七夕  | 桃象の観劇書付

七夕と言えば 「曽根崎心中」

 

🔲

 

此の世のなごり。夜もなごり。

死に行く身をたとふれば。あだしが原の道の霜。 

一足づつに消えて行く。

夢の夢こそあはれなれ。

 

あれ数ふれば暁の 七つの時が六つ鳴りて残る一つが今生の。

鐘のひびきの聞きをさめ。

寂滅為楽とひびくなり鐘ばかりかは。

 

草も木も空もなごりと見上ぐれば。

雲心なき水のおと。

 

北斗はさえて影うつる星の妹背の天の河。

梅田の橋をかささぎの橋と契りていつまでも。

我とそなたは女夫星。

必ず添ふとすがり寄り。二人が中に降る涙。

川の水嵩もまさるべし。

 

🔲

 

心中しようという二人にとって

この道行がこの世の名残りで、夜も あとすこし。

 

死に行く二人は まるで 墓場までの道の霜(しも)

一足ずつ踏みしめるたびに 消えていく

そんな夢こそ 物悲しい

 

鐘の響くのを数えてみたら

明け方の4時ごろ 7つ鐘がなるけど 

それが6つまで鳴って、

あと残りの一つがこの世での、

鐘の響きの最後の聞き納め。

この響きは まるで

迷いの世界から離れ 

心安らかな悟りの境地 

 

鐘だけでなく 草も木も空も そうだ。、

これが最後と思って見上げると、

 

静かに流れる川の水には 北斗七星が

そして 織女星、牽牛星が逢瀬をするという

天の河が映っている。

 

梅田の橋を 

七夕の夜 天の河にかかるとされる 

鵲の橋と思って、

二人は織姫彦星のように、

夫婦の契りを交わして、

死んでも永遠に、俺とお前は夫婦星。 

 

寄り添うふたりの中に降る
涙で川の水嵩(みずかさ)も
きっとあふれることだろう