<23rd Oct Sun>
観たばかりのオペラやコンサートを、出来ればその日のうちに、余韻に浸りながらブログに書けたら理想的と思いつつ、なかなかそうはいかないのですが、マチネだった今日のコンサートはそれが出来るのが嬉しいです。
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今日の午後3時から、Wigmore Hallでトビー・スペンスを聴きました。
Toby Spence tenor
Christopher Glynn piano
Franz Schubert Die schöne Müllerin D795 (London première of new English translation)
しかし、折角のシューベルトの「美しき水車小屋の娘」なのに、なんと前日になって英語で歌うことに気付いて、がっかり。 切符売る時からそうだったっけ? まあ、トビー君ならそれでも買ったけど、知らなくてよかった。「嫌だなあ、ぶち壊しじゃん」、とずっと思わなくて済んだから。
というわけで、「僕のパッションはドイツもの」と言ってたトビー君、ドイツ語で歌えない筈ないし、手間ひま掛けて無駄なことしやがって・・、とぶーたれましたけど、これが、なんと、意外な展開になったのでした
もちろん最初は違和感あり過ぎで不服でしたが、20曲あるうち3,4曲目から、トビー君のクリアな英語がとてもわかりやすくて直接心に響いて、「粉職人の若者が旅先で美しい水車小屋の娘に恋をするが、ライバルに奪われて落胆し、小川に語りかけて息絶える」、という青春の喜びと失恋の悲しさをドラマとして直接楽しめました。絶好調の甘い声は素晴らしかったし。 私は歌詞のプログラムは買わずにトビー君の芝居っ気たっぷりの表情を見てたけど、英語の歌詞を読みながら聴いてた人も、「なるほど、なるほど」、と新鮮な鑑賞が出来たに違いないです。
さっきまでスーパーマーケットにでもいたのかしらと思うような着古したデニムのジャケットも実は役柄に合わせたコスチュームだったのかもしれないしね。
プログラムに「終わってもすぐには拍手しないで余韻に浸りましょう」、とでも書いてあったのかと思うくらい、まるで若者の死に対する黙祷のように長い間目を閉じてたトビー君を辛抱強く待ち、一体感と静かな感動に満たされ、英語にしてくれて良かったと思えたユニークなコンサートになりました。 6月に東京で聴いたクラウス君(クラウス・フロリアン・フォークト)の水車小屋の娘(→こちら)とは別物ですしね。
翻訳ものは避けてるんですが、ENOのオペラも違う視点で楽しめるかもという気にすらなりました。
客席の後ろの方にいた翻訳者を指差すトビー君。素晴らしい訳詩でした。
終了後は舞台裏のグリーンルームに行ったら、上機嫌の彼は「ハーイ」、と手を振ってくれました
写真では見えませんが、実は後ろで手をしっかり握ってるんです。 興奮冷めやらぬトビー君が「やった~」と力を込めてぎゅっと握ってくれた手を、「うん、うん、凄く良かったよ」、と私が応える感じで。
というわけで、嬉しいことばかりでしたが、なによりも前から2列目でまじかに聴けたのが良かったです(料金は一律15ポンド)。実は10日程前にここでクリスティアン・ゲルハーヘルでシューマン等を聴いたのですが、もちろん滅茶苦茶上手だったけど、一番後ろの列だったので満足感が低かったのでした。 ここはフレンズ予約だと席が選べなくて、人気のゲルハーヘルはどうせ前の方の席なんて買えないでしょうしね。 行った証拠に写真だけ。Wigmore Hall初出演15年記念でケント公爵からご褒美を授けられてスピーチしてるとこです。