下書き保存している記事が積もるばかりなのですが、それよりも先走って今一番書きたいことが出てきました。

 

私は乳がんになる前から婦人科系の問題が多く、10歳で生理が始まってから毎月の生理痛は当たり前で、20代、30代になってくると子宮筋腫、卵巣のう腫、子宮内膜症、チョコレート嚢胞、などなど、婦人科系の何でも屋さんと化してきています。

それでも悪性だけは勘弁してください!といつも祈るばかり。

 

タモキシフェンの影響で更に悪化している可能性もあるそうです。

 

そして、私は現在の治療がタモキシフェンのみで卵巣機能抑制はしておらず(その選択肢があることすら当初は知らず)、生理も負けることなく未だに毎月ちゃっかりきています。

 

そんなこんなで最近はかかりつけの婦人科の先生に「子宮内膜症は生理を止めるのが一番いい」と言われており、ディナゲスト・ジエノゲスト (dienogest) の薬名が飛び交うようになりました。(「通常なら低用量ピルを処方するけど、乳がんだから危険」とのこと。)

 

ただ、先生曰く、ディナゲストも乳がんを酷くしてしまうことがあるから、乳腺の先生とまず確認してきてください、とのことでした。

というか、そんなこと言われたら仮に「いいよ」と言われても私が嫌なんですが…

 

大型病院の乳腺の先生は「ディナゲストが乳がんリスクを上げるとは聞いたことがない。プロゲステロンだから問題ないはず。」と割とすぐにOKをくれましたが、私の戸惑いは変わらず*、更に大型病院の婦人科の先生にも診ていただきましたが、その先生もディナゲストと乳がんの関連性は聞いたことがないとのことでした。

*昔の記事にも書きましたが、私は未だに、乳がんになる1年前にそれこそ婦人科の勧めで低用量ピルを飲んだことが、何らかの形で乳がんの発症に繋がってしまったのだと思っています。(もちろんそれだけが原因とは言い切れませんし、決定的な証拠もありませんが、初経が早かったことなど他のリスク要因も含め「私は飲んじゃいけない人だったんだ」と後になって後悔)当時、私は英語の資料を見ていたので、少なからずピルが乳がんリスクを上げることは承知していて戸惑っていましたが、先生の(ちなみに乳がんになってから婦人科を変えたので今の先生ではありません)「そんなの聞いたことない」という言葉に甘えて、「こんなに "大丈夫" や "安全" と言うんだから、私が心配しすぎてるだけなのかな」と折れてしまいました。「先生が大丈夫って言ったから」という名の責任放棄です。当時も今も、自分の体は自分の責任だと思っているので、先生のせいにはできません(疑問を感じながらも飲むことを選んだのは私です)。ただあの後悔と悔しさはもう二度と繰り返したくないと強く思い、その教訓として「聞いたことない=OK」という捉え方は絶対にしないと決めています。(「そういうデータもあるけど、それはこうでああで」としっかり説明してくれるならまだしも)

 

そして今回、なぜこんなにディナゲストに対して戸惑いを感じるかというと…

 

はっきり書いてあるのですが。

正直、「リスク」は「必ずそうなる」という訳ではないので、仮に「少々再発リスクも伴いますが、この薬を飲まないほうが他の重大リスクが増します」みたいなことであれば、それを承知の上で飲んでもいいかな、くらいまでに最初は誘導されつつありました。

特に大型病院の婦人科の先生が「これ、私も飲んでます!素晴らしい薬ですよ!乳がんリスクが上がるという報告はないです!さっき似たような症状の乳がん患者さんが来ましたが、その方もディナゲスト処方して帰られましたよ〜。」と推し推しだったので(苦笑)。(いい先生なんですがね。笑)私は基本「みんなもやってるから」というだけで左右される性格ではないので、むしろもう一人の患者さんには「ああ、かわいそうに、きっと知らないんだ…」と思うばかりでしたが…

 

待合室で簡単な検索をスマホでしても、乳がんとの関係性を探る論文も確かにそんなに多い訳でもなく、「英語で探してこの程度なら、確かに日本語では更にヒット数少ないだろうな」と思っていました。

 

が。

 

調べていると、あらゆるところで乳がんなどホルモン依存性のがん歴がある患者は飲まないように、との注意書きが目に入ります。

ウィキペディアにすら記載されています!

 

そんな中でも私にとって揺るぐことのない決定打となったのが、製薬会社バイエル(カナダやヨーロッパで商品名Visanneでディナゲストを販売しています)の特性概要

ちなみにバイエルのものは2mgとあり、日本で処方されるディナゲストは1mgですが、1日2錠なので結局いずれも一日2mgです。

 

 

お分かりでしょうか。Contraindications は「これらに該当する者は服用しないように」という、日本語でいうところの「禁忌」です。

「使用中にこれらの症状が現れた場合は直ちに中止するように」とも。

 

その項目の一つに:

Known or suspected sex hormone-dependent malignancies

性ホルモン依存性悪性腫瘍の既往歴がある、またはその疑いがある」

 

とはっきり書かれているのです!!

 

ここまではっきり「飲むな」と言われると(それも第三者ではなく薬を売っている製薬会社そのものに)、リスクやエビデンス云々を通り越してさすがに怖くて飲めません。一気に戸惑いレベルではなくなりました。

 

他にもニューヨークのがん専門病院メモリアル・スローンケタリングのサイトにもディナゲストの情報ページがあり、「飲み始める前に必ず主治医に伝えること」の部分にはっきりと「乳がん及びその他ホルモンによって増大するがん歴があること」と記載されています。

 

 

一方、ディナゲストの添付文書には「悪性腫瘍との見分けに注意すること」のような記載はあるものの、ホルモン依存性のがんに関する注意点などは一切書かれていないようです。

 


 

 

更にディナゲストはCYP3A4で代謝されるそうで、「え、じゃタモキシフェンと併用ダメじゃない?」と、DrugBankのようなサイトで検索すると相互作用でヒットしますし、もうはちゃめちゃです。

 

また、推し推しだった大型病院の先生曰く、ディナゲストはずっと飲み続けることになり、他の薬に比べてそれも利点だと仰ってましたが(「リュープリンの場合は6ヶ月までで、そこからまた子宮内膜症が大きくなる」と)、日本でディナゲストを販売している持田製薬の注意書きには…:
 

 

先生「ずっと」って言いましたよね!?

安全性が確立してないのにですか!

 

知っておきたいディナゲストの豆知識

そもそもなぜこれ程までに英語と日本語で情報の流出が違うのか?(日本語では本当に乳がんと関連付ける情報や注意書きがないのです!なぜ???)と深く疑問に思ったので更に調べたところ、まず知っておきたい情報がいくつか出てきました。

ディナゲスト、めちゃくちゃ新しい薬です

発見されたのは1979年ですが、世界で初めて薬として承認されたのは1995年。一般的に処方されている持田製薬のディナゲスト1mg が承認されたのは2007年です。
ですので先生方が言う「聞いたことがない」「そのようなエビデンスはない」などは勉強不足ではなく、本当に言葉どおり「ない」のです。新しすぎて。タモキシフェンと併用してどうなるか、乳がん患者が服用して予後に影響が出るかなども、時間が経っていなさすぎて全く何も報告されていない・調べられてもいないのです。エビデンスはまだ殆どが薬の有効性を証明する臨床試験(薬やワクチンが承認される前によく見る、いわゆる第I〜III層試験)のレベルです。

更にこちらのページ↓を見てみると、「新着情報」などの部分でいかにほぼリアルタイムで変化しているかが伺えます(毎年のように追加される「使用上の注意改訂」など)。
ちなみに一つひとつ開いてみると、改訂の理由となった症例や詳細なども記載されています。

 

乳がんと紐付けるエビデンスは少なからずある

やはり数はとても少ないですが、例えば2013年にドイツで行われたこちらの研究ではプロゲステロン受容体が目立つ乳がん細胞のディナゲストによる増加が報告されており、少なくともプロゲステロン受容体陽性の乳がん患者へのリスクは否めない、とあります。
ちなみに私はER・PgRともに90%だったので、リスク組です。

また、上記のバイエルの資料の「Carcinogenicity」("発がん性")という部分にもラット実験のエビデンスや、エストロゲン受容体陽性の乳がん細胞をわずかに刺激する作用が見られたこと、ディナゲストが新薬で特徴も独特であることなどについて触れていて、慎重な姿勢が伺えます。
 
患者向けの添付文書にも乳がんリスクに関する説明書きがあり、「Visanneのようなプロゲスチン単味剤の治療で乳がんリスクの上昇が確認されなかった研究もいくつかあるが、リスク上昇がないと決定づけるにはより詳しい研究が必要」とあります。
 
 

アメリカとイギリスでは承認されていない

アメリカとイギリスでは避妊ピルとしてディナゲストとエストラジオールを配合したものは出回っていますが、ディナゲストのみではまだ承認されていません。ですので乳がん患者が服用すること自体ないのです(乳がんで避妊ピルは問題外なので)。

ちなみに、そもそもヨーロッパや承認済みの国でも乳がん患者には禁忌です。何が言いたいかと言いますと:乳がん患者がこの薬を飲んで、予後や病気の経過を観察するエビデンスはあるはずがないのです。日本以外では飲まれてもいないのですから。
 

製薬会社の圧?

ディナゲストが新しすぎてエビデンスが少ない点は世界共通ですが、今回憤りすら感じたのが、前述したように、英語では共有されているのに日本語では見当たらない情報。バイエルの添付文書のようになぜ日本でもホルモン依存性のがんに関する注意書きがないのか。開発の経緯を読んでいると、バイエル(Bayer)が開発した薬だとちゃんと書かれています。持田製薬がバイエルが示す禁忌を把握していない訳がありません。
 
結果、婦人科の医師ですら日本語の情報不足のため患者へのリスクを十分に把握できていないのが現状です。ちなみに、最初にリスクを懸念してくださったかかりつけの婦人科医は海外経験もあり、もしかしたら英語の最新情報にも目を通してるのかもしれません。

 

最後に

結局、私は幸い英語ができて、これらの情報を全て把握した上で、そこそこ説得力のある先生(笑)の勧めも振り切って、自分が納得する判断を下した訳ですが、これっておかしくないですか???下手したら命に関わる問題です。そんな重要な情報提供が言語によって異なるって、絶対に間違っていると思うのです。こんなに大事なことが「日本語しか喋れないから知らなかった」なんて、今の時代にあっていいのでしょうか???なぜ日本語で共有されてないのでしょうか??英語が堪能というだけで現役の医者よりも情報を握っているという時点である種の恐怖すら感じました。

声を大にして言わせていただきます。

 

絶対におかしいです。

 

その情報を得た上でどうするかは、他のリスクと天秤にかける必要だってあるでしょうしそれぞれの勝手だと思いますが、せめて誰でも知り得るものであるべきです。むしろ、知る権利が患者にはあると思います。特にこの件については裏に製薬会社の意図のようなものすら感じられて、売上のためなのか知りませんが、人の命をなんだと思ってるのかと本当に久しぶりに心の奥底から憤りを感じます。「仕方ない」などで済まされる範囲ではないと思います。

 

「何かできないものか。このままでいい訳がない。」との思いでこのブログを書いていますが、きっとこれだけでは何も変わらないということも百も承知で、自分の無力さに悔しさを感じている今日この頃です。

 

「同じ乳がんで似た症状」と先生が仰っていた患者さんにも教えてあげたい…

 

 

【追記】こんなものがありました。2016年に作成された持田製薬の資料で、バイエルの資料(2011年現在のもの)の本文とそれを翻訳したものが載っています。ちなみに和訳は19ページから、乳がんなどの腫瘍に関しては22ページ目です。乳がん患者にこの薬を投与しているのは日本だけだと知らない訳がないとは思いましたが、やはりそのとおりでした。改めて、理解できません…

ちなみに平成30年と記載されているPMDAによる再審査報告書も見つかり、13ページの「6. 研究報告」が興味深いです。「研究と本剤との血中濃度が違うから」という理屈で「問題ない」との判断ですが、タモキシフェンと併用すると相互作用で血中濃度が上がるみたいですし、そんな単純な理屈でOKしていいのでしょうか… また、別の薬(ヤーズフレックス)で別の製薬会社(バイエル)ですが、同じ検索で資料が出てきたので興味本位で目を通していたら、安全性・腫瘍の部分にはこんな言葉が… 持田製薬にもこれくらいの重みを感じていただきたいです。

 


出典

 

ディナゲスト1mgの製品サイト (医療関係者向け)

 

ディナゲスト添付文書 (2022年6月改訂)

https://med.mochida.co.jp/txt/pdf/dng_n13s.pdf

 

ディナゲスト開発の経緯

 

バイエルのディナゲスト(Visanne) 特性概要 (2022年3月改訂)(英語)
発がん性について・・・32ページ「Carcinogenicity」

患者向けの添付文書・・・36ページから

なぜか「白人と日本人の間に臨床的に意義のある薬物動態と薬力学的な違いは見られなかった」との記載も2箇所ありました。(「Japanese」と検索すると出てきます)具体的に「日本人」と書かれていることに違和感を感じます…

https://www.bayer.com/sites/default/files/2020-11/visanne-pm-en.pdf

 

英語のウィキペディア、ディナゲスト

 

メモリアル・スローンケタリング病院のディナゲストの情報ページ

 

DrugBankのディナゲストのページ

 

2013年ドイツで行われた研究

 

ディナゲストのいくつかの臨床試験情報

 

2016年持田製薬作、「外国における使用状況等に関する資料」

日本語・・・19ページから

https://www.pmda.go.jp/drugs/2016/P20161125001/790005000_21900AMX01752_B101_1.pdf

 

平成30年の再審査報告書、乳がん細胞の増加については13ページ目「6. 研究報告」

https://www.pmda.go.jp/drugs_reexam/2018/P20180420001/790005000_21900AMX01752_A100_1.pdf


ヤーズフレックスの資料(日本語)

https://www.pmda.go.jp/drugs/2016/P20161226001/630004000_22800AMX00728_B100_1.pdf