<11月28日(日)>

寒波の中、家にこもってます。明日は地下鉄のストライキに備えて休暇取ってるので3連休。このままだと3日間家から一歩も出ない可能性大なんですが、暖房とテレビとパソコンが全て壊れない限り、不満は一切なし。あ、でも、ジムに行けなくて運動不足なのは問題だ。トーチャンは熱心にクッキー焼いてるし。

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オペラ三昧イン・ロンドン


ROHで100年以上も上演していないオペラの新プロダクションでスター歌手が共演という話題性で切符が争奪戦になったチレアAdriana Lecouvreurに、11月15日のリハーサルと22日にまず行ってきました。


アリア集にはよく登場する美しいアリアはソプラノとテノールにそれぞれあるので題名は割と知られているものの、全体の上演は極めて稀なこのオペラ、実際に聴いてみて、滅多に上演してもらえない理由がわかったような気がします。

折角素晴らしく甘美なメロディのアリアもあるのに、音楽が一本調子で変化に乏しい上、盛り上がり部分が少なく、主役の二人以外は聴かせどころがなくて、バレエ場面も長すぎるし、要するに構成に問題ありの駄作オペラで、同時代のプッチーニがきっちり無駄なく上手に盛り上げる人気オペラをいくつも残したのとは対照的。


本どんなお話?

一言で言うと、一人の男を女二人が取り合って火花を散らすという三角関係のメロドラマメラメラ

アドリアーナ・ルクヴルールは実存した仏コメディ・フランセーズの花形女優で、恋人である伯爵を彼に横恋慕する公爵夫人と張り合い、最後はライバルがスミレの花に仕込んだ毒を吸って死んでしまうという、登場人物がほとんど実在した割にはあり得ない結末あじさい

このライバル女性二人の確執は有名だったらしいですが、原作がどうであれ、18世紀の公爵夫人と女優の社会的身分の違いを強調すればよかったのに、と思います。女優ごときに皆の前で恥をかかされた公爵夫人の怒りが殺害を謀るまで大きくなったのも理解できるし、それゆえに主役である女優がにもっと同情される筈。身分の差について触れる部分は少し出てくるけど、オペラなんだからそこを膨らませて悲哀のアリアを作らなくてどうする?



オペラ三昧イン・ロンドン
Composer Francesco Cilea
Director David McVicar
Set designs Charles Edwards
Costume Designs Brigitte Reiffenstuel

Conductor Mark Elder
Adriana Lecouvreur Angela Gheorghiu
Maurizio Jonas Kaufmann
The Prince of Bouillon Maurizio Muraro
The Princess of Bouillon Michaela Schuster
Michonnet Alessandro Corbelli
L'Abbate di Chazeuil Bonaventura Bottone
Poisson Iain Paton
Quinault David Soar
Madame Jouvenot Janis Kelly
Madame Dangeville Sarah Castle


オペラ三昧イン・ロンドン   オペラ三昧イン・ロンドン

オペラ三昧イン・ロンドン 家プロダクションサンダル


セットについては、ふたつのイベント(→こちら と→こちら )でデザイナーのチャールズ・エドワーズ氏が何にヒントを得た等、熱い思い入れと過程をたっぷり聞いたし、始まる1ケ月以上も前に中心セットを見せてもらったので出来上がりがどうなるかとても楽しみにして、上手くいくといいなと祈ってたんですが、私が想像したものより小道具も衣装もきっちり豪華に出来てて気に入りましたキラキラ


マクヴィッカーの演出も細かいところまで行き届き、いっそ全て照明をキャンドルにしたら、まるでキューブリック映画「バリー・リンデン」の世界だわ。


特に、実存した芝居用の箱舞台を回り舞台で表と裏を上手く利用して、さらに劇中劇になる箇所もあり、「オペラの登場人物たちの人生はこの芝居箱にあり」という演出家マクヴィッカーとエドワーズ氏のコンセプトを見事に表現できてたと思います。5つのオペラハウスの共同制作で予算もたっぷりなのも明らかで、この後各地で「時代設定に忠実でゴージャスな新プロダクション」というオペラには稀な贅沢を楽しんでもらえることでしょう。


オペラ三昧イン・ロンドン     オペラ三昧イン・ロンドン


オペラ三昧イン・ロンドン
カラオケパフォーマンス

女の子アドリアーナ(アンジェラ・ゲオルギュー

無理に高い声を出す必要もなく歌唱的には容易なこの役は全盛期を過ぎたソプラノ向きとされているようなのですが、「私はスターよ」という振る舞いが目立つアンジェラ・ゲオルギューにはぴったりなので、彼女自身もこれは私の役だと思ってて、今回実現したのもきっと彼女の強い希望だったに違いないです。


実はもう少し早くやるつもりだったらしいところ、「数年前にやろうと思ったんだけど、気が変わってその時はプッチーニのつばめにしたの」とテレビのインタビューで言ってました。たしかにつばめは超高音が必要だし、ルックスも若々しいほうが向いてるので、2002年にはそっちを選択して正解。


そして、「私も40台半ば。歌も容貌も全く衰えてないけど、そろそろやってみようかしら」、という気になったのでしょう。


はい、アンジェラはまだ充分美しい上に貫禄も出た今はタイミングとしては最高で、彼女のサイレント映画のような大袈裟な演技はここではどんぴしゃ。


時として金属的な金切り声になるアンジェラですが、今回はとても優しい声で、また違う魅力を感じさせてくれました。歌で苦労せず綺麗な衣装を何着も着られて、しかも容貌の貧しい人の多いテノール界では美男度トップのカウフマンと思い切りいちゃつけてラブラブ(いちゃつくシーンが何度もあり過ぎ)、アンジェラはさぞは気分良かったことでしょう。
オペラ三昧イン・ロンドン
男の子マウリツィオ(伯爵)(ヨナス・カウフマン


モデルとなったザクソン伯爵は大変な女たらしだったらしいし、「僕は嘘はつけない性分だから」、と何度も言うってことは嘘つき男の証拠で、二人の女性の間でなんとか取り繕うとするしょーもない色男役だけど、得する甘いアリアがあるので、普通のテノールにはそこそこやり甲斐はあるんでしょう。で


も、人気絶頂なだけでなく、ワーグナーもできるし、10月末のWigmore Hallのリサイタルで(彼のために一つ上のフレンズになったにも拘わらず切符が取れなかったしょぼん)シューベルトの水車小屋の娘をあんなに知的に歌える今のカウフマンがなにもこんなアホな役をやらなくてもいいのに・・むっ


そう云えば、カウフマンは駆け出し時代の2004年にアンジェラとROHでつばめ(プッチーニ)やったけど、その時に、「ねえ、若いハンサムさん、私がアドリアーナをやる時は貴方を相手役に抜擢してあげましょうか?」、「はい、大先輩、よろしくお願いします」、と指きりげんまんでもしたのか? でなきゃ、いくら最近のインタビューで言ってたように「僕はワーグナーもやりたいけど、そればかりじゃ嫌だから、色んな役をやりたいんだ」、という事だとしても、他にもっと良い役があるだろうがむかっ 


でも、自分でも後悔してるかもね。ラブシーンが嫌々だっただけじゃなくて、なんだかずっと居心地悪そうだったもの。もっともいくら熱心に演じてもこの役じゃね。アンジェラに付き合ってこのプロダクションであちこち引き回されるとしたら才能の無駄使いだわ。それに、テノールにしては暗くて太い声のカウフマンではなくて、いい加減な浮気男にはもっとパーっと明るくて高く突き抜けるような声がいいんじゃないかしらね(私は彼の声が特に好きではないの)。


というわけで、そりゃハンサムだし、出てくれて感謝はしてるけど、ドン・カルロの時と比べれば全然良さが発揮できなかったから、今度はローエングリンかウェルテルで来てね。


オペラ三昧イン・ロンドン     オペラ三昧イン・ロンドン
はしゃぐアンジェラと、なんだか浮かない顔のカウフマン。上の写真は違う日なんですが、2回ともそうでしょ。尤も、この次の日にアンジェラは体調不良でキャンセルしたんだけど。  

     
オペラ三昧イン・ロンドン
かに座公爵夫人ミカエラ・シュスター


ダブルキャストのうちまだ知名度の高いオルガ・ボロディナはまだ登場してないので、2回共シュスターだけど、とても上手で迫力ありクラッカー

大柄で貴婦人らしい堂々とした態度と意地悪そうなルックスが舞台映えするし、なんと言っても声量がすごいので、アンジェラの弱味である声量のなさがことさら強調されちゃいましたね。

存在感でもアンジェラにひけを取らないのに、聴かせるアリアがないのがとても残念。あと2回はボロディナなんですが、シュスターの方が勝つかも。ちゃんとした役で是非聴きたいから、アイーダのアムネリス役とかやってくれないかしら。


ヒツジその他

このオペラの欠点の一つは、主役二人以外に良いアリアがないことで、芸達者のアレッサンドロ・コルベッリがアドリアーナに想いを寄せる舞台監督役でとても良い味出してるのに勿体なくて気の毒になるくらい。イギリスのベテラン・テノールのBonaventura Bottoneも上手いのにこれでは実力の出しようがないわ。公爵役の ムラノは他で聴いたことがないので、ここに出てても、どれくらい歌えるのかすらわからず。


歌手は見せ場がなくても、オーケストラ音楽は単調ではあっても全編美しいので、指揮者のマーク・エルダーは充分力を出せたし嬉しそうでした。


あと、どうでもいいことなんですが、アドリアーナの侍女役でKeiko
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Hewitt-Tealeさん
という若くて美人の日本人女性が歌わない役で出演してて、演技は上手だけど、リアリズムを追求してるらしい舞台なのに、こんな所に東洋人が、しかも一人だけ現代のヘアスタイルで現れたのは不思議でした。あ、今プログラムを見たら、ケイコさんはバレリーナで、気が付かなかったけど羊飼い役で踊ってもいるようです。


というわけで、あまり何度も続けて聴きたいオペラではないですが、あと2回行くつもりですので、なにか新しい魅力を発見する努力はしてみます。オペラ三昧イン・ロンドン
        
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 エプロン姿がケイコさん(クリックで拡大)

        
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