昨年11月から今年2月に掛けて、2チームのカルメンのパフォーマンスがありました(筋書き等は12月のカルメン をご覧下さい)。

予定されていた2チームの顔ぶれはこちら。


           前半      後半

お団子指揮  Antonio Pappano Philippe Auguin  

リンゴCarmen Anna Caterina Antonacchi Marina Domashenko
ぶどうDon Jose Jonas Kaufmann Marco Berti
キノコEscamillo Ildebrando D'Arcangelo Laurent Naouri
さくらんぼMichela Norah Amsellem Liping Zhang



指揮者も入れると、後半チームの方が劣るかなと思わざると得ないのですが、歌手だけなら(それでも前半チームの方がベターでしょうが)そう大差はない筈でした。


でも、肝心なドマシェンコがちょっと前に降りてしまい、代打が前半チームの脇役だったViktoria Vizinに変更になったため、歴然と差ができてしまいました。


降板したロシア人のドマシェンコは、5、6年前のバービカンのコンサート形式の「サムソンとデリラ」でホセ・クーラの相手役で聴いたことがあり、そのときはボロディナのデリラを楽しみにしていたのにドマシェンコに変わってしまってがっかりしたのであまり良い印象はないのですが、それでもあれから何年もたって上手になったかもしれないし、彼女のカルメンはそれなりに楽しみにしてました。

まあアントナッチが素晴らしかった12月のカルメン を負かすことはまず不可能だったのですが。


という訳で、ドマシェンコの出ない後半チームをBキャストと呼ぶことにして、1月31日のパフォーマンスを比較してみます。



リンゴカルメン

若いハンガリー人メゾ・ソプラノのViktoria Vzinは、名前の通りの美人。

大きな胸がこぼれんばかりだったばかりでなく身のこなし顔の表情全てが野性的でセクシーだったAキャストのアントナッチに比べると、この長身美人さんは、ビジュアル的には、こぼすほど胸がないのは仕方がないとしても、青くて硬いお嬢様。


私はカルメンはやっぱり下品なくらいあからさまな色気出さなきゃと思っているので、この美しいけど激しさ不足のすましたカルメンに向かって、「ねえちゃん、もっと腰振らんかい!」と心の中で最初は叫んでいました。身振りは歌の抑揚にもおのずと表れるわけで、折角アントナッチよりも深くて艶っぽくてカルメン向きの声なのに、腰が振れてなくてまっすぐ過ぎるんですもの。


だけど、見ているうちに慣れてきたのか、「ま、綺麗だし、こういうご令嬢風カルメンもこれはこれでいいかも」と思うようになりました。こちらがフレクシブルになってちがうイメージのカルメンを楽しめばいいのですもんね。

全ての面でアントナッチが上なのですが、この二人の場合、勝負はあまり意味がないような気もします。どうせ敵わない相手に対して、この美人さんの取った方法は正解だったかもしれません。



実物は写真よりも美しい人です


この美人さんは、いくつかのマイナーなオペラハウスではカルメン役を演じているようですが、ROHでは今まで、Aキャストのカルメンの時のマルセデス(カルメンのジプシー仲間)、椿姫の娼婦仲間、リゴレットのマッダレーナなどの脇役で出ただけ。後者ニ役では全く印象に残ってませんが、Aキャストカルメンのときはとても素晴らしくて、ちょい役には勿体無いほど素晴らしかったです。

今回のカルメン主役は、ときに声量不足の場面もあったし、もっと土臭いカルメンが好みの私にはちょっと物足りなかったですが、「大きなオペラハウスで主役張るには10年早いのよ」という程下手ではなく、これで自信をつけて伸びてくれれば、いつか魅力的なデリラになりそうです。



ぶどうドン・ホセ

Aキャストのカウフマンは、長身でハンサムなだけでなく、ドン・ホセになりきって、口パクオペラ映像版でも役者としてこの役に抜擢されそうなくらいぴったりと素晴らしいドン・ホセだったので、アントナッチ同様、彼に勝るのは至難の業。


Bキャストのベルティは、そこそこ実績のあるテノールで、ROHでもこれまでにシモン・ボッカネグラ、トロヴァトーレ、マダム・バタフライで主役をやってます。トロヴァトーレは全く覚えてないのですが、最初に見たときにあまりに不快な声だったのであきれ返った記憶があり(Sボッカネグラにちがいない)、でもバタフライでは別人かと思うほど素晴らしくて、ようわからんやっちゃなと思ってました。


で、今回どっちだったかと言うと、なんと両方。

最初はとてもひどくて、うへ~この不快で硬い声を3時間も聞くのかとぞっとしましたが(高い声が出なくて、なんと裏声で誤魔化した箇所もあった)、途中で硬さが減り、素晴らしいというところまでは改善しませんでしたが、声量はあるし素質はある人なのだということはわかりました。でも、最後の方でまた低下して、安定のまるで無い奴だということもはっきりわかりました。実に惜しい・・・


歌だけでも負けてるのに、芝居も含んだら、天地の差。野放図に醜く太っていることには目をつぶるとしても、歌うときに相手の顔を見ずにあらぬ方向を向いてるのは頂けません。まあこれは近くの席だったからわかったことで、遠くの人にはわからないでしょうが、それでもそれでもVizin同様、身振りは歌に反映されるので、やっぱり感情の篭らない歌唱になってしまうわけです。


こちらをBキャストと私が容赦なく呼ぶのは、カルメンよりこいつのせいです。もっとコントロール力を付けないと、ただ声がでかいだけのデブで、もうお終いですね。


実物は写真よりも太った人です



キノコエスカミーリョ(闘牛士)

ローラン・ナウリを生で聞くのは初めてなので、楽しみにしてましたが、失望しませんでした。

闘牛士にしてはほっそりし過ぎですが、馬から降りた後の大袈裟なアクションとハンサムではないけど造作の大きい顔の表情が豊かで、楽しませてくれました。歌もAキャストのダルカンジェロよりもエッジが利いて変化に富み、派手さが売り物の花形闘牛士はこうでなくっちゃとうなづいてました、私。なのでこれは僅差でナウリの勝ち。

又来てねドキドキ。できればネイティブなフランス語もので。


さくらんぼミカエラ

小柄で可憐を絵に描いたようなLiping Zhangはスペインの田舎娘のこの役にぴったりです。(えっ、でも彼女中国人でしょ?と思うかもしれませんが、オペラでは人種には目をつぶります。父親が白人、母親が黒人、子供がアジア人という配役でも誰も文句言っちゃいけません。人種だけではなく、美醜も気にせず、要するに全てに目をつぶって最後は音だけが大事なのです)


ROHではお馴染みの彼女、これまでにトゥーランドット、ルチア、マダム・バタフライに出てますが、容貌だけでなく声の質からもちょっとルチアは苦しいので、トゥーランドットと蝶々夫人が向いてます。(さっき言ったことと矛盾しますが、人種的外見的にぴったりする場合はそれはボーナスとしての欄外評価となります。)


Aチームのアンセレムは不調だったのかいまいちでしたが、Zhangは歌も芝居も健気なミカエラを好演。調子良さそうなので、来週スタートのマダム・バタフライも期待できそうです。こちらもBキャストの勝ち。


メモ

ということで、カルメンとドン・ホセはAキャストの圧勝、闘牛士と田舎娘はBキャストが僅差で勝ち。

指揮者は、言わずもがな、Aキャストのパッパーノのリズム感がやはり優れていて、体にズンズン響きました。



カメラ ↓ カーテンコールの写真です。幸い、また至近距離で見ることができました。クリックで拡大します。



    



  


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