オペラ三昧イン・ロンドン


10月11日、バービカンのLSOシーズンの幕開けコンサートに行ってきました。


オペラ三昧イン・ロンドン
Britten
War Requiem

Gianandrea Noseda conductor
Sabina Cvilak soprano
Ian Bostridge tenor
Simon Keenlyside bass
London Symphony Chorus


ベンジャミン・ブリテンのWar Requiemは1941年にドイツ軍空爆によって破壊されたイギリス中南部ウォリック州コベントリーの大聖堂Covently Cathedralが1962年に再建された際その献堂式のためにブリテンに委託されたもので、大編成のコーラスを含むこのスケールの大きな曲です。


第二次世界大戦の戦没者への慰霊だけでなく、二度と戦争が起きないようにというブリテンの願いが込めらているのですが、それはひしひしと感じられ、感動的なコンサートでした。休憩なしの70分間の演奏が終わった時はまるで黙祷のごとく、しばらく厳かな静寂があったのですが、指揮者のすぐ後ろの席の私には、後ろ向きのノセダが肩を小さく震わせていたのがわかり、目の前にいるキーンサイドもイアン博士も沈痛な面持ち(下の写真)。それを見る私の目頭も熱くなり・・・。そして、いつまでたっても戦争がなくならず、イギリスはいつくかの戦争の当事者になっているという悲しい現実に対する悲しみがバービカンに蔓延しました。


オペラ三昧イン・ロンドン

オペラ三昧イン・ロンドン
暗くて重くて辛気臭そうなので敬遠していて、聴くのは初めてだったのですが、ラテン語のレクイエムの間に第一次世界大戦で若くして戦士したWilfred Owenの英語の詩を加えたユニークな構成も見事で、これは20世紀の傑作のひとつでしょう。演奏も素晴らしかったです。


指揮者は、当初サー・コリン・デイヴィス長老の予定だったのですが、「高齢のため(とは言わないけど)サー・コリンは演奏回数を減らすことにし、このコンサートも指揮者を変更します」という通知があり、ジャンアンドレア・ノセダをはじめて生で見る機会ができたのでとても嬉しかったです。


筋肉モリモリで精悍なノセダが指揮棒を使わずにエネルギッシュに体中で大人数をまとめる姿に、「長時間立っているのも辛そうな80台のサー・コリン爺さんだったら一体どんなことになっていたんだか。若いノセダに変って本当に良かった」と思ったのは私だけではありますまい。コリン爺さんはきっとブリテンとも知り合いだっただろうから過去との連結という意味では重要だったに違いないですが、ちょいちょいと指揮棒を動かすことしかできない年寄りにはこの曲は無理じゃないでしょうかね。


オペラ三昧イン・ロンドン       オペラ三昧イン・ロンドン


女性ソロはオケの後ろで合唱団と一緒にいてラテン語で歌ったのですが、濁り気味のちょっと不快な声の無名ソプラノだったけど、歌う時間も短いのでまあいいことにしましょう。


その代わり、男性二人は一流を揃えてくれて、イギリスが誇るバリトンのサイモン・キーンリーサイドとテノールのイアン・ボストリッジなので悪かろう筈がないし、二人が歌うのは全て英語の詩の部分なので、ストレートにぐっと来ました。


特に、この15年間程で50回も歌っているイアン博士は板についてて、憂いの似合うその痩せぎすの容貌もぴったり。青筋立てて感情を露にする癖のある歌い方は、オリジナルのピーター・ピアスとは随分違うだろうけど、この曲では彼の右に出るテノールはいないでしょう。


イアン博士の激しさに比べると対照的にクールだったサイモン・キーンリーサイドも勿論立派な歌唱だったのですが、テノールとコントラストをつけるためにも、底から響いてくるような重くてダークな声のバス歌手の方がよかったかなという気もします。でも、オリジナルのディートリッヒ・フィッシャーディスカウもヘビーじゃないから、ブリテンの意向に合っているのかも。


ところで、1962年のオリジナル歌手陣は、テノールは当然ブリテンのパートナーだったピーター・ピアスだけど、そのちょっと前は敵国であり、コベントリー大聖堂を破壊したドイツのフィッシャーディスカウ、当時平和を脅かしていた米ソ冷戦を踏まえてソプラノはソ連からというのがブリテンの狙いだったようです(ソ連当局の許可が出なくて結局イギリス人ソプラノになった)。そのブリテンの想いを継承するのであれば、このご時勢、イスラム教徒の歌手とかオケがいるといいのでしょうけどね・・。


オペラ三昧イン・ロンドン       オペラ三昧イン・ロンドン


このスケールの大きさと雰囲気を表現するのに、狭くて無機なバービカンが理想的とは思えなくて、スペースの問題もあり、少年コーラスは舞台にのれなくて後ろのバルコニー席で歌ってました。それはそれでステレオ効果があってよかったんですが、これはやっぱり広くてモダンな設えの教会で聴きたいものです。新コベントリー・カテドラルには行ったことがないのですが、モダンな建築が曲にも合ってるし特別の雰囲気だったに違いないです。実はコベントリーには家族と行ったことがあるのに、その時はそんな大事な教会とは知らなかったので、教会は好きじゃないし私だけショッピングしてたのが今になっては悔やまれますむっ


ともあれ、全ての曲が好きだとはいえないブリテンの中で、食わず嫌いを克服して行ってみてよかったと思える感動的なコンサートでした。




                    人気ブログランキング  天使