日本ではまだそれほど広まっていない(?)印象を受けますが、比較的早期でまだあまり進行していない乳がん患者向けには、オンコタイプDXやマンマプリントなどの再発・遠隔転移リスクを予測する遺伝子検査があります。
これらの検査は、早期発見・ステージ0〜2 などの場合に、現段階で抗がん剤治療をすることにメリットがあるか否かを判断するもので、既にステージ3・4、HER2陽性やトリプルネガティブなど、抗がん剤治療が確定の場合は、あまり意味のない検査となります。
ちなみに医師にもよるかと思いますが、私の場合、主治医からはこれらの検査の説明や紹介は一切なく、自分から申し出て検査をしてもらいました。
主治医の意見としては、遺伝子検査をしなくても多分抗がん剤治療は必要ない、
「だってステージ1ですよ?」とのことでしたが、例えばアメリカではしこりが
5ミリ以上や若年性などの場合はこの検査を行うことが近年では一般的となっており、
正に私みたいな人のためにある検査だと感じたことと、もし10年後に再発したら、「10年前に遺伝子検査をしていたら、再発率が高いと出ていたかもしれない。
そうしたらその時に抗がん剤治療をして、何かが変わっていたかもしれない。」
などと後悔することがとにかく嫌で、医師の意見に逆らって若干ゴリ押しで検査して
もらいました(笑)。
病理などとの違い
再発や転移のリスクは、臨床的リスク(clinical risk)と遺伝的リスク(genomic risk)の二つに分かれ、病理(グレード、Ki67値など)や、しこりの大きさ・広がりなどは
臨床的リスクの分類に入ります。臨床的リスクは、以前紹介した「PREDICT」などで測定できます。
ただ、臨床的リスクが低くても遺伝的リスクも低いとは限らず、また、
病理診断の記事にも書きましたが、病理は人の目で判断されているため、ばらつきが懸念される一方、遺伝子検査は比較的に正確性が高いことも利点の一つです。
デメリット
オンコタイプ・マンマプリントの一番のデメリットは、やはり価格でしょうか。
日本ではまだ保険適用外のため、大体のお値段は:
- オンコタイプ 45万円前後
- マンマプリント 30万円前後
BRCA検査の7万円が可愛く思えるほどの高額です。
ただ、私としては「大丈夫だった。お金の無駄遣いになっちゃったかな?」と最終的に言える結果がむしろ一番望ましいと思っていたので、「どうか無駄遣いで済みます
ように!」と少しおかしな願いを心の中で唱えていました(笑)。果たしてこのお値段と検査の価値が見合っているかどうかは、それぞれの価値観によるものかと思います。
とりあえず私は受けて後悔していません。
また、いずれも遺伝子の分析は海外のラボで行われるため、結果が出るまで待ち時間が生じます。オンコタイプは3〜4週間、マンマプリントは2週間ほど(?)だそうです。
オンコタイプとマンマプリントの違い
価格と待ち時間の他にも、オンコタイプとマンマプリントではいくつか大きな違いがあります。
- オンコタイプ (開発:アメリカ、旧Genomic Health社、現Exact Sciences社)
-
- 対象サブタイプ:ホルモン受容体陽性、HER2陰性のみ
- 分析する遺伝子:21種類
- リスクスコア分類:3段階 (低、中、高)
- スコアの形式:0から100まで
- 0〜10 低リスク
- 11〜25 中間リスク
- 【50歳未満の場合】11〜15 化学療法の必要性が低い
- 【50歳未満の場合】16〜25 化学療法が有効的な可能性あり
- 26〜100 高リスク
- 全体の内、低リスクの割合:約15%
- タイミング:摘出された組織がホルマリンで保存されていれば、手術から時間が経っていても検査可能*
*一般的に抗がん剤治療の恩恵を受けるには術後2〜3ヶ月以内に開始することが有効的で
あるため、例えば術後6ヶ月で検査を受けることも可能ですが、メリットは問われます - 検査で分かること:
- 予後予測(再発リスク)
- 抗がん剤治療による効果予測
- 結果報告書のサンプル
- マンマプリント(開発:オランダ、Agendia社)
-
- 対象サブタイプ:問わず
- 分析する遺伝子:70種類
- リスクスコア分類:2段階(低・高のみ)
- スコアの形式:−1.0から+1.0まで
- +0.4以上は低リスクとみなされる
- 初回分析結果が 0.365〜0.435 の場合はボーダーラインのため、
再度分析が行われ、2つの平均スコアが報告書に記載される- その平均もが 0.3775〜0.4225 の場合は報告書にも「ボーダーライン」と記載される
- 全体の内、低リスクの割合:約45%
- タイミング:凍結保存された組織が必要なため、術後直後のみ
(手術前にマンマプリントを希望する旨を医師に伝えること必須) - 検査で分かること:予後予測(再発リスク)のみ
- 結果報告書のサンプル(英語)
ページ下部、Global Resources ⇒ Sample Reports
個人的な意見ですが、私がオンコタイプを選んだ理由の一つとして、マンマプリントのスコアの形式が (結構調べましたが) どうしてもあまりよく理解できなかった、
という点が挙げられます。また、オンコタイプはリスクが3段階に分かれているため、
正確性もマンマプリントより高いと言われています。
大規模臨床試験 TAILORx と MINDACT
いずれの遺伝子検査も長期に渡る臨床試験が行われており、オンコタイプの臨床試験は TAILORx 、マンマプリントの臨床試験は MINDACT と呼ばれています。
TAILORx は2006年から始まり、オンコタイプの中間スコアをより詳しく理解し、
最適な手段を明確にすることが主な目的とされました。結果は2018年に発表され、2019年、2020年にも新たなデータが発表されています。
対象となった参加者はホルモン受容体陽性・HER2陰性・リンパ節転移なし。
それによって判明されたことは:
- 50歳以上でスコアが25以下の場合は化学療法の必要性が低い*
*ホルモン療法のみのグループと生存率(5年・9年後)に大差なし - 50歳未満の場合、スコアが16〜25であれば化学療法を加えることによって
5年・9年後の遠隔無再発生存率に以下の上乗せ効果あり:- スコア16〜20 5年後 +0.8% 9年後 +1.6%
- スコア21〜25 5年後 +3.2% 9年後 +6.5%
- 年齢問わず、スコアが0〜10の場合は遠隔再発率が5年後は1%、9年後は3%
対して MINDACT は2007年から始まり、遺伝的低リスク(マンマプリント低リスク)でも臨床的高リスクの場合に化学療法の有無によって生存率に影響があるかどうかが大きく注目されています。
対象となった参加者はリンパ節転移0〜3個・その他転移なし・しこりの最大径5cm以下あるいは
手術可能・乳がん診断時に妊娠中や授乳中でない、など。
MINDACT の最新発表は2020年に行われ、遺伝的低リスク・臨床的高リスクの
場合、ホルモン療法に化学療法を加えることで遠隔無再発生存率に以下の
上乗せ効果が伺われました:
- 50歳以上の場合 5年後 +0.9%* 8年後 +0.2%*
*ホルモン療法のみのグループと大差なし - 50歳未満の場合 5年後 +2.6% 8年後 +5.0%
TAILORx と MINDACT は、各検査そのものや試験の参加条件など、根本的に大きく
異なる部分が多いため、あまり比較できる対象ではないとも言われていますが、
そんな中でも一致する点が、50歳以上で遺伝的リスクが低い場合は化学療法なしでも
生存率の低下は見受けられないことと、50歳未満の場合は、特に8年後以降に
化学療法の恩恵が伺える、という点です。また、若い年代への化学療法の効果が
目立つ理由として、抗がん剤治療による卵巣機能の低下も関連しているのではないかと推測されています。
*一つ引っかかったこと*
TAILORx の研究発表を見ていて「ん??」と思ったのが、「低スコア(10以下)・ホルモン療法のみ」
のグループの9年後の無浸透疾患生存率(Invasive Disease-Free Survival、IDFS)です。IDFSは、再発・転移・二次がん・死亡などが一切ない状態を示しますが、低スコアグループは5年後のIDFS率 95.1%
(全グループの中でも一番高い)に対して、9年後には87.4%まで低下しており、スコア11〜15・16〜20の、「中間スコア・化学療法あり」のグループの89.2%・89.6%を下回っています。(ご参考までに)
それでも全生存率・Overall Survival (再発・転移・二次がんはあるけど生きている、という場合も含む)は 98.6%とやはり高く、無遠隔転移や無再発などの率も高いことから、「つまり二次がんが多いという
ことなのか?」と推測しますが、残念ながら TAILORx は中間スコアが主役なので、論文でもこれに
ついては触れていません。MINDACT の研究発表には二次がんと死因が乳がん以外の死亡の割合も注目に値するとあり、全参加者の内(化学療法の有無問わず)8年後の時点で二次がんの発症率は約8%、
死因が乳がん以外の死亡率は約3%に及ぶと報告されています。
手段は色々
近年ではオンコタイプ・マンマプリントのような遺伝子検査のおかげで、一人ひとりが自分に合った治療を受けることが可能になってきています。たとえ上乗せ効果が
たったの1%でも、その1%のために抗がん剤治療を希望する人もいれば、「若年性で
遺伝的リスクも高い、でも抗がん剤治療はどうしても嫌」という人に、「抗がん剤
治療以外でできる限りのことを」と、ホルモン療法に加えて卵巣機能抑制を
用いたり、また人によっては二次がん予防のために卵巣を摘出したりと、手段は
増えつつあります。
オンコタイプやマンマプリントは、特に若年性の場合、5年後の生存率には大した
影響がないかもしれませんが、8年後、9年後と長い目で見ると、リスクスコアに
よってはその約10年前の化学療法有無の結果が現れるので、可能であれば検査を
受けるべきだと個人的には思います。お財布はイタイですが…
50歳以上の場合も、辛い抗がん剤治療をしなくても、生存率に影響なく過ごして
いける可能性があるため、やはり知って損はない情報なのではと思います。
出典
日本におけるオンコタイプ・マンマプリントの説明(2011年)
オンコタイプ・マンマプリントについて(2011年)
米メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターによる2016年現在のMINDACTの結果の解説と
オンコタイプとの比較 (2016年)
米エモリー大学の医師による TAILORx の今後の乳がん治療への影響などについての解説
TAILORx の研究発表
Adjuvant Chemotherapy Guided by a 21-Gene Expression Assay in Breast Cancer. Sparano, et al. (2018).
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6172658/
TAILORx のオンコタイプ高スコアに関する新しいデータ発表
Clinical Outcomes in Early Breast Cancer With a High 21-Gene Recurrence Score of 26 to 100 Assigned to Adjuvant Chemotherapy Plus Endocrine Therapy: A Secondary Analysis of the TAILORx Randomized Clinical Trial. Sparano, et al. (2020).
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31566680/
TAILORx のオンコタイプ低スコアの5年生存率・再発率に関するデータ
Prospective Validation of a 21-Gene Expression Assay in Breast Cancer. Sparano, et al. (2015)
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa1510764
2020年に発表された MINDACT 結果
https://agendia.com/wp-content/uploads/2021/02/Abstract-506-ASCO2020-MINDACT-long-term-FU-Final.pdf
Agendia社によるMINDACTの最新情報(2020年6月)
*23分50秒あたりから上記プレゼンの解説があります(英語)
2020年に発表された MINDACT の結果の更新
70-gene signature as an aid for treatment decisions in early breast cancer: updated results of the phase 3 randomised MINDACT trial with an exploratory analysis by age. Piccart, et al. (2021).
https://agendia.com/wp-content/uploads/2021/03/20TLO2103_Veer-1.pdf
マンマプリントの詳細(ボーダーラインの計算など)
https://www.accessdata.fda.gov/cdrh_docs/reviews/k062694.pdf
オンコタイプの報告書サンプル
マンマプリントの報告書サンプル (ページ下部、Global Resources ⇒ Sample Reports)
*あいにく英語のみ
2015年と少し古いですが、浜松オンコロジーフォーラムで発表されたと見られるオンコタイプについてのプレゼン。2015年現在で保険適用とされている国の比較などあります。
https://www.ganjoho.org/knowledge/hof/hof_17th_Akashi.pdf





