
小山書店 昭和17年 第9刷(3千部) 寺田寅彦 「柿の種」
初版は昭和8年。
最初ブログはレコード徒然草にしたらすでに使われていた。
そこで好きなエッセイ・随筆からと思い、「レコード柿の種」に致しました。
ほんの数行なのに惹かれてしまう文章。
あこがれてしまう。
好きなのに次のようなものがある。
大学の構内を歩いて居た。
病院の方から子供をおぶった男が出てきた。
近づいたとき見ると男の顔には何といふ皮膚病だか葡萄
位の大きさの疣が一面に簇生して居て見るもおぞましく
身の毛が悚つやうな心地がした。
背中の子供はやっと三つか四つの可愛いヽ女の兒であっ
たが世にもうららかな顔をして此の恐ろしい男の背にす
がって居た。
さうして「お父ちゃん」と呼び掛けては何かしら片言で話し
て居る。
その懐かしさうな声を聞いたときに私は急に何物かが胸
の中で溶けて流れるやうな心持がした。