9月15日、ロイヤルオペラハウスの新シーズンが始まったので、早速行ってきました。
一昨年(ジョコンダ)と去年(ポルトガル王ドム・セバスチアン )はスター歌手も出ないコンサート形式の地味な幕開けでしたが、今年はアンジェラ・ゲオルギューが出る華やかな仏グランド・オペラ。私はもちろん着物で行きましたが、そのときの雰囲気等についてはこちら をご覧下さい。
グノーのFaust
1859年パリで初演のこのオペラ、ゲーテのファウストの第一部が原作ですが、典型的な「有名な作品ほど読まれない」もののひとつでしょう、私はもちろん読んだことないし、小説ではなく詩文なのでドイツ語さっぱりの私には一生縁無し。もとよりゲーテの崇高な精神をオペラで表現できるわけもなく(ワグナーのリング並みの長編にでもしない限り無理)、ドイツでは偉大なゲーテ先生の名を汚すこの作品は「マルガレーテ」と呼ばれているという話もあるし、ここはゲーテのファウストの筋書きだけ採用した俗っぽいファウストを想像して下さいね。
「年老いた学者ファウストが失った青春を取り戻すために悪魔に魂を売る話」なのですが、このオペラでのファウストはただ若いおねえさんといちゃつきたいだけのようなので、メフィストフェレス(以下略してメフィスト)は地獄からの使いの悪魔というよりは、ノルマ達成に苦労する出会い系エージェント。
今まで勉強ばかりで女性経験のない超ダサイ学者さんに「旦那、良い娘がいますぜ」と美人の写真を見せて契約させ、「じゃあその娘に会わせてもらおうじゃないか」と言われると、「いやあ、あの娘は信仰厚くて神に守られてるから難しいんだ」なんてよくある結婚相談所みたいなことを。でもそれでは悪いと思ったか、このエージェントはなかなか良心的で(成功報酬かな?)、ダサい学者をスマートな青年に変身させるだけではなく、その娘をモノにする手練手管を教えて、小道具も準備。
小道具とは、「ダイアモンドは女を裏切らない」とマリリン・モンローが映画の中でも言ってたましたが、マルグリットは、心優しい青年シーべルの捧げた花とファウストのダイアモンドを見比べて、ダイアモンドの方を選びます。その時宝石と一緒に鏡が置いてあるのがミソで、宝石で着飾った自分が美しいと気付いたマルグリットはそれまでの信仰心のある慎み深い女性ではなくなってしまいます。美しいが故に凄腕エージェントと突然発情した学者の犠牲になった可哀相なマルグリットですが、それはいわば自分で撒いた災難の種。
その災難とは、彼女はファウストの子供を身ごもって棄てられて、それを怒った兄ヴァランタンをファウストに決闘で殺され、さらに生まれた子供を殺した罪で牢獄に入れられ、気が狂ってしまうという苦労のフルセット。しかし最後は神に祈り、天から救われることが、ゲーテのファウストの第二部につながるようです。
グノー のオペラで有名なのはこの「ファウスト」と「ロミオとジュリエット」ですが、華やかで美しくて、私は好きです。フランス語が母国語のロベルト・アラーニャが歌ってくれると最高です。
舞台と衣装とバレエ
ROHのプロダクションの中で私がビジュアル的に好きな舞台のひとつです。
ゴシック風のセットはまともで、ROHにしては豪華。様々なダンスが踊られますが、印象に残るのは仏グランド・オペラにはつきもののバレエ。
ミュージカル「シカゴ」やライザ・ミネリの「キャバレー」を思わせる編みタイツのセクシーな踊りもいいのですが、ジゼルのような白いバレエ衣装を着た数人のバレリーナが最初は優雅に踊っているのですが、臨月のお腹を抱えた仲間(マルグリットという設定ですね)が登場すると、突然下卑た態度になり、下品に大声で罵ったり、裸足に青い口紅という異様な衣装で古典バレエのパロディというべき振り付けになり、最後は卑猥な乱交パーティに。ショッキングなこのシーンがこの舞台で一番印象的です。それ以外に、メフィストの周りにスパイダーマンのように床を這ってる男性数人がいるのも私が感心した演出です。
設定は1900年前後のベルエポック時代に読み替えてあり、衣装はリアルでまとも。金髪カツラのゲオルギューはいつもの黒髪とは全く感じが変わって、でもとても素敵。
NYメトで金髪カツラを被るのを嫌がって問題になったこともあるというアンジェラですが、とっても似合うのにねえ。頬がこけるほどこの頃はほっそりしてるけど、胸は立派で良いスタイル。プレミエの時は囚人服でオッパイがはみ出るのではないかとハラハラしたけど、今回はしっかり下着付けてました。
一番の山場アリア「宝石の唄」に出てくる宝石は、ニセモノの舞台小道具だと思ったら、アンジェラの主張で本物を使ったそうです。さすが、要求の多い有名な傲慢歌姫アンジェラ。そうと知ってたら、しっかり見ておけばよかったな。私は舞台から3,4メートルの席だったのだから。
パフォーマンス
David McVicar演出のこのプロダクションは2004年の6月がプレミアで、同じ年の10月にすでに最初のリバイバルがあり、今回が3度目の登場。
私は全部観てますが、まずどんな歌手が出たかリストアップすると、
June 2004 October 2004 September 2006
Faust Roberto Alagna Piotr Beczala Piotr Beczala
Mepeistopheles Bryn Terfel John Tomlinson Orlin Anastassov
Marguerite Angela Gheorghiu Elena Kelessdi Angela Gheorghiu
Valentin Simon Keenlyside Dalibor Jenis Russel Braun
Siebel Sophie Koch Katija Dragojevic Liora Grodnikaite (Christina Riceの代役)
どうです、プレミアのときの顔ぶれ、すごいでしょう? 脇役にキーンリーサイドよ! この7年間のROHで一番豪華。
もちろんこの時がベストだったのは言わずもがな。皆さん素晴らしかったです。ビデオに撮ってあるもんね。
ファウスト
これが愛するアラーニャを生で聴いたのが最後というのが悲しいです。今回もベッツァーラが歌っているのに、私の耳にはアラーニャの声がずっと聞こえていたのです。もうこれは禁断症状ですね。アンジェラがしょっちゅう出てくれるのは嬉しいですが、仲たがいしたアラーニャに「コベントガーデンは私の牙城だからあなたはどっか他所で歌ってね。日本に行ったらキャーキャー騒いでもらえるでしょ?」なんて言ったとしたら、アンジェラ恨んじゃうよ。
ところで、この二人、日本では離婚したと思われてるようですが、最近の雑誌のインタビューでアンジェラが、「私たちついこないだプエルトリコで一緒に楽しい休暇を過ごしたのよ。私の誕生日にも会いに来てくれるの」と言ってます。どうなってんでしょうね? まあ夫婦仲がどうなっても構いませんが、アラーニャをロンドンで歌えるようにしてあげてね。お願いお願いお願~い!
ポーランド人のベッツァーラは、どこが悪いと言われるとどこもなくて、大オペラハウスの主役も充分こなせる力を持っているのですが(ギリギリ)、他のも聞いたことありますが、まだ若いのにもう限界なのか、前と比べて上手になってないですね。それどころか、声が太くなってしまったみたい。 全然魅力のある声ではないし、私のお気に入りテノールリストにはお呼びじゃないです。
メフィストフェレス
メフィストは、これはもうブリン・ターフェルの独壇場。この手の漫画的キャラが得意ですから、余裕綽綽。トムリンソンはシリアスな役はなんでも素晴らしいけど、こういうコミックは下手クソ。なんでこんな合わない役にまで手を伸ばすんだろ?
今回のブルガリア人アナスタソフは、脇役でなら光るけど、こんなカリスマ性も必要な主役にはちと軽すぎ。皺もなくて整った顔立ちだから、女装は一番似合ってたけどね
この黒いドレス姿、プレミアの初日に見たときはびっくり仰天だったわあ。あの巨大クマゴロー(トスカご参照 )のブリンがティアラとイブニングドレスだもんね、どよめいた。でも気持ちの悪さで言ったらトムリンソンの勝ち。ブリンはまだ愛嬌あるけど、トムリンソンは吐き気もの。でもこういうのが忘れられないのよね、オエーっ!
マルグリット
これはもう天地くらいの差。上手で綺麗なアンジェラ・ゲオルギューと、綺麗だけど喉が閉まって声がこもってしまうエレーナ・ケレシディ。ROHさん、ケレシディなんて二度と出さないで下さいね
。もっといいソプラノ、たっくさんいるでしょう?
アンジェラがこの7年間にROHで歌ってくれたのは、ファウストの他にはロミオとジュリエット、ラ・ボエーム、つばめ、シモン・ボッカネグラ、トスカ、ホフマン物語で、どれも私は好きでしたが、ファウストはその中でも彼女に合っている役の一つだと思います。ますます好調なアンジェラ、あと10年は頑張ってね!
黒髪でも金髪でも綺麗なアンジェラ。でも顔がたとえヘチャムクレでもスターになってると思う
ヴァランタン (マルグリットの兄)
プレミエのサイモンが軽くやってるのに素晴らしかったのは当然ですが、今回カナダ人のブラウンの熱演もとてもよかったんですよ。バリトンにしてはエッジの効いた細い私好みの声というだけではなく、カーテンコールでも大きな拍手をもらってました。
シーベル(マルグリットに片思いの青年)
メゾ・ソプラノのズボン役。脇役だと手堅くてブラインドボーンどさ回りのチェネレントラ
のChristina Riceを楽しみにしてたのにキャンセルでがっかり。でも代役のLiora Grodnikaiteの出来は上々。ROHのJette Parkerという若手育成プログラムのメンバーのリトアニア人。すらっと長身でズボン役にぴったりの彼女はおどおどとしたビッコのシーベルを好演。椿姫の脇役とかで見たことあるような気がするけど、こんな大役は初めてかな?
プレミエはアラーニャ目当てで2回行ったけど、今回は良い席で見られたので(50ポンドもしたけど)、一回にしときます。
以下は、私が撮ったカーテンコールの写真です。クリックすると拡大します。
勢揃い! 真ん中の汚れた衣装がイジメに合う臨月バレリーナ
囚人服で失礼します。髪も短く刈られちゃったしね。
最後に、ここにいなかったのにずっと歌ってくれたアラーニャに、私からだけ拍手とキスを送ります。
お疲れ様でした。私もね・・
「しばらく行かないから、コベントガーデンの花形テノールの座をアルバレスに奪われちまったぜ。椿姫さんのハートもな。」
そうよ、世界中追っかけするほどお金持ってないも~ん。愛は現金なんだから。
さて、来月はその丸ちゃん(アルバレス)がまた来てくれる~~
ロドルフォー~、ミミ~!
○●○●○●○●○● 人気ブログランキング ○●○●○●○●○●











