マーカーを段階的に喪失することが示された(アディポネクチンの発現履歴をもつ細胞(脂肪細胞だったことのある細胞)をCre-loxPシステムによって標識したトランスジェニックマウスを用いて解析が行われ、結果、真皮内に脂肪組織(dWAT)が形成されなくなった部位では、脂肪細胞表現型を有していた細胞が時間の経過とともに脂肪細胞マーカーを徐々に喪失していく様子が観察された・・・細胞が脂肪細胞であり続けるためには、脂肪組織dWATが必要・・・という意味です)。これらの結果は、dWATの消失と皮膚の線維化との新たな関連性を示すものである。追加で行われたin vitroの研究によりこれらの知見は支持されており、脂肪由来幹細胞(ADSCs)が創床に存在する成長因子の作用により、筋線維芽細胞あるいは線維芽細胞様細胞へ分化することを示唆している。このコンテクストにおいて(創傷環境に存在する)TGF-βは、(脂肪由来幹細胞を)筋線維芽細胞表現型に誘導する可能性がある(Marangoni et al., 2015c こちらがSScモデルマウスの研究ですね)。
注目すべきことに、Yun IS(Yun et al., 2012 全文は確認できませんでした)は、筋線維芽細胞および線維芽細胞様細胞が再び脂肪細胞へと再分化し得ることを実証した。この知見は、脂肪細胞と筋線維芽細胞との間に双方向の分化能が存在する可能性を示唆している。
臨床研究において、自家dWAT移植が表在性瘢痕を著しく改善し、肥厚性瘢痕をより柔らかく、正常組織に近い質感に改善させることが報告されている(Bruno et al., 2013a 全文は確認できず)。組織学的解析の結果、dWAT移植は瘢痕内の弾性線維再生を促進し、無秩序な状態となっていたコラーゲン線維の配列や形状の修復を促すことが示されている。このことは、自家dWAT移植が強力なコラーゲン再構築機能を有し、肥厚性瘢痕の治療において有効な手段であることを示唆している(Brunoら, 2013a)。これらの知見は、皮膚線維化および肥厚性瘢痕の治療におけるdWATおよび脂肪移植の臨床応用の可能性を強く示唆している。本当にdWATに関する論文なのか・・・
また、脂肪由来幹細胞(ADSCs)は抗線維化作用を示す(in vitroまたは動物モデル)。肥厚性瘢痕は、ECMの異常、コラーゲンの過剰沈着および構造・配列の異常を特徴とする。ADSCsは、TGF-β1/Smadシグナル伝達経路をダウンレギュレートすることにより、瘢痕の線維化を阻害する(Borovikova et al., 2018 クローズドです)。
Zhang Q(Zhang Q. et al., 2015)は、肥厚性瘢痕を有するウサギ耳モデルにおいて、ADSC(脂肪組織由来幹細胞)の局所注入が、I型およびIII型コラーゲン、TGF-β1、ならびにα-SMAのレベルを有意に低下させることを確認した(ウサギ耳モデルの肥厚性瘢痕に対する治療効果といえば、こんな論文もあります。もちろんSVF-gelはADSCsと等価ではありません)。さらに、ADSCs投与後には、TGF-β1の拮抗因子であるデコリン(DCN)の発現が上昇することが報告されている。DCNは、線維芽細胞の収縮およびコラーゲン合成を適切に抑制し、瘢痕の改善をもたらす(Chu et al., 2018)。動物モデルにおけるADSCs投与は、瘢痕形成およびリモデリングの初期段階において(転写因子レベルで)調節的に作用することが示唆されており、この瘢痕形成の改善効果はTGF-βの抑制と関連している。
したがって、dWATの消失は瘢痕形成および線維化と関連しており、成熟脂肪細胞が線維芽細胞へと分化転換することにより、線維芽細胞の異常増殖ならびに皮膚線維化を惹起する可能性がある。身体の部位によってdWATは構造および含量が異なり、それが瘢痕形成に影響を及ぼすことから、創傷治癒および皮膚線維化におけるdWATの部位相関性が示唆される。ADSCsの介入により瘢痕形成ならびにリモデリングが制御可能となり、また自家dWAT移植も顕著な治療効果を示し(そもそもdWATの研究ではなく以下略)、瘢痕を軟化させ、弾性線維の再生を促進する。
現在、研究者らは、脂肪細胞から筋線維芽細胞への分化転換を抑制または逆転させることが可能かどうかを検討している(原文reprogramは誤用のような気が)。
修復能を有するADSCsの生存率向上と抗線維化性サイトカインの発現を促進することは、瘢痕および線維化に対する有効な治療戦略となり得る。
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展望
近年までdWATはほとんど注目されていなかったが、現在では、当該脂肪細胞の高い可塑性が注目されており、生理的・病理的条件の違いによってdWATが示す多様な変化は、さまざまな生体内のプロセスに対して重要な影響を及ぼす可能性がある。
dWATは、その高い可塑性および多機能性により、免疫・炎症応答やECM合成の調節において重要な役割を担う。創傷修復の促進、免疫応答の調整、瘢痕形成および線維化の抑制等、創傷治癒において極めて重要な臨床的意義を有している。さらに、dWATは皮膚の病態生理において広範かつ重要な調節的役割を担っており、dWATへの介入(dWATを標的とした治療行為?)は、創傷治癒の促進、瘢痕形成の抑制、毛髪再生の誘導といった臨床的応用において予備的な有効性(preliminary effectiveness 予備研究レベルで有効性が確認されている)を示している。dWATに存在するADSCsは広範な採取源、高い増殖能力、安定した誘導分化能力といった利点を有し、組織損傷や多様な疾患を対象とする研究において、良好な治療効果を示している。
ADSCsを中心に設計された組織工学技術に関する初期の国際的研究および臨床応用においては、骨・軟骨・血管といった組織の再構築において顕著な成果をあげている(ややオーバーな表現では・・・)。これは、皮膚の老化、創傷治癒、瘢痕の予防および治療、毛髪再生といった分野におけるdWATの臨床応用に向けた重要な基礎を提供する。
dWATの皮膚生理学的な役割と潜在的な応用領域については、鋭意研究すべき多くの側面が存在する。dWATの発生と機能に影響を及ぼす因子を理解することは、皮膚生理学における複雑なメカニズムの解明に役立つかもしれない。
今後の研究では、真皮脂肪細胞の可塑性の操作によって、創傷治癒の促進、瘢痕(の線維成分)増殖の抑制、毛髪再生の誘導を図る技術が模索されるようになると考えられる。さらに、感染創におけるdWATの抗菌作用を明らかにすることも極めて重要である。今後の臨床研究においては、乾癬、強皮症、脱毛症、アトピー性皮膚炎といった皮膚疾患に対するdWATの臨床応用がさらに検討されると考えられる。dWATの厚さが遺伝的に決定されるかどうか、さらに遺伝と環境因子との相互作用が疾患の発症に及ぼす影響についても検討すべき価値がある。これにより、患者のリスクを正確に予測し、カスタマイズ医療の実現に寄与する可能性がある。
dWATと線維化や腫瘍等の疾患との関係について、分子レベルのメカニズムの解明を進めることにより、新たな治療標的あるいは治療戦略が見出される可能性がある。これらのメカニズムの理解は、より有効な治療法の開発に寄与すると考えられる。
結論として、dWATは生理学的に多様な機能を有しており、今後の研究によって、その未解明の特性や応用可能性がさらに明らかになることが期待される。これにより、皮膚の健全性や疾患治療に対する新たな選択肢が提供される可能性がある。dWATの機能および他因子との相互作用のさらなる研究により、皮膚生物学の理解が深化し、将来的な臨床応用に関する有用な知見と革新がもたらされるだろう。
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