5月28日、English National Operaに、急遽リヒャルト・シュトラウスの「薔薇の騎士」Der Rosenkavalierを観にいきました。


薔薇の騎士というのは、婚約の印として銀の薔薇を届ける使者のことで、その青年伯爵と他の男の婚約者である平民の娘が一目で恋に落ち、すったもんだの末に結ばれるという、喜劇オペラでもないのに珍しいハッピーエンド。ドタバタ喜劇要素もあるのですが、滅びゆく貴族社会と台頭する平民階級、老化と若さを対照するなかなか奥の深い1911年初演(もうすぐ私がいくドレスデンで)のこの作品はRシュトラウスの中では最も甘美でポピュラーなわかりやすいオペラです。


そして薔薇の騎士を演じるのが女性であり、彼(彼女か?)が女装をして小間使いのふりをするというひねった性的倒錯の妖しい魅力あるるところがミソ。ま、元祖宝塚の男役ってとこですね。

モーツァルトの「フィガロの結婚」に出てくるケルビーノ少年もメゾソプラノが女装したりしますが、ケルビーノが「恋とはどんなものだろう?」と唄うただの無邪気な鼻血どばどばガキンチョなのに対し、オクタヴィアンは17歳でであってもすでに中年女性の愛人なのでずっとオマセ。


このお馴染みのオペラ、映像や生舞台に何度も接していて、それなりに思い入れもあるのに、全てを英語にしてしまう私の嫌いなENOのこの新プロダクションを観にいったのは、マクヴィッカーの新演出であることと、ENOにしては豪華な歌手陣だったからです。でも、残念ながら両方とも失望でしたしょぼん


     しっぽフリフリオクタヴィアン(薔薇の騎士)  Sarah Connolly

     ウサギ元帥夫人(オクタヴィアンの愛人で公爵夫人でもあり)  Janice Watson

     ブタオックス男爵(元帥夫人の親戚でゾフィーの婚約者) John Tomlinson

     ネコゾフィー(平民の若い娘)  Sarah Tynan

       歌手(元帥夫人邸のエンターテイナー) Alfie Boe

 

     指揮(ENOの音楽監督) Edward Gardner

      演出 David McVicar

家舞台と衣装くつ


このオペラばかりは時代読み替えなどしないでひたすらまっとうにそして豪華絢爛にして欲しい気もしますが、でもマクヴィッカーが全くちがう風に料理してくれたらそれも又面白そう、と期待したのですが、これが信じられないくらいつまんない舞台だったんですダウン 




①元帥夫人の格式の高い貴族の屋敷、②新興成金のピカピカ御殿、③あやしげな安旅館、と全くちがう3種類のちがいを表現することが大切なのに、なんと全部一つのセットで済ませてしまうなんてあんまりだ。しかも半円形の板張りの床でぱっとしないシャンデリアがぶら下がってるだけの面白みの欠片もないありふれた部屋よ。

こんな筈はないから、私が座ってた高いバルコニー席からは見えないけど、なにか天井にあっとタメゴロー仕掛けとかあんのかしら?とすら思ったほど。




衣装は落ち着いた色調で品よくリアルで、暗い室内とマッチはしてるけど、せめて元帥夫人には豪華絢爛なドレスを着せてあげて欲しかった。外見の華やかさが彼女の老いることへの哀しみを増すんじゃないの?



肝心の結納配達係としてのオクタヴィアンの衣装ですが、写真でご覧の通り、銀の鎧が暗いところで目立つようにということでしょうが、、たしかにそこだけ妙にピカ~っとしたけど、あれは女性には重過ぎる。アルマジロのような格好させられて格好良く見えるがっちりした体格のメゾソプラノはまずいないでしょう。重くて長いトレインも邪魔で、颯爽と登場するべきところでもたついてしまう。他の人は無難にまとまってて衣装だけ見てればなかなか素敵だったけど。


演出面では、元帥夫人にはべるのが黒人の小さな少年ではなくて、大人の黒人男性ってのは絶対まずいよね。最後の大事な場面は少年に合わせた音楽になってんのにねえ。



女の子登場人物とパフォーマンス


しっぽフリフリオクタヴィアン(薔薇の騎士)

オクタヴィアンは17歳の伯なのですが、オペラで若い美青年というのは所詮無理ですから、メゾソプラノの女性歌手が演じます。数あるズボン役の中でも宝塚的魅力を求められる一番華やかな主役なので、できればすらっと背が高くて凛々しい人にやってもらいたいです。ちょっと前のウィーン版映像のアン・ソフィー・ヴォン・オッターが最高。もちろん歌唱面も含めてあれほどの人がENOに出てくれるのは望めないけれど、今回のイギリス人サラ・コノリーにはかなり期待してました。


たしかに鼻筋の通ったしっかりした骨格の顔つきは男役にはぴったりだし、身のこなしも理想的なオクタヴィアンで文句なし。でも、意外に背が低く見えてしまったんですよね。上から見下ろすバルコニー席だったので身長の相対関係が定かではなかったとは云いながら、元帥夫人のジャニス・ワトソンと同じくらいではなかったかと。


でもこれだけ容貌的にオクタヴィアンに向いてる人はそういないだろうからまあいいとしても、失望したのは肝心の歌で、声がやけに細くて高音はただの金切り声。声量は、トムリンソンに負けるのは当然としても、元帥夫人や無名の駆け出しソプラノのソフィーとの三重唱、コノリーの声はほとんど聞こえませんでした。こないだのウィグモア・ホールでのディドとエネアス では深く艶のある声だったし、日頃の名声を考えると、この日はうんと調子が悪かったのでしょうね。残念あせる




ウサギマルシャリン(元帥夫人)

「あーあ、私もももう年だわ~、見てこのカラスの足跡・・・」と嘆く元帥夫人はおそらく30代という想定なのでしょうが、17歳のオクタヴィアンとの別れをオペラの最初から予期しています。いつか若い娘に取られてしまうだろうと・・・


そしてその通り年齢の釣り合う若い女性に恋をしたオクタヴィアンから自ら身を引くのですが、愛人はオクタヴィアンが初めてだとしても、


退屈しているこの元帥夫人はこれからも浮気をし続けるのでしょうか?それとも一回で懲りた? 

もしちがう愛人を作るのなら、オクタヴィアンと同じくらい若い男がお好みかな、それとも次は自分と近い年齢の男にしてみよ~、と思うのかな?


って、そんなことはどうでもいいんですけど、ま、ご主人に見つからないように気を付けて下さいね。或いは本気になってアンナ・カレーニナにならないようにね。


いつも泣きべそをかいてるような顔のジャニス・ワトソンはROHでも立派に主役をしたこともあるし(カーチャ・カヴァノヴァ )、イギリスでは実力のある中堅ソプラノとして知られていて、今回も元帥夫人に相応しい気品と歌唱力で、ENOにしては上等な元帥夫人でした。



ブタオックス男爵


「ENOにしては」という甚だ失礼な言い方をすることの多い私ですが、

かの世界的なバス・バリトンでSirの称号まで賜ったジョン・トムリンソンが時々出てくれて、ENOの格を上げてくれるのはありがたいことでしょう。


トムリンソンともあろう人がこんなところになぜ?と不思議なのですが、もしかしたら彼は英語翻訳に賛同してたりするのか?そうでもなければ、わざわざこれだけのために(音楽にそぐわない)英語の歌詞を新たに覚える価値ないでしょ? 実際、こないだROHでミノタウロス という覚えにくそうな新作をやったばかりで大変だろうに。

そして、この日のパフォーマンスの中で世界的レベルと言えるのはトムリンソンだけでした。

貧乏であっても(飲む打つ買うで浪費したのでしょう)、貴族であることを鼻にかけて、自分勝手で女たらしの徹底的に嫌な野郎を、トムリンソンは余裕綽綽の歌と芝居で実に楽しそうに演じてました。


ネコゾフィー


貴族と結婚できるってんで、父親共々舞い上がっている成金の娘。それが一番大事なら、割り切ってたとえ婿殿が完璧でなくても我慢しなさい!

だけど、いくらなんでもオックス男爵ではね~。あんな人と結婚するのは嫌だわとすぐに駄々をこねる気持ちもわかります。特にオクタヴィアンに会ってしまった直後ではね。


元帥夫人が身を引いてくれなかったら、女二人で血を見るところだったけど、よかったね~。お父さんも許してくれたし、誰もオクタヴィアン伯爵には貴族の娘じゃなくちゃ、なんて言ってないのもこれ幸い。ま、オクタヴィアンはおそらく将来は浮気するだろうけど、それくらいは大目に見ましょう。たくさん持参金持っていけば身分が低くても一生威張れるし、どこまでもラッキーなお嬢さんです。


歌も芝居も特に難しくはないので、清らかな声さえ出ればよい駆け出しソプラノがする役ですが、Sarah Tynanはまさにそんな新人ソプラノで、ほっそりと愛らしい容姿とピュアな高音がなかなか良い感じでした。


歌手役でイタリアンアリアをちょっと歌うテノールは、誰かの代役らしいAlfie Boe。元ROHの若手育成プログラムにいた彼はルックスも悪くないので最近CDとか出したりしてなんちゃってクラシック系統でも売り出し中。私はかなり前にグラインドボーンのドサ回り公演で聴いたことがあり、その時は将来有望なにいちゃんだと思ったけど、この日は硬くて不快な声だったこと。


指揮者でENOの音楽監督のEdward Gardner、初めてだけど、へえ、こんな若い人なんだ。美しいRシュトラウスは結構難しいのだけれど、下手じゃないけど、ウィーンの香りは全くしないオケでした。まあ、ENOならこんなものでしょう。


以上、期待が高かった分、失望もしましたが、(英語だったのが、我慢できないくらい嫌だったことは横に置いといても)


カメララッキーだったのはカーテンコール写真が撮れたこと。ENOは厳しいのよ。




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