フランク・シナトラで一枚と言われると迷わず指すのが『イン・ザ・ウィー・スモール・アワーズ』。これは数年前、ローリング・ストーン誌で《500 GREATEST ALBUMS OF ALL TIME》と銘打ったポピュラー・アルバム人気投票で見事に切りの良い100位を獲得した作品。ジャンルをジャズに限定してしまえばマイルスの《カインド・オブ・ブルー》に《ビッチェス・ブリュー》、それとコルトレーンの“至上の愛”に次ぐ4位で、ジャズ・ヴォーカルとなると堂々の1位だ。何がいいかって? まずはこのジャケットに尽きる。曲想との相性もピッタリ。シナトラにとって初めてのコンセプト・アルバムで、夜をイメージしたナンバーばかりを集めた作品。それも真夜中の微妙というべく午前3時に集中している。夜はまだ始まったばかりで、夜が明けるには随分と長くそんな時でもない。まだ夜が明けないで欲しいと願い、でもあれよあれよという間に暁を覚えるころとなる。
冒頭の「In The Wee Small Hours Of The Morning」はその刻に一番近く、往く時を思い起こしても逆らうことはむずかしい。1955年の録音なのでシナトラも若いはずなのに、この落ち着き払った立ち振舞いはどうだろう。歌というより語らいに近い。哀しい歌「Glad To Be Unhappy」の曲中に三度 ♪unhappy と語る箇所があるが、一度目より二度目、そして最後の最後に放つ ♪Unhappy がもっともアンハッピーとくる。シナトラが醸す情感のうつろいがこのほかうまい。ネルソン・リドル指揮、可愛らしいイントロに寄り添うようにシナトラが主題を語り始めるアレック・ワイルダー作「I'll Be Around」の決定的名唱がこれ。カーリー・サイモンのアルバム“トーチ”に入っている同曲と甲乙つけがたく、ようやく先程決着がついた。決め手は女性の気持ちを綴った歌を男であるシナトラが<君のいってること よくわかったよ ありがとう>って気持ちを込めて歌った点だ。最後は真夜中に相応しく孤独感たっぷりしっとりと語る「This Love Of Mine」でしめくくる。
春睡な朧夜も、夜半の夏も、星飛ぶ秋の夜も、オリオンやスバル、シリウスもが冴ゆる冬の夜だって午前3時には。
-NO.538-
【北野工房のまち】
神戸で日本発祥となるとゴルフに映画、そしてマッチ製造もそう。この北野工房のまちの2Fには日本燐寸工業会公認のショップがあり、懐かしい和洋マッチから災害グッズまでところ狭しと並んでいる。気に入ったのはこの建物。旧北野小学校校舎を再利用。階段踊場にあるステンドグラスがお気に入り。