この一週間バービカンとその周辺でオケと共演したり中国伝統楽器とコラボレーションしたりというランラン大特集が組まれたのですが、私はその最後を飾る4月26日のリサイタルに行ってきました。
先回の2007年11月のロイヤル・フェスティバル・ホールでのリサイタルは(→こちら )、中国人観客のマナーの悪さとランラン自身の大袈裟な京劇アクションで仰天しましたが、きっと今回のランラン祭りはそれに輪を掛けた盛り上がり方になるにちがいないと半分ビクビク半分面白そう~、という期待と覚悟で臨んだのでした。
そうしたら、なんと、これが、あっさり、
思い切り普通だったんです。
衣装にスパンコールは付いてなかったし、髪もツンツンじゃなくて田舎の中学生風の素朴なサラサラ髪で、演奏中も観客を意識したわざとらしい身振りもなし。表情は豊かだったし、多少京劇風に手がクネクネしたけど、それは彼自身が音楽にのめり込むのに必要な動作でしょう。
中国人ファンも反省したのでしょうか(目立つほどいませんでしたが)、私は最前列だったので、先回のコーラス席からのように観客席がよく見えたわけではないのですが、ごく普通の雰囲気で、最初のシューベルトの第一楽章が終わったところで拍手が起こったときも、「ここは拍手をするところではないのは承知だけど、あまりに素晴らしいので賞賛の気持ちを表したい」という、これまた普通のコンサートの雰囲気。
そう、普通が一番。奇をてらわなくても実力で充分輝けるランラン君だから、他の派手なイベントで騒ぐのもいいけれど、こういうちゃんとしたコンサートもやって、妙な方向にばかり行かないのが大切です。
Schubert Piano Sonata No 20 in A, D959
Bartók Piano Sonata BB 88 Sz80
Debussy Selections from Preludes Books 1 & 2
Chopin Polonaise, Op 53
Lang Lang piano
Bartók Piano Sonata BB 88 Sz80
Debussy Selections from Preludes Books 1 & 2
Chopin Polonaise, Op 53
Lang Lang piano
シューベルト、バルトーク、ドビュッシー、ショパンというプログラムは統一感がないのですが、きっと
「僕って凄いんだよ、これもできるし、あれもやりたいな。えーい、もう全部やっちゃえ!変化に富んでるってことをテーマにすればいいよね」、とでも思ったでしょうかね?
まずは正攻法で、ピアノソナタの王道ともいえるシューベルト。しかも彼が死の直前に書いたピアノソナタ三部作の真ん中の作品で、これだけで前半が終わってしまう40分の大作。技術をひけらかすハッタリ曲ではなく構成力と音楽的洞察力がが必要な大人の曲です。
私自身全曲を一気に聴くのは初めてなので深い聴き方はできないですが、途中で急にテンポや雰囲気の変わるこの複雑な曲を怖気つかず伸び伸びと立派な演奏だったと思います。シューベルトの中でもこの曲に挑んだランラン君の勇気と自信に拍手です。
後半が悪く言えばごった煮のプログラムで、その上ハッタリもの多し。
まずはお得意のバルトーク。バルトークと言っても色々あるんでしょうが、これは度肝を抜くような力まかせに鍵盤を叩きつける前衛的なソナタで、若い男性に渾身の力を振り絞られたら、最前列の私には迫力あり過ぎ。ピアノもぐらぐら揺れてました
その次は打って変わって、風のように軽やかで叙情的なドビュッシー。
の筈なんだけど、バルトークのがんがん極強モードからすぐには抜け出せないのか、重いドビュッシーでした。
最初の亜麻色の髪の乙女はちゃんと優しく始まったけど、まだ残ってるバルトークの弾き方がすぐに出てきたみたい。気持ちの切り替えが上手くいかなかったのはランラン君がまだ若くて未熟なのか、それともそもそもそんなことはすべきではなかったのか・・? 一年前に聴いたアンズネス
の澄み切ったリリカルそのもののようなドビュッシーの足元にも及びません。
軽いタッチにする方がガンガン弾くより難しんでしょうね、力を抜こうと苦労して意外にもこの曲でランラン君は一番汗をかいてました。でもその一生懸命さが印象的だったので、どれが良かったかと言われたら、ある意味このドビュッシーだったかも。
苦心がありありと見えたドビュッシーに比べると、最後のショパンの英雄は簡単だったらしく、表情にも安堵感と楽しさが溢れてました。
カーテンコールはいきなりのスタンディング・オベーション。最前列でよかった~。そうでなかったら写真撮りにくいったらありゃしない。アンコールはmoon chaseとか言う小曲ひとつだけで、歓声を浴びながらも、しっとりと終わりました。
これ以上は無理だろうと思われるような変化に富んだ演目の組み合わせででやってくれたのはランラン君のサ-ビス精神の表れでしょうが、それがコンサートとしてベストな選択かどうかは別として、楽しめました。こうやって段々進む方向が決まってくるのでしょうが、そうやって更に一段高いところに到達したランラン君を1、2年後に聴くのが楽しみです。
ところで、この翌日にベテラン女性ピアニストのアルゲリッチを聴いたのですが、老練なアルゲリッチとのコントラストでランラン君は若くて青いということがよくわかりました。そこが良いところなんですが。
次に聴くピアニストは、年齢的にはこの二人の間に位置するエフゲニー・キーシンで、いよいよ真打登場。最近日本でやったのと同じ演目ですが、楽しみです。




