9月9日にピ-コック劇場にグノーが1867年に作ったロミオとジュリエットを観に行きました。


British Youth Opera

British Youth Operaという若手育成プログラムでパトロンはチャールズ皇太子(彼はオペラ好きのようで、何回かロイヤルオペラハウスでお見かけました)。オーディションで選ばれた主にロンドンの音楽学校の声楽科の学生が毎年夏に二つのオペラをそれぞれ3、4回程ずつ上演します。

今年はいつもとちがう会場のせいで宣伝不足のせいか切符の売れ行きが悪くて、かなりガラガラでした。私は当日その場で切符を買ったのですが、前から3列目のほぼ真ん中が買えて(19.5ポンド)、前の2列はほとんど空席でした。休憩時間にアンケートで誰か出演者の知り合いかと聞かれたので、観客のほとんどが家族か知り合いなのでしょうか?それじゃあ学芸会か文化祭ですよね~。


私は何度か行ったことがあり、舞台は粗末だけど実力はなかなかのレベルで、なにより若い人の熱気と興奮が伝わってくるのが嬉しくて、夏が近づくと今年は何をやるのかしらとホームページを見てました。今年は「ロミオとジュリエット」と知って待ってましたと喜んだのは、若い歌手でこのオペラを観る機会は他にはまずないからです。

それに私、このオペラには思い入れがあるのです。


思い入れとは・・

それは2000年2月、ロイヤルオペラハウス(以下ROH)でロベルト・アラーニャとアンジェラ・ゲオルギューのオペラ界のゴールデン・カップルで観たことがあるのですが、その素晴らしかったこと! 震える程感動しました。あれで私は一挙に生オペラにはまってしまったのです。それ以来何百回と生オペラを聴きましたが、これがいまだに私にとってベストなパフォーマンスです。

その前から私はアラーニャの大ファンだったので、超人気に決まってるこの切符を絶対手に入れなくてはならないという決死の覚悟で一番高い席を申し込んだのです。150ポンドもしたその切符、前から10列目の真ん中ではじめて憧れのアラーニャ様を生で聴くことができたのです。

もう二人とも後光が差すくらい素敵でしたよ~、歌も芝居も。一度だけでは足りないので、運良く残っていた立見席でもう一度聴きました。ラジオの生放送も録音してそれから何度聴いたことか。当日字幕を観なくても歌詞の意味がわかるように行く前に何度もCDを聴いて充分予習もてありました。だって舞台のロベルトの顔をずっと見ていたいじゃないですか。その後映像が発売され(数年前のアラーニャで、相手役はちがうソプラノですが)、まずビデオ、そして後に同じもののDVDも買って、他の人にも無理やり見せてます。

アラーニャ1  ロミオが十八番のロベルト・アラーニャ


そんな私が他の歌手がやるロミオを聴くのはこれが初めて。もちろん彼を超えるロミオがどこにもいるわけないけど、せめて容姿がロミオらしく若くてチャーミングで歌もそこそこ上手な男性はいるかもしれないなあと半ば恐る恐る出掛けていったのです。さっきからロミオのことばかり言ってますが、このオペラはジュリエットよりもロミオの方が難しいアリアもあるし大切な気がするのです。

今回のロミオ

さて、British Youth Operaのロミオは、一目見て安心しました。長身でハンサムな好青年だったので。ハリー・ポッターが19歳くらいになったようなルックスのMicheal McBrideはカナダ人で、ロンドンの音楽学生。ちょっと大袈裟だけど一生懸命芝居もして、舞台上走り回り、きれいな女性にはすぐに心を奪われる恋患いの軽率兄ちゃんを全身で演じてくれました。ルックスにあった素直で若々しい声は、大きなオペラハウスでは声量不足かもしれませんが、舞台から5メートルの席からは丁度よくて極めて耳あたりもよく、何度も出てくるハイCも問題なくこなし、このハリー・ポッターは理想的なロミオになりました。

でも、アラーニャの亡霊が付きまとったというか、実は私の耳の奥にはずっとアラーニャの歌声が聞こえていたのです。

romeo & juliet 1 この写真ではハリポタに見えないでしょうが、舞台写真はこれしかないのです。

romeo & juliet 2  これは練習風景ですが、こっちの方がイメージ近いです



ジュリエット他

ロミオの声がちょっと声量不足だったのに比べ、ジュリエットの声の大きかったこと。Anna Leeseというニュージーランド人で、高音部分をもうちょっと力抜いた方がいいのにと何度も思いましたが、楽々とあんなに声が出て、しかもとても通る声質でもあるのは素晴らしい素質で、彼女の方がロミオより前途有望だと思います。

脇役も皆上手で、特にコーラスの上手だったこと。なぜかコーラスに何人か中年が混じっていたのはどういう人たちか謎ですが、音楽学生をオーディションで選んだのであれば、皆ソロを目指している人たちですから上手い筈です。オケは40人程の編成で、指揮者はよくBBCオーケストラを指揮しているベテランのPeter Robinson。アルバート・ホールの大規模オペラの指揮をするのを何回か見たことありますが、この5幕の長いオペラを美しくそつなく演奏し、安心して聞いていられました。


舞台と衣装

お金の掛かった舞台はもちろん期待できません。ビニールのカーテンというか縦に切り込んだ長いのれんというか、舞台は全部それで、透き通っているので一応あっちとこっちという工夫もできてました。重要なバルコニーは鉄パイプで、新婚のベッドが死体置き場にも兼用され、有効活用されました。

設定は1960年代で、ミニのワンピースやスカート、女性の大きく膨らませたヘアスタイルが私には懐かしい衣装で、最初に二人が出会うシーンの舞踏会は皆でツイストを踊ります。喧嘩シーンの武器は小さな飛び出しナイフなので、まるで「ウエストサイド物語」。このミュージカルは現代版ロメジュリなので同じなわけですが。

婚礼の後のベッドシーンがあるのですが、ここはもっとも効果のある経費節約をして、最低限の下着姿。パンツ一丁のロミオとミニ丈スリップのジュリエット。この姿で5メートル先で長々といちゃつきながら歌うのですから、これこそyouth operaの醍醐味というか、若くて美しくなくっちゃできません。そうでない人にはできてもやって欲しくないです。


ロマンチックで甘いメロディの正味3時間近い大作で、しかもフランス語。イタリア語より明らかに発音が難しいし、経験のない若い人には簡単なオペラではないでしょうが、出演者はこれで皆貴重な体験ができたにちがいありません。客席がガラガラ(2階席は見えませんでしたが、4割くらい入りでしょうか?)だったのは残念ですが、広告に費やす費用がなかったんでしょうね。



コメントを下さるdognorahさんとご一緒させて頂きました。dognorahさんのブログにはデジカメ写真も載せておられるし、私より総括的で冷静な批評をなさっているので、是非ご覧下さい。

dognorahさんのロメジュリ


しかし、やっぱり近くで正面から見るのはいいなあ。でもROHでそれすると160ポンドとかもっと掛かるし・・。第一ROHでは最前列でも舞台からもっと遠いから、至近距離で見られるのは小劇場ならではの楽しみ。又そういう機会があれば行きましょう。