「乳がんリスク」として並べられる項目は、欧米でも日本でもほとんど同じですが、唯一、欧米では必ず記載されているのに日本ではあまり見ない項目、それが低用量ピル・ホルモン補充療法です。

 

乳がんリスクに大きく影響を及ぼす要因の一つがホルモン、特にエストロゲンです。体内で自然に分泌されるものですが、低用量ピルやホルモン補充療法で増やすことも可能です。

 

低用量ピルは、一般的には避妊目的がまず頭に浮かぶかと思いますが、それ以外にも婦人科系の症状の緩和、ニキビ治療、うつや精神病の治療など用途は様々です。ホルモン補充療法は、閉経後に更年期障害で悩む女性が症状を和らげるために体内のエストロゲンを増やすものです。

 

低用量ピルの乳がんリスクは、全体的に見ると比較的微小と言われてますが(最近の調べでは約7500人に一人)、服用するピルの種類(ホルモン剤の種類)などによってもリスクは異なります。

 

例えば、2017年にデンマークから発表された論文によると、35歳未満レボノルゲストレルを含んだピルを服用した女性は、乳がんリスクが1.96倍にまで上がりました。デソゲストレルの場合は1.1倍と、他の薬では最高1.15倍しかない中、レボノルゲストレルだけ大きな差が出ています。

 

また、レボノルゲストレルは毎日服用する仕組みのピルだけでなくいわゆる「モーニングアフターピル」「緊急ピル」にも含まれることが多いので、その点もどうぞご注意ください。

 

私は2019年に、たったの3週間だけでしたが*、生理痛緩和のために低用量ピルを勧められ、悩んだ挙げ句「一回だけ試してみよう」と飲んでみたのが事の発端だった気がします。ピルと乳がんリスクの関連性は以前欧米のサイトで読んだことがあり、まだ少し不安がっていた私は婦人科クリニックで薬の受け渡しの際にそれについて聞きましたが、「30年前のものは量が多かったけど、今は安全で心配いりません」、更に「当院ではそのような前例はありません」との返答でした。クリニックからの説明書などにも、乳がんリスクについては何も書かれていませんでした。(ピル自体の製品説明書には、他の注意事項と含め、非常に小さい文字ですが、記載はあります。)

*その後は合わないと感じたので一切服用していません

 

乳がんが見つかったのはピルを服用してちょうど1年後のことで、ピルを服用する一月前の乳がん検診では(26歳から毎年受けてます)異常はありませんでした。もちろん、絶対にピルのせいだったとは言い切れませんが、少なくとも何らかの影響があった可能性は、無きにしもあらずです。

 

微小と言えどもリスクが認められているものは、たとえ日本のように利用者が比較的少ない場合でも、しっかり大きく分かりやすく記載した方が良いのではないか、また、医師から口頭で伝わるべきではないかと個人的には強く思います。そしてそのリスクをしっかり綴らずに「安全」というワードを使うのは、誤解を招くのではないかと感じます。乳がんリスクを伝えられていたら一度は考え直していた患者さんも中にはいるのではないでしょうか。

 

もちろん、ピルを服用して必ずがんになる、という訳ではありませんし、乳がんリスクも服用を止めると徐々にまた下がってくると言われています。また、乳がんと卵巣がんのリスクが上がる一方、子宮がんと子宮体がんのリスクはむしろ下がることも報告されています。

 

事情はそれぞれなので、一概に「飲まないほうがいい」とは言えませんが、これから低用量ピルやホルモン補充療法を検討されている方は、ご自身に匹敵する全てのリスクを十分に考慮した上で、本当に自分に適しているものなのか(飲まないリスクの方が飲むリスクを勝るのか)どうぞ慎重にお考えください。

 

最後に、少しばかり話がズレますが、ホルモンが想像以上に人体に影響を及ぼすこと、これは女性に限らず男性も同じです。90年代後半にサイクリングで一世を風靡したランス・アームストロングが昨年公開された自身のドキュメンタリーで語っていますが、彼は現役時代に筋肉のパフォーマンス向上目的で、一時期ヒト成長ホルモンを注入していました。(もちろんドーピングの部類に入ります)最近ではアンチエイジングの目的などでヒト成長ホルモン治療を行うクリニックもいくつかあるようですね。今や有名な話ですが、アームストロングは後に25歳の若さで精巣がんを発症しています。「ホルモン注入と無関係だったとは言い切れない」と本人も語っています。

男性はヒト成長ホルモンによって特に前立腺がんのリスクが上がると言われています)このようなホルモン治療を考えている方も、どうぞお気をつけください。

 


出典
 

ピルに関する乳がんリスク

 

デンマークの研究論文とその資料
※レボノルゲストレルに関する表は資料の「Table S7.」

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa1700732

https://www.nejm.org/doi/suppl/10.1056/NEJMoa1700732/suppl_file/nejmoa1700732_appendix.pdf

 

ドキュメンタリー映画『ランス』

 

↑でドーピングと自身のがんとの関連性について語る部分を取り上げた記事

 

ヒト成長ホルモンと前立腺がんの関連性