四粒のサクマドロップス

吸う 吐く を繰り返してるあなたには今の地上は天国ですか

ボウちゃんはリンゴに口を開けぬまま漏れ出すように息をしている

髭のある男を抱いて眠ろうかシーツの下に薫る肉球

さよならは空に飾った四粒のサクマドロップスみたいに遠い

ひまわりの畑に立って身体じゅう黄色になるほどきみがだいすき

誇り高きオオアジサイの端を抜け犬さんピピンとおしっこ飛ばす

室外機食洗機たちの合奏にピリンと入る夫のライン

柚子たわわたわわの柚子がゆさゆさと取ってけ盗ってけ柚子柚子たわわ

引っ越しを十六回も繰り返し最後に残った友達は犬

髪の毛を全部すすきの穂に変えてバアッて言うほどきみと笑った

肝臓に黒い病は広がって向こうの岸に揺れる電波塔

スイカ割りのバットの下の動けないスイカになるほどきみを見ている

新月の真っ暗闇の鈴虫の足になれたら逃げたい夜だ

一生を添い遂げないと決めた夜に犬がチロチロ飲む風呂の水

アンデスの恵みのような朝焼けに娘が見てた母の死の夢

ぴょんぴょことトカゲ飛び入る紅ツツジおいらはお犬だお道を開けろ

真っ黒の肉球におって深呼吸ゆでたばかりのとうきびみたい

泣いている私のそばで犬は今たしかにしゃべった「ママ大丈夫?」

秋風はやたらに澄んで日に焼けた「ポイ捨て禁止」は千切れそう
  

歌なんかもうやめたると吠えたけど犬の病はニヒニヒ笑う

砂浜に埋まったまんま椰子の実のジュースを飲むほどきみがだいすき
  

それなのに腰をぐりぐりなで回されて無能な歌に小鳥を飛ばす

全身に麻酔の巡る音がするママの匂いのタオルの下で

純真な傘に雨は降り止まず人は死んでる臭いがするの

チュチュ履いてスピンしながら白鳥になれたとしてもセックスはいや

じょぼじょぼと草原濡らす犬を連れひとり見上げる北斗七星

雪山にパジャマのままの逆立ちでスキーをするから逃げていいよね

ちっぽけな小鳥がつつく桜花くるりと回って手に落ちてくる

針を刺す理由を知らず犬はただ私を見ている 診察台で

豚汁のゴボウになってこんにゃくとケンカするほどきみがだいすき

「俺一番愛されてんだぜ母ちゃんはもうじき人をやめるんだって」

泣きながらミンチを炒めるわたしへと近づいてくる ふらつきながら

点滴にゆっくり閉じる黒い目は小さな小さな私の宇宙

彼方へと尖った冬の口笛が鼻と耳腔を貫いていく

「ボウちゃんと額をつけて眠りゆくラムネのような日を大切に」

桃色の坂道 かけぬけるバイク はじめての風 あなたのにおい

霧雨は我ら二匹を包み込み犬は再び頭を上げた

満開の桜のなかでぶら下がる子グモになってきみを守るよ

吸う 吐く を繰り返してるきみを見る私は地上の楽園にいる

痙攣に震える身体を抱きながら梅田の夜景がやたらに近い

「やくそくよ虹の橋を渡るなら必ず私も連れていってね」

須磨海岸太陽の塔蜻蛉池土支田の畑 七年の夢

二週間開けないままのゴミ箱に君が残した最後のうんち

「どこにでも行ける扉があったってもう要らないね」

大晦日のお寺の鐘に変身し遠吠えするほどあなたを叫ぶ

紺碧の空を砕いて火を点けて私も入ろう小さな炉口

「今ボクらがポンペイの火に巻かれたら犬人間と人は言うよね」

かぎろいの春の夕べの空高くひとりで君は眠るのだろう

南天がホロホロ泣いてん南天がホロホロホロロン泣いてんてって

肉球で花をふみふみ駆けてきた君が薫るよキンモクセイに


愛してるよ、ボウちゃん!

じゃあまたね👋
今、ここが天国。