holland park view ホランドパーク野外オペラ


8月1日、ホランドパークにジョルダーノ作曲の「アンドレア・シェニエ」を観にいきました。


アンドレア・シェニエはフランス革命時代に実在した若き詩人。革命穏健派の彼は、ロベスピエール率いる過激派ジャコバン党により断頭台で処刑。


1789年。伯爵家の舞踏会でシェニエは貴族を皮肉る即興詩を歌い、令嬢マッダレーナと恋に落ちる。従僕ジェラールは密かにマッダレーナお嬢様を愛しているが、封建制度に不満を持つ彼は館に押し掛けた貧民たちに加わり、革命に身を投じる。

5年後。恐怖政治下でマッダレーナは貴族の身分を隠して身を潜め(発覚すればギロチン)、ジェラールはロベスピエールの部下になり革命政府で出世している。シェニエは、匿名女性からの手紙に愛の訪れを予感し、穏健派ジロンド党と過激派ジャコバン党が実権を奪い合う中、外国に逃亡すべきという友人の意見に反して、パリに残っている。

手紙の送り主はやはりマッダレーナ。彼をずっと探していた彼女と再会し二人は愛を確認する。そこへ彼女をやっと見つけたジェラールも現れ、二人は決闘になるが、怪我をしたジェラールは、恋敵であっても革命家として一目置くシェニエに彼女を託す。

シェニエは反革命の罪で捕らえられ、その命乞いにジェラールを訪れるマッダレーナ。立場が逆転した彼は彼女に愛を告白し、自分のものになれと言う。シェニエを救うために犠牲になることに合意するマッダレーナ(これトスカと同じですね。台本作者が同じだそうです)の愛の深さにうたれたジェラールは、裁判でシェニエを弁護するが聞き入れられず、シェニエは死刑宣告を受ける。

主義を曲げずに潔く死を受け入れるシェニエ。マッダレーナは他の女性死刑囚の身代わりとなり、二人は手に手を取って断頭台へ(ここはアイーダにそっくりですね。アイーダのあらすじはテーマ別「オペラはいかが?」5月15日付「退屈だったはじめてのオペラ」ご参照)。



どうです、運命に翻弄される若い詩人と令嬢の悲劇、でっちあげでしょうが、すごくロマンチックでしょう? 荒唐無稽が多いオペラにしてはまともな設定で、登場人物の心情も理解できます。


美しいアリアもいくつかあって、素晴らしいオペラになる要素は充分なのですが、その日のパフォーマンスが悪かったのか、或いは夕食を取り損ねて途中から空腹に悩んだ私が悪いのか、期待が大きすぎたせいか、残念ながらいまいち盛り上がりに欠けて失望しました。


批評もそこそこ良かったし、ひどくて話にならないほど悪くはなかったですよ。でも・・・


chenier 1  John Hudson


タイトルロールのシェニエはイギリス人テノールのジョン・ハドソン。数年前にコンサートで聴いてとても素敵だったのでご贔屓の一人だったんです。彼はよくEnglish National Operaで主役やって、「あっ、また彼が出てる。行こうかなあ」と何度も思ったのですが、私は全部英語に翻訳するというENOのポリシーが嫌いなので、全部パスしていたのでした。今回やっと原語(これはイタリア語)でやってくれるので、切符代は高いし、行くのに不便なホランドパークだけど、行ってみたわけです。

彼はテノールには珍しく長身で、ドミンゴをアングロサクソンにしたようなハンサム(ドミンゴは全く好きではないですが)。だけどちょっとデブ。でもそれは前からそうだし、歌が上手ければデブでもブスでも構わないのです。

ちがうでしょと言う意見もあるようですが、ちがいませんよ、ご贔屓を決める基準はあくまで「歌唱力」です。たまたま贔屓の歌手が皆ハンサムなだけです。


しかし本当にデブでも構わないんだけど、いくらなんでももうちょっと芝居できないといけないんじゃないでしょうか? と思うくらいそっちは放ったらかし。お前はENOでもそうなのかよ?それともたかがホランドパークと思って手え抜いとんのか? と怒った私。


それでも声の伸びがよくて聞き惚れるほどの魅了があれば、パバロッティがROH最後のトスカでほとんど椅子に座ってたように、他の欠点は帳消しにできるけど、声量も乏しかったしなあ。先月ほとんど同じ席で「愛の妙薬」を聴いたときに若いテノールの迫力に圧倒されたのと比べると段違いで、小編成のオケにすら負けてた。


というわけで、ご贔屓リストから一人脱落しました。


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伯爵令嬢役はKatarina Jovanovicという若いソプラノ。聞いたことないし、あの耳障りな高音では、これから聞くこともないでしょう。北欧系でしょうが、綺麗な女性なんですよ。でも役柄からは見事に外れた美しさ。オツムの弱そうな金髪巨乳、とても伯爵令嬢にはみえなくて、エッチ雑誌のグラビアの方がぴったり。ちょっと太目の彼女、コルセットで体を締め付ける衣装なので、さらに強調されて、顔の下はすぐメロンのような巨大なオッパイが、シリコンじゃないですねあれは、ナチュラルにブルンブルンと震えて揺れて、つい視線がそこばかりにいってしまいます。


ジェラールに迫られて「シェニエの命を救う代価が私の体というのなら、好きなようにして。ほら」と言って床に横たわりスカートをまくり上げて太股丸出しにしたときは、膝までは紺色のハイソックス履いてるのでよけいエロチックで、でもあのキャラだとなんだか彼女自身がやりたがっているようにも見えてしまいました。私は真横からでしたが、もっとスカートの中が見える角度の人たちは・・・?。上品な中年夫婦がほとんどいう客層で、隣の奥さんの目を気にしながらドキドキしたおじさんたちが何人かはいたでしょう。


chenier 2

Olafur Sigurdarson Katarina Jovanovic


ジェラール役の若いバリトンはOlafur Sigurdarsonという、どこの国の人かわかりませんが(プログラム代ケチるので)、北欧系かアイスランド人ですかね、そんな外見です。批評では彼が一番誉められていて、なるほど「革命ったって、主人が貴族からロベスピエールに代わっただけで、俺は相変わらず奴隷だ」とか、「憧れのお嬢様が今俺の前に身を投げ出している。そこまでシェニエの愛してるんだ・・。それにシェニエはなかなかの男だしなあ」とか思い悩む難しい役をこなし、歌も芝居も充分合格点。人材豊富なバリトン界で、首のないずんぐりした彼、ドン・ジョバンニやオネーギンは無理でしょうが、愛嬌はあるのでパパゲーノやフィガロという三枚目役で頑張ってもらいましょう。


chenier 4 写真では美しい二人

舞台セットは真ん中にギロチンが一台。一度だけ使ってみせたときは観客が「おお~っ!」とどよめきました。本物の刃にしたら実際に首ちょん切れるかも。

衣装や背景にやたらフランス国旗が出てきて、雰囲気はミュージカル「レ・ミゼラブル」とそっくり。掛けたお金のケタがちがうので、こちらの方がうんと節約バージョンですが。

運良くリターンチケットが買えて、前から3列目のど真ん中という、ロイヤルオペラハウスでは絶対無理な良い席だったけど、この出来で45ポンドは高い! 「愛の妙薬」はそれだけの価値あったけど、あれが例外であって、この野外オペラ、来年はもう行かないかも。