4月3日と7日の2回、ロイヤルオペラハウスでイギリスのバロックオペラ2本立てを観ました。
初めてのオペラとバレエのコラボレーションということでROHでも話題にもなりました。
今年はイギリスの作曲家Henry Purcell (1659-1695? )の生誕350年と、George Frederic Handel l(1685-1759)の死後250年目に当たる記念の年なので、これとばかりに、特にヘンデルはたくさんやってますよ~
パーセルのDido and Aeneas、ヘンデルのAcis and Galateaですが、まずはディド(英語だとダイドー)。
Music Henry Purcell
Choreography Wayne McGregor
Director Wayne McGregor
Music George Frideric Handel
Set Designs Hildegard Bechtler
Costume Designs Fotini Dimou
Orchestra Orchestra of Age of Enlightenment
Conductor Christopher Hoogwood
Dido Sarah Connolly
Belinda Lucy Crowe
Aeneas Lucas Meachem
Sorceress Sara Fulgoni
Spirit Iestyn Davies
Sailor Ji-Min Park
First Witch Eri Nakamura
Second Witch Pumeza Matshikiza
Second Woman Anita Watson
パーセルがチェルシーの女学校の学芸会のために依頼されたオペラで1689年初演。現在普通に演奏されるイギリス最古のオペラで、学芸会用なのでうんと短いし歌唱的にも難しくはないのですが、高貴な香り漂う音楽と、一曲の有名なアリアによって、イギリスでは長く愛されているオペラです。ヘンデルはたくさん作品があるけれど、パーセルで有名なのって言ったらこれしかないので、ROHも選ぶのは簡単だったことでしょう。
お話
僅か1時間という短い演奏時間なのに3幕もあり、早いテンポで表面的に進みます。(一年前のウィグモア・ホール に書いたもののほとんどそのままです)
古代カルタゴの女王ディドは、船が難破して漂着したトロイの英雄エネアスを愛していて、エネアスも彼女に愛を告白し、宮廷も祝福。めでたしめでたし。
って、それじゃあオペラにならないので、もちろん悪役が登場。ディド女王を憎む女魔法使い一味が二人の仲を裂こうとして、ギリシャの神マーキュリーに変装した魔女がエネアスに「ローマ建国のためにイタリアに行きなさいと言うと、エネアスはあっさり、「そうですね、はいそうします「」、と。神様には逆らえないでしょ。
裏切りをなじるディドにエネアスは、「じゃあやっぱり僕ここに残るから」と決心を翻すと、普通だったら「まあ、嬉しいわ」と言うところでしょうけど、誇り高いディド女王は、「一度私を棄てようとした男なんか嫌よ、どこにでも行っちまいな」、と意地の強さを見せるけど、エネアスが去った後は哀しみのあまりあっさり死んでしまうんです。きっと、政治的歴史的に深い事情があるのでしょうけどね。
演出、舞台、衣装![]()
このプロダクション、2006年にスカラ座でプレミエされたのですが、あの広いスカラ座の舞台ではすっきりシンプル過ぎだったのではないかしら。それに、2本立てではなくこれだけだったので、時間も短いし、スカラ座の切符代のバカ高さと舞台の見え難さを考えると、特にバレエも大切な要素の舞台なわけで、「なに~っ!これだけっ!?」って、怒る観客もいたのではないかと心配になるくらい。スカラ座で私が観たのは長いワーグナーだったからまだ元は取れたと思えたけど、ディドだけだったら怒り狂うわ、きっと。いえ、落ち着いた色調のセット自体は悪くないし、照明も具合よくて広い空間を感じさせてなかなか良かったんですよ。
衣装は、女王様の衣装が(すぐ脱いじゃうけど)キモノ風だったり、男性は袴(はかま)をはいてて、西洋ジャケットとの混ぜ合わせが洒落てると思いましたが、バレエ・ダンサーの体操着とのバランスがなんかちょっと・・。
ROHの新鋭バレエ振付師のウェイン・マクレガーの演出ですが、こちらはバレエはかなり控え目にしか出てこなくて、しかも歌の邪魔はしないので、要するにとディドはオペラ、アシスとガラテアはバレエ、ってとこでしょうか、オペラファンは「バレエにかき回されなくてよかった」、バレエファンは、「踊りが少な過ぎる」、と思ったにちがいないです。オペラファンとしては、このオペラは有名だししっとりドラマチックにやってもらいたいし、音楽的にもドラマ的にも内容は充分なので、バレエはなくてもよかったですが(アシスは全く逆でしたが)。
もっとも最初から二つの演出をバランス取りながら決めたわけではなく、まずディドがスカラ座で成功して、でも一つだけじゃROHの観客は怒るだろうから、ちょうどヘンデルも記念年だし、なにかおまけにくっ付けようというとことだったと思われます。
私はリンバリー・スタジオででの、Insight Eveningというイベントに行き、Wマクレガーのトークを聞いたのですが、明らかに今回は新プロダクションであるアシス&ガラテアの方に気合が入ってましたね。だからアシスはバレエがうんと多いんでしょう。
まず、サラ・コノリーがROH初出演ということが話題となり、イギリスを代表するメゾソプラノである彼女が今まで一度も出たことがないというのが驚きでした。ENOによく出てる人にはよく起こるように思えるのですが、ROHとENOの間で何かあるんでしょうかね?
私はROH以外でサラを何度か聴いたことがあるのですが(ウィグモア・ホールのダイドー とかENOの薔薇の騎士 とか)、今回の彼女は、女王の威厳と恋する喜びと悲しみを一瞬たりとも無駄にせず短い時間にぎゅっと凝縮して思い入れたっぷりに深く歌い込み、出番は決して多くないけど主役としての存在感を示し、立派なパフォーマンスだったと思います。
だけど、いかんせん、あまりに短か過ぎ!欲求不満になるわね、誰だって。云わばおまけである後半のアシスの方がずっと長いので、今夜の主役はサラであるべきなのに、二つ終わった後は印象がすでに薄れてしまうのが惜しかったこと。
最後に床に倒れて歌う死ぬ直前の有名なアリアが一番の見せ場なのですが、2回目に観たときは彼女がずっと向こうを向いたままだったのでよく声が聞こえず、ますますフラストレーションが募りました。舞台の横の席は、歌手がどっちを向いてるかで聞こえ具合が違いすぎるのがいつも問題ですが、この演出は右側からでないと駄目だということをメモしておこう)。
さて、凛々しいサラ様は、遅すぎるROHデビューを果たしただけでなく、今年のプロムス千秋楽にも出演するそうですから、あのお祭り騒ぎで一気に知名度が上がること間違いなし。いつもは英国女性らしいくしっとりと控え目なサラ様ですが、ドンチャン騒にでユニオンジャック柄のドレスなんか着てぱーっと派手にやって下さいね!・・・しかし、ドレスのセンスがイマイチのサラ様、いっそ男装の麗人姿で登場する方が受けるかも。
エネアス(トロイの戦士)
ちょっとしか歌わないし、全くどうでもいいような役なので有名歌手は出ないでしょうが、このLucas Meachemも聞いたことのないバリトンです。でも、長身でハンサムな彼はディドが恋する対象として絵的にはサマになってたので、それで充分。
演出家Wマクレガーは、後半のアシスもそうですが、男性歌手をルックスで選んだのではないかしら?ビジュアル重視のバレエ人としては当然でしょう。このアネアスもパワーはないけど心地良い声身のこなしで、とりあえず合格だし、オペラ界には稀な美貌を楽しませて頂きました。
ベリンダ(ディドの侍女)
アネアスよりベリンダの方が絶対に大事で、若くて軽やかな売り出し中のソプラノにうってつけの得な役。イギリス声楽界では期待の新人といわれるルーシー・クロウもROH初登場ですが、ディドの暗さと対照的な屈託のなさと出番の多さで充分印象に残る立派なデビューで、個性には欠けるけど、色んな役がやれそうで期待できるルーシーです。
他の歌手たち
魔法使い役のSara Fulgoniは無難にこなしたけど、魔女にしては歌も姿も若くて綺麗過ぎ。ウィグモアで聴いたときはカンターテナーが歌ったのですが、CT好きの私としては今回もCTを出してもらいたかった。
船員役は私のご贔屓韓国テノールのJi-Min Park君。ほんのちょい役でコメディアンぶりを発揮することもできないので、ただ出たってだけだけど、嬉しかったです。アシスにも出てくれたし。
脇役であっても同じヤングアーチストの中村恵理さんはなかなかの印象を残しました。下っ端魔女で妙な衣装だったので目立ったこともあるのですが、シャム双生児のようなPumeza Matshikizaとの実力の差は明らかで、高音が売り物の恵理さんのよさはこの役では全く出ないにも拘わらず、低い声もよく出て感心。
先月のカプレッティでネトレプコの代役 まで立派務めた恵理さんはROHヤングアーチストの中でも一目置かれる存在で、来シーズンのラ・ボエームではムゼッタ役で抜擢されてます。その前に来月「愛の妙薬」のジャンネッタもあり、階段を確実に昇っている恵理さんです。小さな部屋で行われる平日ランチタイムのリサイタルも恵理さんは特別にリンベリー・スタジオだったそうですよ。
カーテンコールの写真をまとめてアップしときますので、お好きなのをクリックで拡大して下さい。2回ともストール・サークルでしたが、反対側の席だったので、2回合わせると舞台はちゃんと見えました。私にとってはこれが理想的な見方で、全てのオペラをこういう席で観たいものです。
(なるべく早くアシスとガラテアもアップしますね、と今は空約束だけしときます)










