幾万の鳥
寝坊した朝の8時15分時計の鳩がしゃっくりをする
たくさんの「ままありがとう」の似顔絵が朝日を浴びる園舎にならぶ
イチゴほどの小さいハートが動いてたエコー画像の白黒のヒト
透明の袋を破り新聞に湿度の色を教えてやろう
電柱に生きた証を残さんと片足上げる痩せた老犬
母さんが切手のように剥ぎ取った一人が生まれるはずだった空
掛け違うボタンはいずれ固まって妊婦のわたしは徐々に膨らむ
野良猫が喉を鳴らしてかき寄せる誰かの落とした夕焼けボーロ
新聞に溢れる文字の明朝体 幼い妊婦と冷たい海の
園庭の楠の木たちに守られて園児の黄色い帽子が笑う
廃棄物として運ばれたのだろう数センチだったわたしの兄も
紺碧の空を知らない鶏たちはわたしの口へ吸い込まれていく
産道の熱い銀河を突き切ってようこそここへ 寒いよ地球は
「殺処分」見出しにぎゅっと閉ざされて地中に眠る幾万の鳥
花束の白を波間へ投げ入れて小さなしぶき生まれて消える