7月12日、ロイヤルオペラハウスにドニゼッティのDon Pasqualeを観にいきました。

もう一度行きたかったのですが、仕事が忙しくて無理でした。しょぼん


家 まず、とっても可愛い舞台なんですよ 口紅 don pasq 12  



3階建ての18世紀のドールズ・ハウスで、歌手たちは「お人形さん」なんです。男性も白塗りおちょぼ口紅メイクで、かなり不気味な人もいます。英国の有名な舞台演出家Jonathan Millerの舞台はフローレンスのオペラハウスとの合同製作です。私は他の国のオペラハウスに行くわけではないのでそれで豪華な舞台が見えるのであれば大歓迎ですが、コベントガーデンともあろう大手が独自の舞台を創れないというのもちょっと寂しい気もします。


しかしこの舞台、なんせ3階建てですから、席選びに気をつけないといけません。最上階でアリアを歌うことも多いので、一番値段の高いorchestra stallだと上を見上げて首が疲れます。それが理由かどうか、切符の売れ行きがよくなかったこともあり、高価平土間席が信じられない安い値段で直前に放出されたそうです。


グッド! 値段に拘わりなくベストな席は横の上の方の席であることを1年半前に観たことがある私は知っていたので、ドールズハウスの3階とほぼ同じ高さのlower slipを選びました。オーケストラを見下ろすこの席は23ポンド。この値段で目の前で歌ってもらえるなんて最高です。


don pasq 11  ブラボー~!! (と黄色い声で)  (クリックで拡大)



モグラ オヤジ虐待ものがたり

ドニゼッティ作曲の1843年初演のこのオペラは、若い女性と結婚しようとする爺さんをコテンパンにやっつけて笑い者にする喜劇です。


ローマの金持ち老人ドン・パスクワーレはもうすぐ70歳。甥が然るべきお嫁さんをもらったら財産を譲ようと思っているのだが、甥エルネストには一文無しで未亡人の恋人ノリーナがいて、叔父の薦める縁談は拒否。仕方ないので、パスクワーレは自分で嫁をもらって子供を作ろうと決心。私はリーズナブルな解決策だと思うのですが、若い人たちは「えーっ、うっそー!」と仰天して、爺さんをこらしめる作戦に出ます。


don pasq 2   「へんな女と付き合うなら、もうお前には財産はやらん」

     「叔父さん、そんな殺生な!」



パスクワーレ爺さんの主治医でエルネストの友人の医師マラテスタはエルネストの恋人ノリーナを自分の妹と偽ってお嫁さん候補として紹介。ノリーナは超ブリッコで純真無垢なおぼこ娘を目一杯演じ、ころっと騙された爺さんは即プロポーズ即結婚。


            「ぶりぶり角度はこれ位?」 don pasq 3              

                               「そやな~、もうちょっと傾けたほうがええで~」



途端にノリーナは大豹変してじゃじゃ馬になり暴れ(これが作戦なんですけどね)。勝手に召使を数倍に増やすは、家は改装するは、買い物三昧で大散財。文句を言う旦那には「うるさい!」と怒鳴りつけて、平手打ちまで食らわす始末。とどめはわざと落とした恋人との密会の約束の手紙。


おっさん、なんか文句あるんかいな?! don pasq 6

                                 ウワーン、怖いよ~!


庭で(エルンストと)密会するノリーナを捕まえたパスクァーレは離婚を言い渡し、「わしゃ結婚は懲りた。甥に恋人と結婚させて財産も相続させることにするわい」と宣言。そこへエルンストが現れて恋人ノリーナを紹介すると、なんとそれはわが妻!

パスクァーレは騙されたことに気づくが、若者たちを許して祝福する。(良いおじいさんじゃあないですか)



パンチ!ノリーナも芝居とは言え申し訳ないと思って爺いじめをしてはいるんだけど、「でもさあ、やっぱり爺さんが若い女と結婚したいなんて思うだけでけしからんことよね~」というのが本音のようで、そう言われちゃああんまりよね。

私も結構年取って人生が少しはわかってきたような気もするんだけど、年配だって恋愛するし、若者より元気な爺さんだっているでしょ。(婆さんはもっと元気だと思いたい)


音譜 パフォーマンス


今回も立派なベルカント(美しく歌うこと)を聴かせてくれて皆さんご立派でした。

参考までに2004年12月のROH初演の時のキャストも書いておきますね。


                     2004年12月            2006年7月 

 指揮者             Bruno Campanella Bruno Campannela   

 Don Pasquale (baritone)  Simone Alaimo Alessandro Cobelli

 Ernesto (tenor)      Juan Diego Florez Eric Cutler

 Norina (soprano)      Tatiana Lisnic     Aleksandra Kurzak

 Doctor Malatesta (baritone)  Alessandro Corbelli      Christopher maltman


お金 ドン・パスクァーレ

イタリアのベテランバリトンのアレッサンドロ・コルベッリAlessandro Corbellは、先回は医師だったのに今回はタイトルロールに格上げ。去年イタリアのトルコ人 でチェチリア・バルトリ扮する浮気妻に手を焼いてでも結局ゆるしてあげる同じような中年おやじで好演した彼は、シリアスな役でも歌的には充分に通用する実力の持ち主ですが、大きな鼻と垂れ目という若い頃はミスタ・ビーンだったにちがいないコミカルな顔を生かして、こういう喜劇専門でやっていけるキャラ。今回も若い娘に鼻の下ベローンのおっさん役を初老男のペーソスを表現して余裕の演技でした。


don pasq 5 最近わしゃ若い女にコケにされるおっさん役ばっかりじゃのう



メガネ 医師マラテスタ

今回のマラテスタ医師は、イギリスの中堅バリトンクリストファー・マルトマン。ENOだといつも主役だけどROHだと脇役の多い彼で、何度も聞いたことありますが、今回が一番よかったと思います。ありふれて個性がないけど素直な声でなんでも上手にできちゃう優等生。それが人材豊富なバリトン業界では欠点になり得るのだけれど、今回は白塗り化粧でまるっきりちがう人に見えたのも(私には)受けたかな? これからも扮装と大袈裟な演技をすればこの人一皮剥けると思うのだけれど。



don pasq 7  俺は器用貧乏なんだろか?


男の子 エルネスト

今回心配だったのはこの役。だって、先回はあのトップテノールのホアン・ディエゴ・フロレスだったのよ。誰だって見劣りするわよね。

だけど、アメリカ人のエリック・カトラーの素晴らしかったこと! 

叙情的な美声が甘く美しく響いてもううっとりでしたわん。一箇所高音がうまく出なかったのは残念だけど、ま、それがフロレスとの差がつくところなわけで、仕方ないですね。


でもまだ若い彼、去年のRichart Tucker賞の受賞者で、今は米国中心に活動してるようですが、世界の檜舞台で前途は超有望。私はいっぺんでファンになりました恋の矢 


顔は白塗りヘンテコメイクだったのにわからなかったけど、写真で見ると、腫れぼた眼でハンサムとは言えないけど、そんなことはどうでもよくて、彼の場合テノールには珍しく長身なので、舞台映えもまちがいなし。



don pasq 10             eric cutler デビューCD

エリック、大西洋越えてまた来てね~! すぐ来てね~! (声がまた真っ黄色)



女の子ノリーナ

ポーランド人ソプラノのAleksandra Kurzakもとても魅力的。細い高音が明るく軽く伸びて心地よく聞惚れました。ホフマン物語のオランピアなんかもよさそうです。お人形みたいな顔もお人形役にぴったり。


don pasq 8  私は写真写りが悪いって椿姫さんが言ってます



というわけで、全てに満足のいく素晴らしい舞台でした。



キスこれでROHの今シーズンは終わり。去年の秋からの鑑賞記事読んでくださってありがとうございました。


7月末から8月に掛けてボリショイオペラの引越し公演があるのですが、仕事も忙しいし、日本に里帰りするので、しばらくオペラハウスには行きません。9月からはまた行きまくります。ぐぅぐぅ